旅立ち
太陽が真上に到着した頃。ようやく私たちの荷造りは完了し、村を出ることになった。
振り返れば見る影もない無惨な村。そうなってしまっても、私たちの育った場所であることには変わらない。生まれが違う私たちが揃って成長できたのもあの村があったからだ。
揃って頭を下げる。
「行きましょう」
ルナ姉を皮切りに歩き出す。
カラカラと音を鳴らしている荷車を引くミィが大変そうではある。
結局。荷物の剪定は終わりそうにもなかった。なので、荷車を出すことにしたのだ。村で腐らせるよりもいいだろうとの判断だ。
最悪はルナ姉が乗ることになっている。体力のあるうちは乗ることはないだろうけどいつダウンするかは分からない。
背中に背負った荷物を軽く持ち直して周りを見回す。
遠くで魔物が駆けているのが見える。馬系の魔物だろう。私たちの姿を視認するより先に駆けていくところを見ると争いを好まないタイプなのだろう。
食材にはなるけれど、あまり多くても荷物になるのであまり狩れない。狩りすぎて生態系を壊しても大変なので、狩る場合は襲ってく魔物からとなっている。
「こうしてこの道を歩くとは思わなかったわね」
「まぁね。いずれは、とは思ってたけど帰る場所はあるつもりだったし」
「帰る場所はあるよ?」
「そうね」
首を傾げるミィの頭を撫でる。
ミィの大切な物は頑丈な箱に詰めて埋めてきた。魔物によって村が荒らされたとしても失わないようにと考えてのことだった。
誰も居なくなった村は荒らされやすいそこを拠点に繁殖される可能性もある。帰ってきたら魔物の巣だったら怖いとは思う。
「あれ? なんか聞こえるよ」
耳をピコピコさせながら辺りをキョロキョロと見回した。
私の耳には何も入ってこない。
魔物かもしれないので警戒しながら辺りを見回す。
『ルナ······ミィ』
微かに聞こえる名前を呼ぶ声。
それはどんどん近づいてきている。忘れていた存在に、あっと口を開けた瞬間。
『紗雪!!』
背中に衝撃を受けた。
『なんで先行くの!! あたしを置いてくなんて!!』
「シ〜フィ〜」
むんずと掴むと上下に振る。
「なんであんたはいつもぶつかってくるの!」
『よっ酔う。酔っちゃうから振らないで』
酔ったところで吐くものないのだからと冷酷な判断で振ってしまおうかと思ったが、置いていったのは事実ではあるので荷台に降ろした。
「シフィは自由気ままなんだから着いてきたければ来るだろうし来なければ来ないと思ってたの。呼んだら出てきそうだし」
『それはそうだけどさぁ風情ってものがあるでしょ!』
パタパタと羽を動かして私の周りを数周してから顔に指差した。
詰まるところ仲間外れにされたことが気に食わないのだ。
「あんたはそこまであの村に思い入れないでしょうに」
『ないけど〜それとこれとは別なの』
頬を膨らませて拗ねたように動き回る。ミィとハイタッチし、ルナ姉から叩かれる。ルナ姉の目が虫を見る目なのが不穏でしかない。
「今更ノコノコ出てきてなんなの?」
『ブーブー水はちゃんと見たもん。そもそも、あの臭いが嫌なだけだし』
「そっか。シフィはいなくなって欲しくなかったんだね?」
『そんなこと。む〜』
パタパタと不規則に飛び回ってからミィの頭に飛び乗って耳を掴んだ。
『もういいでしょ!! 行こ』
「行こ〜」
ルナ姉と顔を見合わせてから先へと進んだミィを追いかける。
旅が始まるのだ。