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ルナマールの不安

ルナマール視点の話になります

硝煙が昇るスナイパーライフルを傍らに退けて死体となった狼を睨みつける。


辺りは轟音のせいで騒然としているけれどそんなことは関係ない。


「弱すぎる」

「えっ?」


零れた言葉に目ざとく反応を返してくれるのは近くで手伝ってくれたアイサだ。

動揺が混ざる瞳を向けて、震える指でわたしが仕留めた敵を指差す。

あれが本当に弱すぎるのか。そう問いかける姿に小さく頷いた。

体が大きく。軽く動くだけでも圧倒できそうな見た目をしているわりには考えが甘すぎる。何も考えずに突っ込んでくるから狙い撃つのは難しいことではなかった。

他のやつに関してもそうだろう。わたしたちが各個撃破できるレベルだとしたら、切り札としては弱すぎる。

進度が上がったばかりで自身の力を発揮しきれていないと仮定すれば納得はできる。できるけれど、そうであるならばこれで終わるはずがない。


まだ何かあるはずだ。


辺りを見回し、耳を澄ます。

ここにミィがいればすぐに異変に気づくのに。

いや、待って。


「ねぇ、ここ以外の入り口ってどうなってるの?」

「えっと、バリケードをして入れないようにしてます。特に居住区は厳重にして見張りを置いて何かあったら知らせるようにしてますよ」

「そう。そっか」


居住区を見る

高い建物が並ぶ一帯。その周りを覆うように壁が造られているが、さっきと同じレベルの大きさの狼が来たら数分と持たないだろう。

結界があるからこそ、その程度の薄い壁で何とかなっている。なら、結界がなくなったらどうなるか。


答えは、簡単だ。


「あの、どうしました?」

「可能性が浮かんだのよ。もう手遅れだけど」

「可能、性?」


ドンッと、大きな音と共に何かが砕ける音が一帯に響いた。


「ああ。やっぱりそっちに行ったのね」

「なっ何が起こったんですか!!」

「多分、主力があっちから侵攻して来たのよ。ここを潰すためにね」

「そんな!!」


今から走っても間に合わない。

居住区にいるのは戦いを拒否した老戦士と非戦闘員。何人やられるのか想像したくもない。気づいた何人かはすでに走りだしているが、果たして間に合うか。


「どっどうにかできないんですか!」

「さぁどうかしら」


他人事で呟きながらスコープを覗いた。

位置が悪い。ここからでは向こうの入り口を見ることができない。

これを持ってと銃を指差し、スコープを外して場所を移動する。


「状況は最悪。あっちも交戦中となると分が悪いわね」


紗雪さゆきもミィも追加でやってきた狼と戦っている。そのせいなのか、こっちに近寄れていない。放置しようにも執拗に狙っているので動けずにいる。

入り口のほうは二足歩行している狼が占拠していた。一体ではなく目視だけでも五体。その奥にいる一回り以上大きい狼が指示を出しているように見えた。

獣人を食べた個体がいたのだろう。今からも食べるつもりなのか手に握りしめているやつもいる。


「困ったわね」


これで終わるとは思わなかったが、ここまでされるとは想定してなかった。戦力確認で偵察部隊を投入できたら状況も違ったのだろうけど、後の祭りである。

こうなってしまった以上犠牲が出るのは避けられない。後は、その犠牲をどこまで抑えられるか。奴らに勝利できるか。である。


「逃げるのが一番いい選択肢なんでしょうけどね」


自嘲気味に笑う。

自分で決めた選択に後悔してはいられないが、この盤面をひっくり返す方法が思いつかない。


銃を受け取り、試しに一発撃ってみる。見てから余裕で避けられる姿を確認できた。不意打ちでないと当たらないだろう。


「お手上げね」


諦める。

わたし一人ではその解答しか出てこなかった。

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