君を愛してる
僕は君を愛してる。
だからこそ言うことを聞いてほしい。
いやだ!やめて!だなんて悲しいことを言わないで……僕は君に酷いことしたくないんだ。
さぁ、早くその部屋に入って。
彼等に気づかれてしまう。
大丈夫ここには食料も十分あるし、1ヶ月は外に出なくても生きていけるよ。
あぁ、そんなに泣かないで……可愛い顔がぐしゃぐしゃになっちゃうよ?ほら、笑って………うん、そう……ちゃんと笑えていい子だね。
ここでいい子に待ってるんだよ………。
「おとうさま!いや!!!ひとりにしないで!!!」
「あぁ、カナリア」
あぁ、まだ幼い我が娘よ。
お前だけは………お前だけは生きてくれ。
お前を1人にする事を許しておくれ。
可愛いカナリア、愛する人の忘れ形見よ。
幼い我が娘を堅く抱きしめる。
この離れの倉庫にいればきっと大丈夫……身形も平民と同じ格好をさせているから、誰かに見つかっても閉じ込められた下女だと思われるだろう。
「国王は見つかったか!!」
「見つけ出せ!!」
あぁ、反乱軍の声が近くにまで来ている。
時間がないことを察した私は愛娘の抱擁を解き、「いや!いやよ!おとうさま!!!」と縋ろうとする娘の腕から逃げるように身を翻した。
「カナリア、愛してるよ……キースが迎えに来るまで待ってるんだよ」
私は愛娘がいる倉庫に閂をして、少しでも娘がいる倉庫から離れようと森の中へと走った。
案の定森の中にも多くの反乱軍の姿があり、私は彼等の目をワザとこちらに引きつけた。
反乱軍が娘の方に行かぬように、必死になって形振り構わず走り続けた。
森を抜けるとそこにも反乱軍の姿があって私の体は無数の刃に貫かれた。
あぁ………キースは無事に娘を連れ出してくれるだろうか………カナリアは幸せに生きれるだろうか………。
薄れていく意識の中、私はただただ娘の行先に幸せがあることを静かに願った。
死んだ若き国王の首が街に晒された。
税金を跳ね上げ民衆を苦しめた罪としてその首は一年中晒され、カラスがその肉を掻い摘んで食っていく様を見てお祭り騒ぎのように笑っていた。
民衆は知る由もない。
若き国王は国の重鎮であった古狸達にいいように使われていただけと言う事実も、妻を失いながらも娘を愛していた優しい心根をしていたという事も彼等は知らない……。
「さぁ、カナリア姫一緒に逃げよう!」
「お、おとうさまは?」
「大丈夫、国王陛下は無事だよ……さぁ早く」
カナリア姫の手を引き倉庫から連れ出したキース少年は、ズンズンと森の中へ進んでいく。
そして、森を抜けた先には黒い立派な馬車が停まっておりキース少年はそちらに向かって進んでいく。
幼いカナリア姫は知らなかった。
黒い馬車に書かれた紋章が隣国の紋章である事を、無垢で無知な姫は知らなかった。
「キース王子、その娘は?」
「ん?あぁ、国王の娘、可愛いだろ?連れ帰って面倒見る」
死んだ国王は知らなかった。
まさか娘を託したキース少年が隣国の王子で、古狸に甘言を囁きこの国を貶める為にやってきたスパイであることも、王子が娘に一目惚れをして娘を奪う為に国を貶めたという事も、国王は知る由もなかった………。
「さぁ、カナリア姫、これからはずっと一緒だよ…………ずっと、ずっとこの日を待ってたんだ」
ガタガタと揺れる馬車の中疲れ果てて眠る姫の柔らかな髪を愛おしそうに梳きながら、キース王子はうっとりと小さなその耳に囁いた。
「君を愛してる………」