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ルナマールと左の道

 左の道を歩く。

 廊下は窓から入る光でランタンがなくとも歩くことができるけれど、小部屋は真っ暗だった。窓が封鎖されていてドアからしか光が入らないからだ。ランタン片手に中を一つずつ確認していく。

 ガランとした部屋の中。寝具はおろか机すらない部屋もある。部屋の中をよくよく散策してみれば、壁に弾痕があり、襲われたのかもしれないと知らせてくれる。


「終末戦争の名残なのかしらね」

「色々なところに穴開いてるね。変な色は壁紙じゃないのかな?」

「さあ、どうなのかしらね」

 

 あまり詮索しても意味がない。ここで惨劇が起こっていたとしてもわたしたちのやることは何も変わらないのだ。

 武器を探し、情報を手に入れる。それだけだ。


 小部屋を散策した後、残っていたのは大きな部屋。


「お風呂だ~」

「そうね。浴槽だけがあるわね。となると、この前にあった部屋は脱衣所になるのかしらね」

「きったな~い」

「掃除もされてないでしょうしね。水も張れないでしょう」

「蛇口回しても水でない~あっ壊れた」


 壊れた蛇口をこっちに見せてくる。明らかに錆びているので普通では動かなかったはずなのによく動かしたものだ。魔女様の歴史の授業で出ててたけど、これを回すだけで水が出てた時代があったなんて今では考えられない。

 ミィのバカ力にはいつも驚かされる。


「まっ別にいいでしょう。どうせ、ここを使うことはないでしょうしね」

 

 蛇口を受け取り浴槽に投げ込む。小気味よい音と共に破砕したそれを見ることもなく背を向ける。


「ここに用はないわね。戻りましょうか」

「いいの?」

「何かあるのかしら」

「ん~変な臭いするの」

「そう」


 短銃を取り出し、臨戦態勢をとる。

 ミィが変な臭いがすると言うならば友好的な相手でない可能性がある。

 いきなり敵対するのは間違っているのかもしれないが、先制で攻撃されて傷を負えばその後の展開を不利に迎えることになる。


「近い?」

「そこ!」


 いつ掴んだのか、タイルを虚空に向かって投げる。

 割れた窓の先に飛んで行ったそれは木々にぶつかって変な音を立てる。


「おいおい。いきなりすぎんか?」

「隠れてた人に言われたくないけど?」

「バレなきゃそのままおさらばしてたさ」


 木の陰から出てきたのは豹のようにすらりとした体躯の男だ。黒い体と黒い服で完全に影に紛れていたのが分かる。

 ネコ科特有の瞳を細めながら少しずつこっちに歩み寄り、窓枠のところで足を止めた。

 

「しかし、ここで姫さんに会うとは思わなかったよ」

「知り合いなの?」

「みぃ?」


 知らないと言うように首を傾げられてしまう。

 姫さんと呼んでいたので知り合いなのかと思ったが違うみたいだ。

 ただ、ミィの知り合いではないとしても獣王に近しい人であることは確かだ。そうでなければ、姫さんとは呼ばない。


「一応会ったことはあるが、記憶にも留めちゃいないか」

「みぃ」

「落ち込む必要はないぜ。俺はバート。セオドア様の部下だ」

「お父さんの、部下?」

「あら? ミィのお父さんって生きてたの?」

「勝手に殺すなよ!」


 ミィが話したがらないから亡くなったものだと思ってた。盛大な争いがあり、ミィを逃がすのに大量の犠牲があったことは魔女様から聞いてはいたが、何があったのかまでは聞いてはいない。話したくないことを無理矢理に聞き出す必要はないと紗雪さゆきと相談して決めたのだ。


「あの方の立場は悪くなったが生きている。実力はあるお方だからな」

「ふ~ん」

「興味なさそうね」

「だってだって、お父さんだし」

「なによその理由」


 信頼なのか、本当にどうでもいいと思っているのかミィの言い方では読み切れない。

 ともかく、相手の素性は分かった。その情報を鵜呑みにするのは危険ではあるけれど、敵意がないことは立ち振る舞いで分かる。

 

「それで、その部下さんがこんな辺鄙なところに何の用かしら?」

「ちょっとした任務の為。としか言えないな」

「ふ~ん」

「本当に興味なさそうね」

 

 ミィが完全に興味をなくしてタイルで遊び始めた。分野としてはミィが専門であるはずなのにこの興味のなさはさすがとしか言いようがない。

 この状況に飽きているのがよく分かる。自身の親が関わっている話なのに、なんでここまで興味をなくせるのか不思議でしかない。


「姫さんはいつもそうだな。ほんと、こういう話は嫌いだ」 

「ミィは内容を知ってるってことかしら?」

「多分知らねえよ。姫さんにとってはどうでもいい話なんだよ。俺たちの理想なんてよ」

「うん。ミィはどうでもいいよ。どうせ、何しても変わらないでしょ?」

「痛いとこ突くね。まぁそれでもあがくのが大人ってもんだ」

 

 大人の世界は大変ね。

 ダメだと分かっていても突撃するしかないのは本気で同情しかない。とは言え、この間の狼戦はまさにそれだった。短い可能性の糸を手繰ってようやく勝利した。歯車が一つでも欠けていれば全滅していたことだろう。戦ったみんなが頑張ったからこそ未来を掴んだ。

 それを考えたら下手なことは言えない。

 口元を隠して笑みを浮かべる。


「まっそういうわけだから、俺のことは胸に仕舞っていてくれや。秘密の任務だからな」

「秘密なら、最初から出てこなければよかったのに」

「姫さんの鼻を誤魔化せるわけがないんだよ。ちょっとした違和感から発見されるなんてプロとしての自信なくすぜ」

「まあ、ミィだもの」


 肩をすくめられる。

 否定はしないようだ。


「森人の嬢ちゃん。姫さんのことは任せるわ。今は、な」

「まるで迎えに来るみたいな言い方ね」

「さあな」


 背中を向けてそのまま森へと飛んでいく。

 短銃を仕舞い、タイルで遊ぶミィの肩を叩いて玄関まで戻る。

 何をしていたのかは知らないけれど、わたしたちのやるべきことをやるのだ。

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