魔物
この辺りの魔物は進度1ばかりだね。討伐されてるのかな?」
森を抜け、平野部へと差し掛かったタイミングでミィがポツリと呟いた。
目に見える範囲にいる魔物を見回すと確かにそう見える。元となった生き物が簡単に判断できるのなら進度は高くないはずだ。
「ちょうどいいから復習の時間にしましょうか。ミィから話を振ったわけだし、答えられるわよね?」
「うにゅう。勉強嫌い〜」
「ちゃんと覚えていないと危ないから覚えてるか私たちに教えて?」
ニヤニヤするルナ姉に乗っかる形でミィに促した。
これからは魔物と戦うことも多くなる。今までのように危ない時にすぐ逃げられるかは分からないのだ。私たちがいない所では自分で危険度を判断しなければならない。知っていること。知らないことを共有しておかなければ今後の旅路に関わる。
魔女様のやってた学校で習った範囲ではあるけど、覚えている覚えていないはまた別問題になってくるし。
「魔物はすっっっごい昔に唯人が研究して作り出したのが始まりで、え〜と、なんやかんやあって成長早くなって、自身の存在を進化? しちゃうんだよね」
「曖昧な言い方だけど要点はそうね。進度とはつまり進化の度合い。繁殖で増えるけど、基本的には進度1で産まれる。例外もあるけど今はいいわね」
「生き残る間に他の魔物や人を襲うことで強くなり、進度が増えていく。そうすると手に負えなくなるけど、成長が早い分寿命も短い。これが、魔物の特徴になるかな」
『ふへ〜そんなこと学ぶんだ。あたしには無理。覚えておけなーい』
早々に降参して荷台に寝転がるシフィ。シフィは基本的に魔物に狙われないので知らなくても生き残るだろう。狙われても逃げる方法をいくつも持っているのでなんとかなる。
頭の片隅にでも置いておけばそれでいい。
「だけど、進度が増えることで寿命が延びるタイプもいるわね。知性に似たものを持っているようなタイプは大体長生きね。代わりに繁殖能力が落ちるからなかなか次代が産まれない。この辺りはバランスね」
「うにゅ〜難しいよ〜」
「ゆっくり覚えればいいよ。時間はいくらでもあるし、教材はそこら辺に転がってるから」
視界の端では魔物の姿が確認できている。
襲ってくる気配がないのでこちらから仕掛けることはしないが、狙っているのだろう。
狼型。進度は高くても2。集団で狩りをするから一体見つけたら数十体は覚悟しないといけない。
「どうするの? 先制する?」
弓を取り出し、私を見つめる。
刺激しない方が安全か、先制した方が安全かを考える。
腰に携えてある短刀の柄に手を触れ、大きく息を吐いた。
「遠吠えが聞こえるよ。距離あるからリーダー格。あっちの方から」
「ルナ姉は荷台をお願い。ミィは左。先制して数を減らそう」
狼の肉はあまり美味しくないけど毛皮や爪などは加工品に向いている。
狩ってから目的の村に向かえばいいお土産になるだろう。
短刀を抜き放ち、距離を詰める。
私の横を矢が通過して飛びかかろうとした狼を射抜いた。目から入って貫通したその狼が倒れ込んでくるので回転するように蹴り飛ばし、襲いかかろうとしてくる別の個体にぶつけ、勢いを殺さぬままに跳ねた。
一息に間合いを詰めると身を低くして喉を斬り、走り抜ける。
「浅い」
毛皮が想定よりも頑丈で致命傷には至らない。
その場は通り抜け、囲まれないように即座に移動する。手応えの薄さを加味し、全身のバネを使って喉に短刀を押し込んだ。
毛皮の隙間を縫うような一撃はゴキリと嫌な音を鳴らす。
頑丈さを優先して作ってもらった短刀でよかった。鋭さ優先なら折れていた可能性もある。
「リーダーの場所分かる?」
「離れていくみたい。こっから逃げてくのが見えるよ」
「もう少し近ければ狙ったんだけどね。弓だとそこまで届かないわ」
別の武器であれば仕留めていたのだろう。武器に制限がある状態ではむやみやたらには使えない。引いたのであればこれで手打ちにしよう。
「五匹か。やりすぎたかな?」
「いいんじゃない。血抜きして持っていきましょう。あって困ることはないはずよ」
「解体するの? ミィ苦手なんだけど······」
「血抜きだけでいいんじゃないかな?」
一抱えほどある大きな狼を一箇所に集めて処理をする。
荷台を見ればスヤスヤと眠るシフィの姿。
こんなに暴れたのに寝てられる肝の太さに笑みを零しながら荷台へと容赦なく狼を乗せた。