VS狼
空を見上げれば雲一つない快晴。
頬を撫でる風は温かく血の匂いが混ざっている。動きを阻害するほどの風量ではないことが救いではあった。これが強風であれば状況はまた違っていたことだろう。
牙や爪を出して四足で威嚇する狼たち。
後ろには牛型の魔物であるホルスや馬型の魔物であるユニコ。他にも何種類かいる魔物たち。名前は個別にあるようだが、大枠としてそう呼んでいるそうだ。
彼らは戦う意思はあるようで威嚇に対して声を上げながら返答している。
その意気があるならば、私たちが戦う前に自分たちでなんとかしてほしかったけれど、狼の数が二桁に対してこちら数えるほどしか魔物がいない。種類もそんなに多くなく。戦っても数の暴力で負けてしまうのだろう。
「妙ね」
「どうしたの?」
「ここにいる魔物を食べてるはずなのにその特徴がまるで出てないわ」
確かに、そうだ。
目の前で威嚇しながら距離を詰めようとする狼たちは昨日倒した狼と何ら変わりがない。魔物を襲い、その肉を食べているならば身体に変化がある方が魔物としては自然だ。
「となると、ちょっと厄介ね」
「そうだね」
支給された剣を軽く振るう。
不格好であり、切れ味に不安を覚えるできではあるが、無いよりはマシである。短剣を多用して折れてからでは困る。
私は私の役割をこなすためにこの剣を振るう。
ミィはすでに狼たちの前で立ちはだかっている。襲ってこないのも、ミィがすでに数体倒してしまっているから警戒しているだけだ。
あちこちに視線を向けながら隙を探しているようである。
それに対してルナ姉が弓で射って数を減らしている。
減らしても減らしてもどんどん出てくるからキリがない。
「村の人はもう無理かな?」
「今は休憩中よ。多分だけど」
戦士として戦うことを表明した数人の若人たちは牛や馬の背中でグッタリとしている。地面に落とさないのが優しさだろうけどあの体勢で休めているのか不安になる。
戦いが始まってどのくらい経ったのか。太陽の動きだけ見ても正確には判断できない。数時間は経っていることだろうが、戦場が停滞してからなかなか動けない。防衛に徹していないで攻め込むべきなのだろうけど、マンパワーが足りなすぎる。相手の戦力も分からずに攻め込んで返り討ちが一番困る未来なのだ。
「他のところから襲う可能性があるけれど、そうなってもいないようね」
「真正面からしか来ないのは不安要素だね。私も前に出るべき?」
「まだね」
「そっか」
戦いが始まってすぐは前線で動いていたが、停滞してからはここで戦況の確認中だ。
いつ進度の上がった個体が出てくるか分からないからこその様子見なのだろうけれど、不安ばかりが募っていく。
後方待機中のアイサさんに視線を向ければオロオロとしながらあっちにフラフラこっちにフラフラとしている。時折お爺さんが耳打ちしているけど、内容は分からない。戦士たちを説得しているのかもしれないし、周囲の確認をしているのかもしれない。
情報がこっちに来ないのでは作戦も立てられない。
連携が取れてない悪い例である。
「動きがなさすぎるわね。だけど、死体を回収してることを考えればそろそろのはずよ」
ルナ姉が仕留めた遠くの狼が運ばれていくのが確認できた。ミィに近づくことはないが、離れればそっちのほうも回収するのかもしれない。
集団のボスに知らせてさらに戦力を投入してくる可能性は高い。気を引き締めないと。