反撃
荷物を手に、部屋へと戻る。
途中でホルスたちの様子を見てきたが、確かに生きてはいた。角を折られ、足を傷つけられて動けないようにしてから食事を再開していたことから、他のを食べてから食べるつもりなのだろう。二体ほど、角でキャッチボールをしていたところを見るに暇しているのかもしれない。
シフィが住民のいる場所を教えてくれてはいたが、私はそれをスルーした。隠し扉であったり、地下であったりと隠れる場所がいくつもあったのだが、そこから外を伺う様子は見られず、諦めてこの災害が過ぎ去るのを待っているように感じられたので最初から声をかけないことにしたのだ。
被害者を増やす必要はない。
「どうだった?」
「あちこち酷かったね。暴れたんだなってよく分かった」
「そう。そうなの。わたしは遠距離専門だから近接戦闘は分が悪くてね。逃げるので手一杯になってしまったわ」
「アイサさんは、悔しかった?」
こくりと、首だけ動かしてくれた。
任された村長とはいえ、ここまでの被害が出てしまって何も感じないということはないか。私たちに依頼を出さなかったら起こらなかった惨劇。だけど、依頼を出さなければ近いうちに蹂躙されていたであろう未来を思えばまだマシなレベルなのだろう。
妖精の噂がどれだけ正しいのか、それを知る術はない。けれど、望んで嘘を言うような妖精はいない。イタズラをするために大切なことを言わないことはあっても、嘘で情報を曲解させることはしない。妖精というのは、そういう存在だ。
「それで、ミィは平気そうなの?」
『ん〜どうだろう。見た限りは平気そう。ただ、村からは離されてるかな』
「まだ投入できる戦力があるんだ」
『うんうん』
ミィの実力が一番高いことを見越して引き離しているのだろう。疲弊したところですり潰す作戦であることがよく分かる。
下手に探し回らず、立ちはだかる選択をしている理由もきっとあるのだろうけれど、それを調べる時間はない。指揮を取るボスさえ倒せば烏合の衆になる可能性はある。問題は二足歩行できる五体の子供たち。彼らが親を殺されてどう感じるか。復讐に身を焦がして襲ってくる場合。数の暴力で敗北も有り得る。
持ってきた短剣を握る手が震える。
勝てるの?
そんな問いかけが胸の奥からこぼれ落ちる。
進度はかなり高く。化け物の身体能力と人と同等の知能を併せ持った魔物と個人で対峙することなんて今までなかった。
強い魔物と戦うとしても後方支援。戦いに邪魔が入らないようにする露払いくらいだった。
『紗雪?』
「大丈夫。行こう」
「後ろは任せなさいな。せっかく持ってきてくれたんだし、有効に使ってみせるわ」
「弾はそれだけだけどね」
元々の手持ちが少なかったのはあるが、こうなってしまえば心許ない数だ。
無駄打ちなんて許されない量しかなくとも、ルナ姉は笑みを崩さない。
「あなたが諦めないならわたしが諦める道理はないわ。ふふ。活路を開きなさい」
「うん」
「わっわたしも、微力ながらお手伝いを。と言ってもユニコたちにお願いするくらいですけど······」
「それでも充分だよ」
短剣を握りしめて震えを止める。
私は一人なんかじゃない。頼れる人たちがそばに居てくれるのだ。
「シフィ。行こっか」
『はーい』
締まらない返事をするシフィと死地へと赴く。
さあ、反撃の時間だ。