表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/77

追撃

「ーーーーーーー」


言葉にならない絶叫。咆哮のようなその叫びを前にしても私は足を止めない。

空気の振動であればシフィが緩和してくれる。だからこそ恐れることなく前に進めた。

一歩。二歩。ステップのような移動法で距離を一気に詰める。

狙いは一点。撃ち込まれた弾丸だけだ。


「はっ!」


掛け声と共に突き出した短剣は毛皮を避けて中に吸い込まれていく。

傷口は他と違って毛の量が薄く狙い所であった。


「ーーーーーー」


叫びをあげながら縦横無尽に腕を振り出すボスから距離を取るために股の間を前転で通り抜け、尻尾が振り落とされるのをサイドステップで回避して距離を取る。


一回でも攻撃を受けたら危険だ。できる限り距離を取り、詰める時は一気に詰める。


集中はしっかりできていた。ボスの動きを見ながら次の攻撃を予測し、それに対処していく。頭に血が上っているボスの動きは手に取るように読めた。速度こそあれど、初動が見えていれば避けることは容易い。そういう訓練を積んできたのだ。

疲れてくれば、傷が広がれば、もっとチャンスは広がる。ルナ姉の追撃が命を刈り取る。だから、今はーー


「えっ?」


飛び上がった。

ボスの動きは読めた。だけど、その真意までは汲み取れない。逃げるのか、ルナ姉に対する攻撃なのか、ここにきての新しい攻撃なのか。いくつもの選択肢が浮かぶ中、私が選択したのは全力の回避行動だ。

落下地点の計測と状況の把握はシフィに任せ、背中を向けて全力で走り出す。逃げる方向は村の外。中に逃げれば被害が広がりかねない。


『きた。もっと速度上げて。上にいる』

「ああああああああぁぁぁ」


空中で軌道修正しながら踏みつけにくるなんて反則技としか思えない。だけど、それを平然とやってくるのが魔物だ。対応できない方が悪いのである。だから、どんなことにでも対応できるように訓練するし、努力を重ねる。


ズンッと大きな衝撃と共に私の体は空中に投げ出された。

走っていた体勢のまま衝撃に吹き飛ばされ、地面に転がる。整備されていないために大小様々な石が私の体に傷をつけていく。

ようやく止まった時には体中から血を流していた。殴られなかっただけマシだが、今追撃を受ければ間違いなく終わる。


「はぁはぁはぁ」


荒い息を吐き、目に入る血を拭いながらフラフラと立ち上がる。

土煙とダメージでボスの姿がまともに見えない。回復する時間が足りない。


『ーーーーーー』


近くで騒いでいるシフィの声すら上手く耳に入らない。さっきの衝撃でやられてしまったのかもしれない。踏み潰されたら全部外に出ていたことだろう。


でも、生きてる。生きているなら、まだ何とかできる道がある。


戦おう。


短剣を構え、痛む足を引きずって前を目指す。

歪む視界の中では、こっちがボスに向かう道なのか判断ができない。耳に届くのは自分の吐く呼吸音のみ。

自分の弱さが憎く思える。

ここにいたのがミィならばこんなことにならなかった。ルナ姉なら飛び上がる前に対処していたはずだ。

私だからこそ受けたダメージ。血が滲むほどに強く短剣を握る。こうでもしないと意識が飛びそうだった。


私は、まだ負ける訳にはいかない。


フラリと、体が揺れる。

柔らかい何かが私を支えた。

チラリとそっちを向けば、隣に何かが膝まづいている。


「ユニ、コの誰か?」

「ヒヒーン」


大きく鳴く声が体を通じて耳に入ってくる。


なんでこんなところに?

疑問よりも先に、足音が聞こえた。そこには獣人の姿があり、戦う意志を宿している。


休め。そういうように頬を舐めるユニコに体を預ける。

少しだけ。ほんの少しだけ休みをもらう。

ボスを倒すために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ