幕を降ろすために
目を開いた。
後ろにある柔らかさに視線を向ければ、ユニコが枕になってくれていた。
ありがとうと感謝を述べてから軽く撫でる。
少し眠ったお陰か回復できている。とは言え、流れ出た血が戻ったわけでも、止まったわけでもない。フラフラする頭を抑えながら立ち上がる。
土煙は晴れていた。矢が飛び、掛け声と悲鳴が聞こえた。
「今、どんな状況?」
『ルナたちが頑張ってる。とは言え、ルナ以外の動きは酷いな〜騎乗してる魔物いなければもう全滅してたかも』
「そっか。まだ、間に合うんだね」
全滅しているわけではない。なら、道は途切れていない。
「準備。お願い」
『はいはい』
パンパンと手を叩く。その音を聞きながら私は駆け出す。矢を射るルナ姉。前線に来てくれていたことに感謝しながら、通り過ぎざまに目配せする。近くにはちゃんとメイン装備も準備しているので任せても大丈夫だ。
多分最後のチャンスになる。
この一撃に全てを賭けるつもりなので、振り切った後に私自身がどうなるのか分からないのだ。
「下がりなさい。紗雪の邪魔したら許さないから」
援護射撃を受けながら、離れていくみんなの姿を確認する。
全滅していないと言うだけでダメージはみんな受けている。恐怖を押し殺したような表情をしながら私に視線を向ける。
時間稼ぎありがとうと小さく頷き、ボスの間合いに足を踏み入れる。
振り下ろされる拳の速度が先程とは段違いに速い。気力を振り絞っているのがよく分かる。
ルナ姉の放った矢なんて振られる拳の風圧であっちゃこっちゃに飛んでいく。それをシフィの指示で回避しながら自らの間合いに一歩ずつ踏み入れていく。
暴風を思わせる攻撃。足に力を溜めていることは容易に見て取れた。さっきと同じことをするつもりだと判断する。
ボスも分かっているのだ。さっきの行動が一番ダメージを与えたということを。だけど、降ってくるボスも無傷では無いはずだ。治りきっていない肉の部分から血が滲み出ているのが確認できる。
向こうも命懸けだ。私を、ルナ姉を殺して復讐するための力をつけるつもり満々である。同じ復讐を考えているのに、なんで道が交わらないのかと思えてしまうほどだ。
別の形で会えたら、違ったのかな?
笑みを零し、シフィにお願いする。
『ノマ。出番!』
姿は見えない。だけど、現象は起こった。地面がせり上がり、ボスの足をガッチリと捕まえる。
シフィの準備は無駄にならなかった。土を操れる妖精にお願いしていたシフィに感謝しながら、最後の一歩を踏み込んで短剣を振るう。
風に押され、先程から狙っている傷に沿うように斬り裂いていく。
縦横無尽に生えて壁となっている毛を避け、肉だけを斬る一撃に、血の雨が降る。
「ユル、サナイ。タスケ。アア、アア」
力を振り絞り、体が傾いていく。
拳が振り上げられている。あれが落ちてくれば私の体はぐちゃぐちゃになりそうだ。
パンッ。
幕を下ろす破裂音が鳴り響く。
拘束が解かれ、地鳴りのような轟音を立てながら倒れるボス。
それを確認してから、私は意識を手放したーー




