来襲
空を覆い尽くすほどに飛び回るその鳥がなぜ現れたのか理解できなかった。
いつ襲ってくるかも分からない状態で呆然と立つわけにもいかず、慌てて木々でガードできる位置までコルトと馬車を移動させ、草むらに隠れる。
威嚇するようにこちらに向けて鳴き声をあげている。それに対して森人たちは弓で射る。
元々そのための武器なのだろう。私たちを警戒するために使うにはオーバースペックだとは思ったが、魔物のためなら納得だ。
とはいえ、状況の把握はしなければならない。
ルナ姉は何か知ってそうであったが、視線を向ければ顔を横に振る。
全容を把握しているのではなく。何らかの兆候が見えたから可能性としてこうなることを予測していたのか。
となると、聞くべきは対応している森人の誰かだけど······答えてくれるとは思えないんだよなぁ。
「近づいてこないから矢が届いてないね」
「威嚇のためにしては数も多いわね。逆鱗に触れるようなことでもしたのかしら?」
「でもさ。そうだとしたらもっと襲ってこない? それに、進度が高そうなのも気になる」
進度はそう簡単には上がらない。
あの狼たちを見てたら進度の上昇率がバグりそうではあるけど、討伐をしっかりとしていれば早々上がることない。それは、前の村で嫌というほど分かる。進度がポンポン上がるのであれば、狼たち相手にあんなに被害を出すことはなかった。
それに、高い進度の魔物がいるところには高確率で機械兵が押し寄せる。
どうやって見つけているのかは不明だが、機械兵が来るところには進度の高い魔物が居て、それを倒した報酬であるかのように村が潰される。
同じ唯人として恥ずかしい限りだ。それだけの暴挙をしてなお正義だと信じている人たちがいることが。
しっかりと観察しながら、大きく息を吐いた。
覚悟の決め時なのかもしれない。送り出す覚悟。
「ミィ行ける?」
「だいじょーぶ。まっかせて」
屈伸運動をしてから決めポーズ。言い方は軽いけれど、私以上に覚悟はできている様子に感謝しかない。
背中を押して送り出す。
無事に帰ってくるように。それだけが願いだ。
「ルナ姉。私たちも動こう」
「あら、何をするのかしら? わたしはここで援護射撃でもするのかと思ってたけど」
「その必要はないよ。そういうのは狙えるようになったら勝手にやってくれるはず。敵を前にしていがみ合うなんて馬鹿らしいことはしない。それに」
「それに?」
「ミィに当てられるなんて、本気で思ってるの?」
「それもそうね」
肩を竦めて同意してくれる。
ミィの危機察知能力の高さを評価しているのだ。後ろに目があるのではと思うほどの回避力を持っている。ルナ姉の早撃ちすらも軽く回避できる技量なのだ。銃よりも遅い矢を避けるのなんて手を上げるよりも簡単なことだろう。
上の対処をしなくてもいいなら、やるべきは生存する未来を確立させることだ。
森人たちから命を狙われないようにする。
それが、私たちのやるべきことだ。




