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村長からのお願い 下

お願いごとを簡単にまとめると、飼っている魔物が最近狼型の魔物に襲われている。討伐したくとも、この村の戦力では一気に討伐することができず、イタチごっこになっているのだという。

そこで、私たちの力を借りて一気に討伐して安全を確保したいそうだ。


「なら、魔術陣を改良すればいいじゃない」


話を聞いたルナ姉は開口一番にそう答える。

実際にこの村の魔術陣を見ているからこその判断だろう。今の魔術陣では進度の低い魔物は入れてしまう。そうなるように設定されてしまっている。

魔物使いのアイサがいるからその設定にしているのだろうけれど、被害が出ているのならば変更すればいいだけの話である。さすがに進度が上がりすぎたら結界なんて意味をなくすことになるけれど、今の被害を抑えることは可能だ。


「えっと、その、改良?」

「もしかして、魔術陣を改良できないのかしら?」

「少なくともわたしには無理です。村のみんなも聞いてないと思います」

「あの人もやってくれたわね」

「向き不向きはあるから」


そういえばミィも細かい作業が苦手だから魔術陣にはあまり触れなかった。獣人は豪快な人が多いせいか、教えてもなかなか身につかなかった。

そもそもの話。結界の魔術陣に頼るくらいなら自分の肉体を信用する人ばかりなのであまり気にしない風潮があった気が······


「どうする? あたしたちが変えてもいいわよ?」

「そうしたら、連れてくるのが大変になりますか?」

「進度1や2を連れ込んでいるなら難しくなるわね。5以上を連れ込むなら違うでしょうけど」

「そこまで進度が進むと無理。ですね」

「なら、やめとくべきね。魔物使いとしての役割を放棄して戦うのであれば別でしょうけど」

「それは、困ります。魔物たちの研究はまだしたいです。大切な、役割なのです」


涙の貯まる瞳を伏せ、頭を下げた。

どうか、どうかお願いします。助けてくださいと私たちに頼み込んでくる。


正直な話をすれば、私はこのお願いを聞き入れてもいいと思っている。メリットはないかもしれないけれど、困っている人たちを放っておけない。ミィは私たちが決めた方に賛同するだろう。自分の考えよりも私たちの答えを優先してしまうのは悪い癖ではあるけれど、彼女なりの処世術なのでもう少し。成人するまではその方法でいいと思っている。成人して考える力を磨いてからその先の思考をするべきだ。

だから、最大の障害はルナ姉だと思っている。先を急ぎたいルナ姉がこの状況に対してどんな答えを出すかで私たちの道行きは変わる。

討論をして勝てるほどの力のない私にはこの村を救う道の提示はできない。


どうするのか。そっと、顔を覗き込めばバッチリと目が合った。


口角を上げ、小悪魔のような笑みを浮かべるとアイサさんの肩を軽く叩く。


「顔を上げなさい」

「えっと、はい」

紗雪さゆき。あなたの答えは決まってるのよね?」

「うっうん。だけど······」

「みなまで言わなくてもいいわ。わたしも、この村を救うことには賛成してあげる」

「本当、ですか!」

「ええ。ただし、条件をつけるわ」


人差し指を立てて、条件を口にした。


一つ、この村にいる戦士も参加すること。強制はしない戦う意思がある人のみ。

二つ、対価として旅に必要な水や食糧。物資を提供すること。

三つ、この村にいる間、差別や偏見を抱かないように、あるいは抱く人を近づかせないようにすること。

四つ、アイサが自分たちのことをもてなすこと。


ルナ姉の条件を聞いたアイサは、一瞬躊躇ったように虚空に視線を投げたが、すぐに回復して「すぐに戻ります」と家を飛び出して行った。

恐らくは今の条件を他の人に伝えて了承を得るためだろう。


「ルナ姉」

「なにかしら?」

「分かってるのに言わせるの?」

「分かってるから言わせるのよ。コミュニケーションは大事でしょ」

「······なんで、条件付きでも引き受けたの?」


迷った。

聞いてほしくないような雰囲気を醸しだしていたからこそ、口にするのを一瞬だけ止めた。だけど、聞かない方が悪いと言葉を紡いだ。


「アイサが気に入った。それだけよ」


ルナ姉の回答はシンプルだった。

シンプルだからこそ、疑問は浮かぶ。

遠くを見るルナ姉は何を思っているのか。聞くよりも先にアイサさんが帰ってきて条件を呑むことを告げた。

明日の予定が決まった瞬間であった。

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