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激動の戦場

ミィが遥か上空へと吹き飛ばされていく。

こうなってしまえばミィへの助力を望めない。私一人でこの危機的状況を打破しないといけないわけだが、上手くできるだろうか。


柄を握る手に力が入る。折れたこの剣でどれだけの成果を挙げられるか不安ではあるけれど、やれるだけのことをする。シフィと二人ならば、道を切り開けるはずだ。


「よし」

「ーーーーーーねぇ」

「へっ?」


風に乗って微かに聞こえた声に変な音をもらしてしまった。

慌ててそっちを向けば、空から降ってくるミィの姿。


なんで!?


頭の疑問に対する答えを求めるよりも先に密集していない方向へ全力で走る。

村の方へ戻る道は完全に塞がれているが反対側は空いていた。

狼たちの目的は私を村へと近づけさせないことにあるのだろう。そちら側に逃げれば追いかけては来ない。他の作戦があるのかもしれないけれど、今はそんなことを考えるよりも身の安全が第一だ。シフィもさっさと懐に入り込んで防御姿勢を取っているので、降ってくるミィから必死に距離を取った。


ズドン。


大きな音と陥没した地面。周囲に散乱する狼たちの成れの果てを見ていると相当な勢いで落ちて来たのだと分かる。

土煙にゲホゲホとしながら出てくるミィに傷は見えない。ニッコリと微笑みながら私に抱きついてくる。


「呼ばれたから来たよ!」

「登場が派手!! でも、ありがとう」


ミィの頭を撫でながらふぅと息を吐く。


「ここは任せても大丈夫?」

「もっちろん。お姉ちゃんたちが何とかしてくれるんでしょ?」

「多分まだ頼ることになるけどね」

「まっかせてよ。ミィにできることは何でもするよ」

「うん」


折れた剣を投げ捨て、全力で走り出す。

シフィにお願いして追い風を貰う。行く手を阻もうと前に出てきた狼はミィが全部掴んでは投げ捨てる。それを横目に風のように村へ向けて駆けていく。


「なっ!?」


村の中は悲惨な状況になっていた。

魔物牧場であったはずの広い敷地は血に汚れ、中央ではぐちゃぐちゃと音を鳴らしながら食事をする傷だらけの狼たち。二足歩行の彼らは、手に村の住人を持って頭から口に入れている。

助けてと叫ぶ声など耳に入れずに口に入れて骨ごとバリボリといく姿に怒りが湧いてくる。だが、その怒りに任せて殴り込んでも同じ道を辿るだけ。身を隠し、呼吸を整える。


ルナ姉はどこに行ったのか。すでに胃の中だとは思えずに辺りを見回す。

食事中の狼たちは私に気づいていないようだ。固まっているのは五体くらい。見た目が似ているから、恐らくはボスが居ない。

ルナ姉のことだからボスの方を注視しているだろう。アイサさんも付き合ってるのだとしたら無事であると想定できる。


「でも、あくまでも想定」


甘い想定は簡単にひっくり返る。だからそれを確定せず、そうだといいなと希望的観測だけに留めておく。


中央の食事場を抜けないと村の方へは行けない。夢中になってるから私が通るのも見逃してくれるかもしれないが、そうでなければ捕まってしまう可能性は高い。

リスクを取るにはリターンが少なすぎる。何とか道を見つけなければならない。

声を出せば危険なため、手だけでシフィに確認を取る。何か手立てはないか。と。


シフィは困ったように辺りを見回すが、重く肩を落としてから頷いた。

積極的にやりたくはないけれどなんとかなる方法があるのだろう。

パタパタと手を振ってから、その姿をスーッと消した。


妖精の道を使ったのだろう。その特殊な道は妖精にしか見えず、通れない。どこに繋がっているのか、どうやってできたのか不明な妖精たちの切り札。

直後に起こったのは銃声。

どこから発砲したのか分からないけれど、軽い音が耳に届く。それに反応した狼たちが手に持った人たちを投げ捨ててキョロキョロと辺りを見回す。


食事に夢中になってた方が移動できたのでは? と、思うほどに辺りを見回している。


「ーーーーーーーー」


声にならない絶叫をあげながらホルスたちが角を突きつけながら突撃し始めた。

ホルスよりも一回り以上大きい狼たちはそれぞれが一体ずつ動きを抑える。


ごめんね。


言葉にできない謝罪を述べながら隠れていた場所から飛び出して村を目指す。


シフィが使いたくない手であることがよく分かった。だけど、ここまでしなくては気を逸らすことができなかったのだろう。

犠牲に涙しながら、全力で駆け抜けた。

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