ルナマールと森の状況
『う〜ん。森はやっぱりいい。最高〜気持ちいい』
「結界内にまで森が侵食してるのね。魔物ではないから弾かない。強靭な生命力だわ」
遺跡から少し離れているのに結界が続いている。相当大きく作成されている。ここに村を作れば······なんて思いもするけれど、遺跡を気味悪がる人も居るので難しいことか。
ここにわざわざ武器を取りに来ていたなんてほんと物好きである。なんのためだったのか聞いておきたかった。
「それで、散策の理由はあるのかしら?」
『まぁね〜ほら、ここって森人の村が近いじゃない? ちょ〜っと様子見も必要かなって』
「結界の外に出る気はないわよ?」
『うんうん。分かってる分かってる〜』
本当に分かってるのか不明な声音であっちへフラフラこっちへフラフラ。木に触れたり枝にぶら下がったり自由気ままだ。
わたしも気になることがあるので辺りを伺いながら木に手を置いた。
聞こえる声はか細く。集中しても言葉として伝わってこない。
純粋な森人であれば、こんなことはないのだろう。けど、わたしには半分しかその血が流れていない。森人としてできることは制限されている。
それを悔しいと感じるのは、身近に純血よりも凄いことをしてのける子がいるからだろう。それも、義妹なのだ。負けないようにしないといけない。
尊敬されるような姉でなければ、あの子に失望感を与えてしまう。
そうならないように見栄を張ってはいても、力がない現実は塗り替えることができない。
「困るわよね」
『な〜にが?』
「なんでもないわよ。それで、そっちは何か分かったの?」
『ん〜村のほうがちょっと騒がしそう。何人か妖精に話を聞けたけどさ。あんまりいい噂ないな〜って』
「あら。世界樹があるはずだし、妖精の溜まり場として人気になるんじゃないのかしら?」
『それがそうでもないみたい』
世界樹。森人の村にある妖精の集まる巨木は、森人の信仰を支えるものだ。
世界樹信仰は各地であり、世界樹を通じて妖精から力を借りる。
姿は見えなくとも声を聞ける人は多いので、お願いして特別な力を使って生活をするのは森人の常だ。
木から情報を得るのも、妖精が教えてくれると言う人もいる。真偽は定かではないけど、妖精の見えるわたしからしたら別の力であることは説として有力だ。
『な〜んか。きな臭い雰囲気になってるんだよね』
「迂回ルートがいいのかしらね」
『近づきたくはないね。他にも、なんか動きがあるみたい』
「そう」
飛ぶのが疲れたのか、わたしの肩で休憩を始めるシフィ。村を出る時にはこんな風になるなんて思いもしなかった。
アリサの村で戦った狼たちのようなことがここでも起きると言うのなら、気をつけた方がいい。
先を急ぐ旅。悠長にはしていられない。
「とはいえ、だけどね」
『な〜にが?』
「こっちの話よ」
時間はわたしたちの事情を無視して止まることなく進んでいく。
みんな、無事だといいけれどーー




