森人の村へ
止めてくれ。
その一言が出た瞬間にはルナ姉は空に向けて発砲する。
タッンと軽い音が聞こえると同時に巨鳥に乗りながら地上に降りてくるミィ。
空を見上げれば、まだまだ残ってはいるけれどそれらは威嚇だけで襲ってくることはなく。しばらく鳴いたらどこかへと飛んで行った。負け惜しみのようなものだったのだろう。
「スムーズに降りられたのね」
「うん。空の散歩楽しかったよ〜」
「あれを散歩って言えるのはミィくらいだよ」
ざっと見てみるけど怪我をしている様子はない。先遣隊みたいなものだったのだろう。
なら、ここまでやれば次は本丸が襲ってくる?
森人のみんながそれに対応するのは大変そうだけど、私たちには関係のない話だろう。森を抜けて自由を得る。安全が保障されたのなら新しい目的地でも考えながらまた馬車の旅だ。
「謝罪の言葉もなしか」
「あら。謝罪が必要かしら? 困ってたんでしょ」
「困ってなどいない」
「そうかしら。動かなければ少なくとも、犠牲は出たでしょう?」
「それはそれで誇りとなる。森を守った誇りを胸に天へと上がるのだ」
「くだらないわね」
切って捨てる。
それはそうだ。森を守るために命を投げ捨てるなんて馬鹿げている。
それを強要しようとする人たちがこの森にいるのだと思うとものすごく怖い。
森を守るために血を流させようとしなかった判断をしたり、考え方が森に直結しているように見える。外にいた私たちからしたら異質ではあるものの。ずっとそうやって教わっていたのであればそれが常識となっているのだろう。
凝り固まった常識は、平気で周りを傷つける。
「そんなものに巻き込まれたくないわ。早く森の外へ行きたいのだけれど」
「無理だ。貴様らはこれから村へと来てもらう。そこで、村長に判断を仰ぐ」
「何言ってるのかしら。この惨状が問題なのだとしたら、あなたたちだけで何とかできるようにしておくべきだったのよ。届きもしない武器で遊んでて被害が起こったら他人に投げる。酷い話よ」
「こっちに来い」
有無を言わさずに歩き出す。
何を言っても無駄だと悟ったのだろう。ルナ姉は私たちにもついて行くように指示を出してくる。
コルトと馬車を回収して後に続く。
森人の村。閉鎖的で危険なイメージしか湧いてこない。
村にいた森人よりもここの人たちが危険そうに見えるからそう思えるのだろう。
私たちは幸せな環境で育ったのだと。強く感じる。
取り戻したい。
胸に誓いを立てながら、深い森を進んでいく。