合流。そして――
村へと駆け抜ける。
昨日まで過ごしたはずの光景はすでに崩壊している。
住宅として使っていた高い建物たちが半分崩壊していて、地面には瓦礫が転がっている。食べ残したと思われるパーツがあちこちに点在し、血の池がいくつもできていた。
平和だったはずの村の惨状に目を覆いたくなる。
「だけど、これで終わりじゃない」
奥歯を噛み締める。
まだ生き残りはいるはずだ。ルナ姉が何もせずに敗北を受け入れたなんて思いたくないし、先程の銃声が戦う意思を示していた。
ボスの居場所やこちらの戦力など不明瞭なことばかり。まずは合流しないことには話にならない。
『こっちよ』
「うん」
スっと姿を現して手招きをするシフィに導かれて、倒壊してもおかしくない建物の中に入っていく。半壊しているのにまだ立っていることに疑問はあれど、今は気にしている時ではない。
階段を昇り、上へ上へと音を立てないように急ぐ。
屋上にたどり着く少し下のところで階段から離れ、穴の空いた廊下を歩く。踏み外せば下の階まで真っ逆さまである。慎重にシフィの後に着いていけば、小さな部屋で立ち止まる。
中を覗けば、ヒラヒラと手を振るルナ姉とそれに寄り添うアイサさんの姿。
足に包帯を巻いたルナ姉に顔を青ざめながら近づく。
「ルナ姉。その足」
「大丈夫よ。大袈裟に巻いてるだけだもの。それより、ちゃんと辿り着いてよかったわ」
心配させないように笑みを浮かべているが、辛そうに顔を歪めることもあり、強がっているのが分かってしまう。
「ごめんなさい。わたしのせいで」
「気にしないで。わたしが勝手にやったことよ。それに、この村を助けると決めたのはわたしだもの。あれを断れば、こうはなってなかったわ」
「ルナ姉。後悔してる?」
「してないわ。後ろから追われていた可能性もあるのよ。なら、事前に戦っておくのが効率的よ」
噂話が本当であれば、狼たちと目的は同じになる。傷が完治し、戦力も十分になれば同じルートを通って迦楼羅に向かう可能性があり、歩きで旅をする私たちに追いつく可能性はありえた。
そこまで読んで助けることを選択したのであれば凄いことだけど、多分そこまで読んだわけではないだろう。
ここまでの戦力が出てくるのは想定外のはず。だからこそ、傷を負って被害を出した。
少なくとも、私は戦力確認を怠ったことを後悔している。人手がなく。夜に出るのは危険だったとしても、調べるべきことだった。あるいは、一日時間をズラしていればーーなんて考えるけど、可能性の世界なんて思考していても時間の無駄だ。今できることをやるしかないのだ。
「生き残りは、どのくらいなの?」
「少なくとも、ユニコやコケコたちは生き残ってます。他の村人に関しては、なんとも······」
「わたしたちも自分たちのことで手一杯だったのよ。魔物は感知できるみたいだけど、村人は無理だそうよ。むしろ、シフィの方が知ってるんじゃないかしら?」
『ひとっ飛びでさっき見たけど、半分くらいだと思うよ。色々なところに隠れてる〜逃げようにもボスが正面。他の子が牧場を押さえてるから逃げられないみたい』
「様子を見てるなら、戦力になるかな?」
「無理よ。肉壁にすらなりはしないわ。被害を広めるくらいなら、わたし達だけでやるべき。とはいえ、戦力が足りないわね」
「ミィは置いてきちゃったし、魔物たちも数がいない。さっきのホルスたちはどうなってるの?」
「生きてはいます。いますけどーー」
そういうことなのだろう。詳しくは聞く必要がなさそう。
ルナ姉の手元にはスナイパーが握られているけど、弾数そんなにないはず。もっと強力な銃を持っていたはずだけど、今はないのだろう。
「ルナ姉。銃があればボスを狙える?」
「無理無理。一度やったけど見てから余裕で避けられたわ」
「なら、隙を作るからそこに叩き込んでよ」
グッと伸びをする。
背中をルナ姉に預けられるなら安心して死地へと行ける。
「待ちなさい。何を言ってるのか分かってるの?」
「うん。生きてここを抜けるためにボスと対峙する。それだけだよ」
まずは荷物を取りに行こう。魔女様特製の短剣をお守り代わりに持ってっと。
「失敗したって言うのに、命を預けるつもりなのかしら?」
「状況さえ整えば、ルナ姉は失敗しない。そう信じてるから」
にこやかな笑みを零す。
ルナ姉に対する信頼は一回の失敗程度では揺るがない。
背中を向けて荷物が置いてあるアイサさんの家を目指す。まずは必要物資の確保だ。