訪れた敵
案内された家で体を休め、気力を回復した私たちが呼び出されたのは翌日の早朝であった。
空を覆い尽くすほどの巨鳥。それの先頭に立つのは空飛ぶ獅子だ。
鷲の翼を生やした獅子は四足で走るように空を駆け回っている。
「ふうん。あれが敵みたいね」
「あの位置だと矢は届かない。木々でこっちの状況が見えてるとは思えないけど、隊列を整えてるから襲われたらこの辺りが根こそぎ破壊されそう」
「自爆特攻。確かにあるわね」
あれだけの数が揃っている。
正直な話をすれば私たちが戦線に加わったところでほとんど変わることはないだろう。森を守るなんて無理だ。一気に襲われたら話にならない。
ミィに頼んで撹乱することも考えはしたが、それをしたところで焼け石に水。空を覆い尽くすほどの数を一人で相手にしていてはミィの命が危うくなる。
無茶はさせられない。だけど、無茶しないと切り抜けられそうにない。
「うにゅ。昨日より高いから届かない〜」
「そもそも無理できないわけね。さて、どうしましょうかね」
ルナ姉が牽制で数発撃ってはいるがそれも当たった気配はない。当たっても効いてない可能性すらある。火力が足りないのであれば大型の銃が必要になってくるけど、その場合は弾切れの心配が出てくる。
リソースも足りない。攻撃も届かない。
どうしろと言うのだろうか。
「こんな時、シフィがいれば······って、そう言えばシフィはどこ行ったの!?」
「ずっと居なかったのに気づいてなかったの?」
「静かだな〜とは思ってたけど。そのうちひょっこり出てくるのがシフィだし」
「うにゅ? シフィならずっと居るよ?」
「どこに?」
「あっそこ〜」
指差すのは一際大きな樹。
村の中心に立つその巨樹は、他のツリーハウスに守られるかのように見えた。
明らかに大事だと言うように周囲には柵が作られて、中に入れないようになっている。
どこにいるのか。目を凝らして見れば、葉と葉の間で追いかけっこしながら遊んでいるのが確認できた。
呑気なものである。これから戦場になる場所で遊び呆けるなんて。
「信頼があるから。なのかな?」
「そうね。むしろ、あそこに集まっている妖精が怯えないようにしてるんじゃないのかしら?」
「え〜シフィにそんな気遣いできるの?」
「さぁ?」
顔を突き合わせて笑う。
空を見上げて眉間にシワを寄せるよりもずっといい。思いっきり笑い。気持ちを切り替える。
「さて。そろそろ展開できたみたい」
「そうね。わたしはやれることをやるわ。二人もお願い」
「は〜い」
「うん」
一度バラける。
私はシフィの方へ。
ルナ姉は狙撃できそうなポイントへ。
そしてミィは、空へ。
それぞれの戦場にて、戦いが始まる。




