交渉
「初めまして。私は紗雪と言います。見ての通り唯人です」
恭しく礼をしながら自分を見せる。獣人のような尻尾や毛などなく。森人のように鋭く長い耳もないことを示す。
なんの特徴もない身体。獣人とも森人とも違う。唯の人。争えば真っ先に狩られるであろう種族でありながら、逆に全てを狩ろうとした大罪を背負った種族。
それを隠すことなく晒す。
恨まれていることも憎まれているのも重々承知している。過去の人たちはそれだけのことをしている。だけど、それに私はなんの関与もしていない。
今の唯人なんてただの引きこもりだ。
出られないのに引きこもりなんて当人たちに言えば文句が飛びそうだなと小さく笑みを零してしまう。
「その、唯人さんがなんの用なのですか」
震える声は変わらない。
私を警戒していることは確かで、飛び出してこなかったらしい人たちは物陰から様子を伺っているようだ。
何か変な行動をすれば即座に飛び出してくるのだろう。
ここまで硬い雰囲気を作ったのは間違いなくルナ姉ではある。だけど、こうしなければ話にならなかったのもまた事実。
それだけ、唯人と言う存在は嫌われているのだ。
「実は、旅の途中に立ち寄っただけ。なんだよね」
はにかみながら頬を指でかいた。
目の前で必死に壁になっている少女が崩れていく。なにかもっと重大なことを言われると思っていたのかもしれない。
張り詰めていた空気が弛緩していくのが分かる。
まぁ張り詰めさせたのはルナ姉なのだけどね。
「昨日、私たちの村が機械兵に襲われました。魔女様が居たのですけど、強い気配を発見して村の戦士たちを連れて出ている時の襲撃で村は自衛しきれずに壊滅。魔女様は攫われた人たちを救うために出ていき、私たちも安住の地を探す旅を始めました」
魔女様が動いているのに復讐の旅に出たなんて言えば信じていないことになる。
安住の地を探すのも目的の一つであるためそっちを押し出すことにした。
「今回ここに寄ったのは村から一番近い場所だからです。突然の訪問になりましたので手土産に狼型の魔物を狩ってきました」
ミィに合図して被していた布を剥いだ。
「私たち三人を一日。朝になるまで置いてはくれませんか? ダメであれば、私たちは出ていきますけど」
「えっあの、その」
私としては後ろで守られている村長さんに話しているつもりなのだけど、眼前にいる女の子のほうがあたふたとしている。
手土産とは言っても道中で出てきたから狩っただけなのでいらないと言われたら困る。一部分だけ回収してゴミにしないと私たちでは手に余るのだ。
困ったなぁと笑顔で固まる。
「アイサ。どうするのじゃ?」
「おじいちゃん〜」
いや、待って待って。なんで女の子に決定権があるみたいに肩を叩いてるの?
女の子も女の子で潤んだ瞳で村長さん見つめてるしどんな関係なの?
祖父と孫ってことしか分からないんだけどーー
「仕方ないのぉ。みんな。どうしたいのかを話し合うこっちへ」
「すっ少しお待ちください」
ぺこりとお辞儀をしてから円形になって話し出す村人たち。
置いてけぼりの私たちはそれを眺めることしかできなかった。