対峙
「うわぁ。ほんとにデンって待ってる」
『負けない自信があるみたいだけど、大丈夫?』
「ルナ姉任せ。だけど、これがある限りは負けたくない」
物陰から敵を見つめ、両手に装備した短剣を握りしめる。
魔女様にもらったこれを装備している間は加護がもらえている気分になる。自分よりも何倍も大きい相手ではあるけど不足はない。
「もしもの時は助力お願いね」
『準備はしてるけど、不発に終わっても知らないから』
「信じてる」
シフィの準備していることは道中で聞いた。上手くいくかは状況次第なので頼りきることはできなくとも切り札の一つとして見ることは可能だ。
足を負傷しているルナ姉もそろそろ準備ができている頃合いだろうか?
タイミングは魔物たちが動き出した瞬間だ。臭いで近づいていることはバレているはずだ。奇襲なんて決まるとは思っていない。
一瞬の死角を作って近づくためだ。
死兵になれと言って頷いてくれる人はいない。無事に生き残ってほしいと願いながらタイミングをーー
『逃げて!!』
「くっ」
バックステップで一気に距離を取る。
隠れていた物陰が一撃で叩き壊され、破片が辺りに散乱した。
それを行った本人はニヤリと笑いながら私を見つめる。
「オマエ、ツヨイ」
「言葉も分かるタイプ」
厄介だ。高い知能を有していることが分かる。魔物よりも獣人が近い。そこまで進度が上がってる個体は本当に珍しい。なんでここまで放置されてきたのか不思議なほどだ。
「タベル。ツヨクナル。ツマ。コドモ。タスケル」
「ごめんね。その願いは叶わない」
構えた短剣。
まだ間合いが遠いけれど、ここまで近くに来てくれれば見えてくるものがある。
未だに癒えてない多くの傷。それは、みんなが討伐しようと頑張った証。
邪魔さえされなければ、きっと何事もなく帰ってきていたことだろう。それを思えば胸が熱くなる。
機械兵。全てを狂わせた存在に対する強い怒り。彼らが派遣される意義を聞かされているからこそ、私は腸が煮えくり返る想いだ。
「あなたを倒して、この村の安全を!」
「タスケル。タスケル。アノコハーー」
振り下ろされる拳が開戦の合図となった。
大振りのそれは是非とも避けてくださいと言うくらいに大雑把で、とても思考して行われた攻撃とは思えなかった。
体を捻って避けながら前に飛ぶ。一足飛びに射程距離に迫れば、分厚い毛皮に向けて短剣を振るう。
ガンッ。
壁でも叩いたかのような感触と痺れ。弾かれた短剣を素早く戻して地面に伏せると頭上を拳が通り抜ける。
ヒヤリと背筋が冷たくなる。タイミングを誤れば私の体は木の葉のように宙を舞っていたことだろう。
毛だけであの硬さ鉄壁の防御と言える。それでいて一撃の破壊力のある爪や拳での攻撃。無敵の矛と盾を備えていると言える。
「でも」
その命は有限だ。そうでなければ傷はついていない。傷つけられるだけの力を持っていれば、勝てる可能性は充分にある。
私一人なら諦めなければならないけれど、そうではない。頼れる仲間がいるのだ。
立ち上がり、構えを取る。
遠くで聞こえる発砲音。
どこから飛んでくるのかは検討もつかないが、ルナ姉の狙う位置はすでに指示してある。
体を捻る。後ろから現れた弾丸は、先程私が切ろうとしたところに吸い込まれるように飛んでいき、赤い血を撒き散らす。
ダメージ量がそんなにない。最大火力の銃でも威力が足りていないのだ。
それでも牽制にはなったのか、ボスが後ろに下がる。
畳み掛ける。チャンスは無駄に出来ないのだからーー




