行き先
「弓を下ろせ」
号令に対し、渋々といった様子で彼らは従う。
射殺すつもりだっただろうに、血をばら撒かれるのを拒否する姿勢には疑問が浮かぶ。
だが、ルナ姉はこれが当然であるかのように短剣を返してくる。
「分かってたの?」
「ええ。彼らの矢を理解すれば容易いわ。神聖な森に穢れを出したくない気持ちもね」
鋭い鏃に見えた。
私たちの肌どころか骨にさえ穴を開けるのではと思うほどに鋭いそれで私たちを攻撃すれば同じ結果になったはずだ。
「時間稼ぎにしかならないわ。打開策考えるわよ」
「森が神聖ってことは、そういうことだよね?」
「ええ」
森から追い出して射抜く。
例え、馬車を走らせたとしても乗り込む隙をついて一人は確実に傷を負わせることだろう。
そうなってしまえば今後の旅に支障をきたす。
その未来回避のためにできることを考えようということだろう。
森人の一人でこの集団のリーダーらしき人が私たちの前に姿を現す。
苦虫を噛み潰したように嫌そうな顔をしてから、特に何を言うことなく顎でこっちだと指示してくる。
あの無防備な背中に一発入れたら形勢逆転しそうではあるけれど、ルナ姉は準備もせずに「いきましょう」とコルトの手綱を引いた。
何か策があるのか、それとも私に丸投げなのか、今の段階では判断できない。
隣まで急いで移動し、辺りを見回す。
「狙うのを全員止めたわけじゃない?」
「不審な動きをしたら射られるわね。ただし、狙いはわたしたちではないわ」
「うん」
狙いはコルトだ。そのことを敏感に察しているのか機嫌が悪い。無理にでも引かないと暴れだしそうだ。
ここで停止すれば馬車を無理矢理にでも外して狭い森の中を駆けていきそうだ。
頭がいいからこそ、不利益になりそうなことをしないで大人しくしてくれる。本当にいい子だ。
「これからどうするの?」
「さぁ。でも、事態はそこまで悪くないと思うわ。ミィは何か感じない?」
「うにゅ?」
話を振られて首を傾げる。
明らかに自分のターンはこないと思っていた状態だ。言われてから耳をピコピコと揺らしてから辺りを注意深く見回す。
「森が、変?」
「どういうこと?」
「んにゅそれ以上は分からない。なんか、住んでたとこの森と違うの」
「そりゃ違うでしょうよ」
森だからと一括りにはできない。
場所が違えば変化は必ずある。木や草が大量にあれば森になるわけではないのだ。
「来るよ!」
開けた場所。空が見えるところに差し掛かったところで、突然ミィは叫ぶ。
バサバサと空へと一斉に何かが飛翔した。
それらは大量の鳥。だが、大きさが異様に大きい。それこそ、私たちとそんなに変わらないサイズの鳥が空に向かって飛び上がる。
何かが起こった。そう思った時、ニヤリとルナ姉の口角が上がった。