エピローグ
「迷惑かけたわね」
「こちらこそ。すいません」
あれから私たちの怪我が癒えるまでの数日。村に留まらせてもらうことになった。
ちょっとした狼退治のはずが酷いことになってしまった。ルナ姉の怪我も落ち着き、私やミィの傷が癒えたくらいでようやく出発する運びとなった。
ボスを倒した後、色々なことがあった。ミィが一人で五体もの子供たちを討伐していたり、隠れていた人たちからの批難をルナ姉が一喝で黙らせたり、片付けや結界の張り直しなど、様々だ。
見送りに来てくれたのはアイサさんとアネットさん。他にも来たいと言ってくれた人はいたけれど、怪我が完治してないため、今は安静にしている。私を守ってくれた彼らには何度もお礼したことか。
「結界。無事に貼れてよかった」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
ボスによって破壊された結界。魔術陣がぐちゃぐちゃになっていたのを整理し、元の姿に戻した。私だけではそれを起動させられないはずだったのだが、元々の力は残されていたのだろう。元に戻ったらちゃんと起動した。失った魔物も多かったが、新たに連れてきた魔物たちが成長すれば戦力の穴埋めにはなるだろう。帰ってこない現実は、変わらないのだけど······
「ねぇねぇ。これ貰ってもいいの?」
「ジンが、みんながあなたたちにって作った物だから、貰ってよ。ここにあっても、意味ないしね」
「ユニコ······ううん。コルトまで連れてっていいの?」
「はい。ついて行きたいと、彼が要望を出したのです」
ミィが本当にいいのかなぁと見上げるのは立派な馬車だ。はるか昔は主要な交通手段の一つであったらしいが、道らしい道が整備されていない今となっては無用の長物。馬車と言うのに引くべき馬が魔物しかいないので一般的に使えないというのもある。
馬車を引くのは、私の枕になってくれたユニコだ。コルトと言う名前で呼ばれているようで、せっかくなのでその名前がこの子の名前となった。
馬車に繋がれたコルトは自分が呼ばれたことに気づいたのか嘶き、手を出すと顔を近づけてきた。
魔物であることを疑うレベルで人懐っこい。アイサさんが愛情を与え続けた結果なのだろう。
「目的地に辿り着くことを願ってます。もし、帰ってきたら寄ってください。その時は、きっと今よりも盛大におもてなしをします」
「楽しみにしてるわ」
たくさんの犠牲を出した。死が目の前まで迫っていてもおかしくない極限状態を経験したにも関わらず、二人の目は死んでいない。未来を見つめていた。強くあろうと、心に刻んだのだろう。私たちと同じように。
「じゃあ、そろそろ」
「あっ最後に一つ。お願いを――」
踵を返したところで、アイサさんが呼び止める。
何? と振り返ったのはルナ姉だ。対応は一人でいいかなと考えて、馬車の中を覗き込む。すでにシフィが大の字で眠っていた。荷物は昨日のうちに詰め込んであり、ここの中で眠れるように広く作ってある。
小さな家とも言える馬車を作ってくれたことには感謝しかない。これで移動がかなり楽になる。
ジンさんたちが何を考えてこれをミィに送ろうとしたのかは今でも分からない。お礼だとアネットさんは言っていたけれど、ミィの話を聞く限りだとこんなお礼をされるようなことはしていないそうだ。
「あの。旅の途中にきゅーちゃんを見かけたら、ここのことを教えてあげてくれませんか?」
「それはいいけど、わたしたちはそのきゅーちゃんを知らないわよ?」
「大丈夫です。コルトが知ってますから」
コルトが大きく嘶いた。
それが肯定であると判断したのか。ひらひらと手を振りながら馬車に乗り込む。
「あの、えっと······いえ、よき、旅路を」
「そっちこそ。素敵な村にしなさいね。きゅーちゃんに関しては、保証はしないわ」
「はい」
コルトに指示を出し、二人に見送られながら村を出る。
旅はまだまだ始まったばかり。危険しかないこの世界で、私たちはみんなを救えるのか。そもそも迦楼羅に辿り着けるのか。
その答えは、道の先にしかないのだった。
これで第一章は終わりになります。
第二章は鋭意執筆中なので公開までお待ちください