正面衝突
駆け足が聞こえる。
ちらりと視線を向ければ馬の魔物であるユニコが一直線に走ってきていた。その背にはハイトさんが乗っており、剣を握りしめている。乗馬が上手なようで、かなりの速度なのにちゃんと制御している。
「おまたせしました」
武器を届けに来たハイトさんはブレーキをかけて飛び降りた。怯えているように見えるユニコを宥めながら、私に剣を渡してくる。
「ありがとう」
「一緒に戦います」
「ううん。この子を連れて逃げて。これと、これを連れてきただけで充分だから」
「えっ?」
ふわりとユニコの影から出てきたのはシフィ。ちらりとしか見てないがやっぱりいた。この村に来てから姿を消していたからどこに行ったのだろうか気になっていたけど、大変な時には顔を出してくれるのは嬉しい。
『これってなにさ。これって! ちょーぜつかわいいシフィちゃんの登場ですよ。あたしの力が必要かな?』
てへっと舌を出しながら私の周りをくるりと回る。
ハイトさんにはちゃんと見えていないのか首を傾げているがそれならそれでいい。
「行ってください。ここは大丈夫」
「はっはぁ」
納得はしてないようだがユニコに乗って村へと戻ってくれた。
村に向かっていた首長狼もたたらを踏んで止まっているし、羽根狼も空へと向かっているがその体にはミィをくっつけている。
推定深度4。これなら一人一体で何とかできる。
『醜い化け物ね。早く楽にしてあげよ』
「分かってる」
戦力がこれで打ち止めであれば問題はない。
だけど、一抹の不安は拭えない。
グルルと唸り、こちらに跳ねる角狼。
弾けるように左右に分かれて避けると、下がった頭に飛び乗る。首に剣を突き刺すが、想定よりも堅くて切っ先すら入っていかない。
傷一つないのを確認してから背中に滑る。
「シフィ」
『任せて』
風に乗って角狼から離脱。
武器が豊富にあれば使い捨てで戦えるけど制限がありすぎる。ありすぎるけれどそれで構わない。潤沢な装備なんて今の時代では贅沢すぎる。だからこそ使い捨てできて強力な装備をしている機械兵が強いのである。普通の武器で傷一つないのは正直言ってどうしようもない。
『強い?』
「硬いだけ。知性はそんなにない」
これまでの動きで大体把握した。シフィの協力があれば打ち倒すのは問題ない。
獣人みたく自身の四肢を武器として扱えるのならこんな回りくどいことをしなくていいのになと自嘲しながら、迫り来る前足を避けていく。
遅い。体が大きいから動きが丸見えだ。
避けている最中、前足に刺したままの剣を握って一気に引き抜く。骨を断つほどの武器でないから切り裂くのは厳しいが、
「ここ!」
腱を斬ることはできる。
ここを斬られたら他が無事であっても動かせなくなる。巨体の周りを駆け、あちこちにある腱を刻んでいく。斬りにくくなればシフィに協力してもらう。風で剣を押してもらって斬り裂く。
意識はあるのに体が動かないことを疑問に思っているのか絶叫を上げながら必死に四肢を動かそうとしている。
「私には力がない。魔女様みたいに一息で命を刈り取ることはできない。だから、ごめんね」
構造が変わっていない時点で私の勝利は揺るがなかった。
このままでは不憫なので最後の一撃を加える。風を爆発させて首に剣を埋め込んだ。これでもう動くことはない。
『あ〜あ。これで終わりか〜』
「みたいだね」
他もすでに地面に伏せている。
途中で轟音も聞こえたから銃も使ったのだろう。
『でも、さ。なんでここまで成長したのほっといたんだろうね〜』
「確かに」
深度を増した魔物は討伐するのが普通だ。ここはうちの村とも近いからこの村が討伐できないとしたら私たちの村が請け負っていたのだろう。
なら、魔女様が討伐に出たのはこの狼を討つため?
この強さだとしたら負ける姿が思いつかない。だとしたらーー




