村長の対応
「うわぁ」
目の前に広がる光景に口をポカンと開く。
森人の村には何度か行ったことがある。だけど、こんな光景は見たことがなかった。
「ウッドツリーね。大分森の中に侵食してるけど、これを許してるってことなのかしら」
「うにゅ〜あれだけ森を大事にしてるのに木を傷つけるのはありなんだ〜」
「どちらかと言えば、木を切らないために木に家を作ってるんでしょうね。必要な素材は悪くなった木から拝借したんでしょう」
「こっちだ」
案内役は指揮官をしていたアレドークと名乗った人だ。横柄な話し方をするが、私たちをちゃんと案内してくれる。約束は守るタイプのようだ。
口だけの約束を守らない人は多いので助かった。
迦楼羅などの都市以外では圧倒的に少数の唯人は常に足元見られる。過去の実績が大きな影響を持っている。悪を犯した者は悪になる。認識として、私たちは悪者とされる。
だからこそ、その理不尽に押し潰されない力が必要だった。理不尽に抗う方法が求められた。
「ここだ」
一際大きい木を家に仕立ててある。明らかに村長宅ですと主張するその家の扉をノックする。「入れ」と中から聞こえる声は若い。
村長と言うからもっと嗄れているかと思ったが、少し前に会ったルーシャンさんと変わらない。ただ、アレドークさんよりも貫禄を扉越しでも感じられた。
前の村とは違うと強くイメージさせる。
大きく息を吸い込んでから中に入る。覚悟はできている。後はやれることをするだけだ。
「よく来た。歓迎はできないがな」
床に座り胡座をかいた姿勢でこちらを一瞥する和装の男性。
服は違うが、その見た目には近視感を覚える。
確か。
「ルーシャン、さん?」
「ルー兄を知っている。のか?」
「少し会った程度です。兄弟。ですか?」
ポツリと呟いた言葉が聞こえてしまったのだろう。目を見開いて驚いている。
私の言葉なんて耳に入らないと思っていたから意外だ。 アレドークさんには思いっきり無視されてた。だから、ここの村人は純粋な唯人である私のことは居ないものとして見てると思っていたのだ。
「兄弟ではない。昔にお世話になった程度だ。しかし、兄として慕う程度の間柄ではある」
「そう、ですか」
「元気そうだったかね?」
「はっはい」
会話が続くことが違和感でしかない。
朗らかな笑みを浮かべる村長さんのことを信用できないのは、今までの経験があるせいだろう。変な固定概念が私の中にあることを理解し、弾き出すために頬を叩いた。
「そうか。それはよかった。我はメルキオール。この村の長をしている。君たちは?」
「私、紗雪と言います。後ろの二人はルナマールとミィです。私たちは森を抜けるために入っただけで、決してこの森に害を為すつもりはーー」
「そのことはいい。君たちがアレをどうにかした。その事実だけで十分だ」
「どういう。ことですか?」
「木々が騒いでいる。強い敵が迫っている。と。アレらは先遣部隊だ。こちらの戦力を計りにきていた」
「それと、わたしたちがここに連れてこられたのとなんの関係があるのかしら。もしかして、その敵と戦え。なんて言うんじゃないでしょうね?」
「そうだ。森を壊した代償として、君たちを戦力として組み込みたい。木々も、それを望んでいる」
ルナ姉が舌打ちで返答する。
木々の声が聞こえるのなら、ルナ姉にも同じことを言っている可能性がある。それを黙っていたのは関わらないようにするためなのだろう。
ルーシャンさんも関わらないようにと言っていたし、あまりメルキオールさん以外にいい印象を抱いていない。
侮蔑のこもった瞳をずっと向けられ続けたのだ。それで印象良くなるわけはない。
「森は君たちを出さないようにしていた。そのことは理解できるだろう?」
「確かに、道はなかったです。ですけど、切り開けば道は作れます」
「それを、許すと?」
恐ろしく低い声。
朗らかな印象が一瞬で消し飛ぶほどの圧に体が震える。
事故ではなく故意に切り開くのはダメということなのだろう。
木々が密集しすぎているから少しくらい伐採すればいいのにとは思うけど、そうしない。できない理由があるのかもしれない。
「許されないから。こうして面通りしてるのよ。妹を脅すのは止めてもらえるかしら?」
「仕方ないだろう。我らの尊厳を土足で踏みにじろうとするのを見過ごせない」
「そう」
やれやれと首を振る。
あの威圧感の中でも動じないルナ姉の強さに感服する。
精進しないといけない。
学べることは全部学ばないと。