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絶望の進撃

遠くで聞こえた音に奥歯を噛み締めた。

折れて役に立たない剣を狼に向けて投げながら、隙を探して逃げようとするも密な連携は逃れる隙を与えてくれない。


『ああ。もう、なにやってるの!』

「そうは言っても」


これが本気で襲ってくるのならばそれを利用して逃れる方法はあるだろう。だけど、狼たちはここで足止めすることを目的にしているらしく。下手な追撃はしてこない。

シフィのことは完全に無視しているから彼女一人であれば抜け出すことは容易なことだろう。ならばと助けを求めに行ってもらおうにも目線を動かした瞬間には塞ぐように飛びかかってくる。


「戦局が見れない。シフィお願いできる?」

『無理無理無理。あたし一人で何するのさ』

「ミィを連れてくるだけでいいから」

『それも無理! あいつさっきから大きなやつに囲まれてる。多分だけど今のが相手にならないから強化した子が入ってる』

「なら、ルナ姉」

『え〜あっちかぁ』


行きたくなさそうなのは、風がなにかヤバめな情報を与えているからだろう。

つまり、八方塞がり。分断された······違うか、別れて戦いに臨んだ時点で私たちの負けは決まっていたのだろう。


機械兵が村を襲った時も別れていた。だから、シフィを一人逃がすのが精一杯だった。あの時に三人揃っていたら未来は変わっていたのかもしれない。


「くっ」


悔しいな。こうして何もできずに敗北が決定してしまうのはとても嫌だ。

ルナ姉は頭がいいからこそ戦局が敵の方に傾いた時点で頭には退却の文字が浮かんでいることだろう。一人でも逃げられるのかなと笑いながら襲いかかってくる。狼の顔面を殴る。


痛い。何も保護してないために手の皮が剥けて血が飛ぶ。カウンターで殴り飛ばしたのに、狼はすぐに起き上がる。ダメージなんてないに等しい。


弱さが憎い。貧弱な肉体では魔物に抗えない。

折れた剣を構えても突破なんてできやしない。はははと乾いた笑みを浮かべてしまう。

何をしているんだろうと笑う。ここで頑張ったところで戦局を変えることは不可能に近い。私一人でやれることなんてたがが知れている。

それでも体は勝手に動く。絶望が進撃してこようとも諦める道を選んではくれない。


「シフィ。逃げて」

『はぁ何言ってるの!?』

「それが最適じゃない?」

『なわけないでしょ』


シフィが風を操って手助けしてくれるが。妖精である彼女がやれる操作は微々たるもの。一瞬だけ風に押してもらったり、逆に動きを一瞬止めてくたり、僅かな爆発だけ。

今の多数相手では細かい制御が効かないために意味をなさない。

無視されているシフィならば安全に逃げることは可能。私一人では無理なこともシフィにならできる。だから、それをしてもらうつもりだったのに、返ってきたのは憤慨の表情だ。

プンプン怒りながら、ダンスをするように風を操る。


『せっかく色々準備したのに、無駄にするつもりないからね』

「あれ。準備してたの?」

『し、て、る、わ、よ。もう、戦うみたいだから勝手に色々してたのに。使わないよ?』

「ありがとう」


内容は分からないけれど、心配していたことは確かなのだ。その優しさを受け取り、パンッと頬を叩いた。


諦めるのはまだ早い。シフィがそう言うのならば、抗うとしよう。

このどうしようもない絶望の中でも、一筋の希望を見つけるのだ。

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