強大戦力
そろそろ本格的に戦いが始まる。
ルナ姉の宣言から数秒。地鳴りに似た音が至るところから聞こえた。
それが足音であることに気づいたのは遠くに巨大な姿を確認したからだ。
少なくとも三体。巨大な狼が走ってきている。見た目が異様なので狼と呼んでもいいのか分からないレベルではある。
「色々混ざってるし、巨大すぎてこんなのじゃ話にならないわね。とりあえず一体はお願い。全部来られると結界を破壊される恐れがあるわ」
「分かった」
ギュッと柄を握りしめる。
私の数倍はある巨大な狼。牛の角が生えていたり、首が長くなっていたり、羽根が生えていたりと正直言って化け物としか思えない。どれを相手にしても危険はある。アイサさんに魔物たちを向かわせるように指示を出すと、ミィを途中で拾って狼の群れを突っ切る。もちろん抵抗もされる。あの三体が狼たちの切り札であるならぶつけてしまってこの膠着状態を打破したいだろうから。
だけど、復活したジンさんたちや魔物が時間を稼いでいる間に抜け出す。
荒野を駆ければ、砂煙が舞う。目を襲うそれらを片目を閉じることで我慢しながらミィに一体よろしくと手で指示を出す。
伝わっていると信じて角の生えた狼に向けて速度を上げる。
ちらりと視線を向ければ羽根の生えているほうに飛び跳ねているのが映る。
「さあて、どうしますかね」
彼我の距離は数十メートル。そこで立ち止まり短く息を吐いた。
脱力した状態で見つめる。
任せられた以上はここで足止めするつもりではある。だけど、敵は私のことなんて眼中にはなく。真っ直ぐ突っ込んできている。
近くで見ると大きさがよく分かる。足から顔だけでも私の倍近くある。それだけあるならば、無視して踏み潰してもいいと判断されてもおかしくない。
よしっと覚悟を決める。
減速することなく突撃してくる狼に剣での攻撃なんて意味をなさない。止めるための手段なんて私にはない。
「ーーーーーーーー!!」
雄叫びを上げながら前足が迫ってくる。
小石なら気にしなくてもいいのだろうけど、サイズがあるせいで踏み潰すとしたら少し足を上げなくてはならない。真っ直ぐ抜けようとしても当たって速度を落とされて他との連携が取れないことを嫌う可能性を計算に入れていたが正解だった。
スっと体を動かす。脱力したまま倒れるようにスムーズに。
タイミングを合わせ、「今!」っと心の中で叫ぶと一気に加速。前足を避け、ジャンプして毛を掴むとその勢いを殺さぬままに足にしがみつく。激しく動く前足ではあったがこの程度であれば慣れている。冷静に剣を握りしめて足に突き刺す。
「ーーーーーーー!!!!!」
絶叫が辺りに響き渡り、動きが止まった。
放り出されるよりも先に離脱した私は体勢を立て直して睨みつける。
これで私に敵対するはずだ。硬い毛皮であり、肉も厚いが昨日の狼と元が変わらないことが功を奏した。毛皮の向き、突き刺す場所が正しければ不格好な武器でもちゃんと機能する。切っ先に全振りするようにお願いしたかいがあった。
グルルと唸り声を上げて四足で立ち上がるが、突き刺さったままの剣を抜けないために痛みは残っているようだ。
対して私に武器はない。ピンチではあるけど関係はない。
なぜなら私は一人ではないのだから。




