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アイサの過去 下

月日の流れは早く。二年も過ぎた頃に魔物使いとしての役割も板についてきた。

最初は近づきもしなかった人たちも、襲わない上に食糧や素材をくれる魔物たちに心を許していった。強くなった魔物たちが自主的に村の防衛を始めたのも大きかったのだろう。

戦士たちと手合わせして互いに強くなろうとする姿を見て、一人また一人と偏見なく受け入れてくれた。


だからと言って、襲ってくる魔物に容赦するわけでもなく。領分を超えたものには情けをかけることはなかった。


何体かの魔物が進度5を超える頃には誰にも侵されない最強の村だと言う自負がみんなの間に流れるようになっていた。

進度5以上になれる子はあまり多くなく。自らが望んで強くなろうとしなければ進度が上がらなかった。

その壁を超えた子たちはわたしの誇りであり、一番に壁を超えたきゅーちゃん。初めて友達になったトカゲ型の魔物は親友と呼んでも差し支えない存在になっていた。


魔物の不思議な生態は、まとめればまとめるほどに疑問が沸く。


まず食事を必要としない。食事をしないから排泄もしない。生き物の形を取っているのにそれを必要としない理由は不明だ。

ならば、なぜわたしたちを襲うのか。それを問われたら進度を上げるためと答えるしかない。進度を上げる条件は未だに未確定だけど、他の魔物を取り込むことで進度が上がる個体が多い気がした。

亡くなった魔物を食べて別れを惜しむ魔物たちの姿からその推測は成されたが、正しいのかどうかは不明。もっと調べる必要があった。


楽しい時間だった。

あっという間に時間は流れた気がした。村の中で底辺を生きていたわたしがこんなに人生を楽しんでいいのか不安になるくらいの幸運な日々。


でも、それは一瞬で終わりを迎えた。


「機械兵が、来たぞ」


お父さんの悲痛に満ちた声にわたしは暗い気持ちになった。

最強と自負していても、機械兵と言う存在の強大さはそれを簡単にへし折ってしまう。

性能と数を聞くだけでわたしの体は震えた。そういう教育を受けてきた。


機械兵は危険だ。


その認識は強く頭にあった。


「何終わったみたいな表情してるんだ。俺たちは戦う。魔物たちも戦ってくれるだろう?」

「うん」

「なら、負けないさ」


にこやかなお父さんの顔は今でも忘れない。

戦場へと向かうみんなとは別れ、もしものために逃げる算段を取ったわたしたち。運ぶのはきゅーちゃんだった。

大きくなったきゅーちゃんならば、遠くまで走るよりも早く移動できるからだ。

他の子は残って村の防衛を買って出てくれた。無事に生き残ることを願いながらきゅーちゃんの上で悲嘆にくれた。


乗っているのは戦えない子や老人ばかりだ。わたしよりも下の子たちは戦力として見られずに避難させられた。

祈るわたしに対して、一つの声が飛んできた。


「機械兵が襲ってきたのってさ。もしかして、魔物が原因じゃねぇか?」

「えっ?」


顔を上げると、迷惑そうな瞳を向けてから顔を逸らしてポツリと零す。


「だって、そうだろ。こんな目立つのがいるから襲われた。ってなら納得するじゃねぇか」

「なら、このまま逃げてても追いつかれるんじゃないのかよ!」

「俺たちは終わりなんだ」


周りのみんなが増長する。

その声が聞こえたのか、きゅーちゃんは動きを止めた。何人かがその急停止に振り落とされるが、地面で受身を取って文句を言っていた。


『ごめんなさい』


謝罪を一つ。

体を持ち上げると背中に乗っていたわたしたちを地面に落としていく。


「きゅーちゃん。何してるの。きゅーちゃん!!」

『行かなきゃ。ごめんね。アイサ』


荒野に置いていかれた。

まるで自分はここにいると宣言するように鳴き声を上げながら走っていくきゅーちゃん。

やっぱり聞こえていたんだ。だから、囮になることを選んだんだ。


「やっぱり魔物は魔物かよ。自分だけが助かればいいとかふざけてるな 」

「あなたねぇ!!」


叫び、殴りかかろうとしたその手をおじいちゃんに止められる。ゆっくりと首を振る姿にこれ以上の行動をするなと制させる。


「あっああああああああぁぁぁ」


なんで、なんで、なんで、なんで。

こんなことになるなんて思ってもいなかった。なんで、神様はこんなことをさせるのか。

わたしだけじゃない。みんなを巻き込んで不幸にしようとする。

酷いと、憎いと、呪う。その言葉は口から零れない。

なのに、みんなは魔物ーー友達の悪口を口にする。


こんな世界は壊れてしまえ。そんな風に思うほどに涙を流すわたしを抱きしめたのは、魔女様だった。


「間に合わなくてごめんね」

「わたし。わたしはーー」

「いいの。分かってる。ここにいるみんなは安全な場所に運ぶ。村の方は、その······」


手遅れ、だったのだろう。

涙は枯れ、乾いた笑みを零すわたしを、わたしたちを連れて転移したのは大きな六つの建物からなる不思議な場所だった。


「今日からここに住みなさい。ここが、あなたたちの住処よ。そして、村長はあなたがなりなさい。あなたにしか、この重役は任せられないわ」


正直、どうでもよかった。

未来なんて何も見えない。役割なんてどうでもよかったわたしはただただ言葉に頷いた。


こうして、わたしは村長となりこの村と共に生きることになった。生きなければ、いけなくなってしまったのだ。

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