魔法を科学と紐付けた愚者は認められない
とある大学の会議室で一人の若者が各国の賢者達に対し声を荒げる。
「何故!貴方ほどの賢者がこの理論を理解できない訳ないでしょ!」
「訳のわからぬことを言うで無い!お主の理論は魔法の根本から否定し我々の努力を無に返すものだ!その上魔法と科学を紐付けるなど愚の骨頂!科学は魔法で解明できないもので、魔法こそが科学の上にあり、神に与えられた力であるということが何故わからん?」
そう答えるのは、歴史の変革者や歴代最高の賢者と呼ばれる老人、カシウス・ペルセスである。
「魔法は神から与えられた奇跡なんかじゃない!魔法は科学で証明された現象の再現と上書きに過ぎないのです!なので、我々の想像や考えた物以上の事はできないのです!そもそも、この理論のベースは賢者カシウスの無詠唱理論が元になっているのですよ?考案者の貴方がこれを理解できないわけがない!」
賢者の問いに対し返答を返すのは山背浩二である。
日本の大学で優秀な論文であると認められ国際的な学会で発表をする事になったのだが、結果は格好の賢者からの大ブーイングであった。
「そもそも、儂が唱えた無詠唱理論は魔力操作と想像により魔法を発動するというものじゃ。だが、お主のその論文では魔法は科学におけるエネルギーの補完と物質の再現であると述べておる。これのどこが儂の理論がベースなのじゃ?」
賢者カシウスは不機嫌な表情を隠す事なく、山背に質問を投げかける。
「では、賢者カシウスは何故魔法はイメージと魔力操作で発現できるとお考えになられたのですか?」
山背も負けじと質問に質問で返すという愚行で対抗する。
「その質問を儂にしてる時点でお主の魔法に対する理解度がわかったわ。お主のような愚者には未来も無かろうて、さっさと失せるがいい。」
そう言い残すとカシウスは発表用の回線から山背を追い出した。
「くそ、老害が!何故この理論を理解しようとしない!何が魔法は神の奇跡だ!ふざけるな!」
会議を追い出された山背は感情に任せ机を強く叩いた。
「まぁまぁ、落ち着きなよ。実際君の論文はよく書けている。それにこれは世界を変えることのできるもので間違い無いよ。」
そう言いながら、山背を宥めるのは山背の所属する研究室の教授でありる大友高聡教授である。
「先生、そうは言いますが、あそこまで相手にされ無いのは流石に心外です…。」
「まぁそう言うな、そもそも異界の門が開いて50年、魔法という文化は空想のものでしかなかった訳だ。だが、突然世界中で魔法が使えるようになり、動物が変化し、見た事のない人種、人外、妖怪、魔物がなだれ込み混ざりあった。その中で科学はある程度の効果しか見せず、異界の人間たちが持ち込み、今まで空想であったと思われていた魔法やら、陰陽術やら、仙術やらが効果を示し、地球に住む人類は滅亡せずに済んだ。そうなれば科学を捨てる人がいるのもおかしくない。」
「そうではありますけど……」
「待て待て、慌てない。
これらの魔法やら、陰陽術などは元々は魔力を使ったものであると分かったのは30年前、そこから無詠唱の技術が確立し普及したのは10年前ここだけ見てもかなりのスピードで進歩している事はわかるよね?そんな中で君の理論はこれらの上をいくものだと僕は考えるよ。僕自身、君からこの話を聞いた時は驚いた物だよ。しかも、君は僕の目の前でそれを実証してしまった。これは誇っていい事だよ。君には魔物狩りなどにならず、このまま研究室で研究して欲しい物だよ。」
大友教授はそう言って山背を優しく諭す。
その時、会議室の扉をノックする音が聞こえた。
「大友研究室所属の山背はいるか?」
ノックと共に高圧的な声で問いかけられる。
「どうぞ、山背君ならここにいるよ。」
そう答えると、大友先生が徐に会議室の扉を開けると警察が集団で雪崩れ込み、あっという間に山背を組み伏せ拘束する。
「14時34分、叛逆者山背浩二確保!ただいまより連行する!」
「待ってくれ!俺は何もしていない!叛逆者ってなん」
「黙れ!叛逆者!神の奇跡を侮辱し賢者カシウスに反抗、さらには出鱈目な論文を発表することで世界を混乱に陥れようとした!これは立派な叛逆だ!」
「待ってください!流石にこれは横暴すぎる!山背君は理論的に実証されているものを論文として発表している!それを最後まで聞く事なく中断したの賢者カシウス殿なのです!」
「大友教授、叛逆者を庇うのであれば叛逆者と見做して貴方も拘束しますよ?」
「それは結構!そもそも、指導員の私ではなく山背君だけを拘束するのはおかしく無いかい?この研究の発案者、実行者は山背君だが、責任者は私だ!」
大友教授は警察と警備員に向かってそう啖呵を切って見てた。
「ならば、お前も連行する。」
それだけ言うと警察が雷魔法を発動し、あっという間に教授を気絶させる。
「先生!おい!放せ!先生は関係ないだろ!」
山背は拘束を振り解こうと暴れる。
「黙れ叛逆者!今、お前の仲間の叛逆者も自白したのを聞いていただろ!」
大友教授を気絶させた警官はそれだけ言うと、組み倒され拘束されている山背の腹に蹴りを入れる。
「クッソ!ふざけるな!安全地帯で威張り散らしているだけの権力と金の犬どもが!俺の理論が間違ってなかったことを身をもって思い知りやがれ!」
山背はそう言って、自分と自分を組み伏せている警官の重力に対し重力と逆方向の引力を魔力により発生させ天井にぶつかる。
天井にぶつかった時の衝撃で拘束が緩んだ隙に拘束を逃れ、魔力を分散し地面に着地する。
「叛逆者が!大人しく捕まって居ればいいものを!」
拘束していた警官が悪態をつく。
「総員、戦闘態勢!魔法の行使を許可する!あの叛逆者を捕らえろ!」
大友教授に魔法を放った警官が新たに号令を出し、警官が各々の武器を構える。
「上等だ!やってやろうじゃねぇか!犬どもが!お前らなんか素手で十分!」
山背はそう吠える。
「叛逆者に身の程を分からせてやれ!第一陣ファイアーボールを放て!」
放ての号令で山背向かって多数の火の玉が迫る。
「甘いわ!無詠唱なのに魔法宣言してんじゃねぇ!」
山背は警官との間に魔力で二酸化炭素と水蒸気を大量に発生させ、二酸化炭素を膨張させ壁を作る。
その壁に当たったファイアーボールは徐々に消失し最後の光を出し後、その場には水だけが残った。
「叛逆者め!何をした!」
先ほどから号令を出していた警官が叫ぶ。
「簡単な話だ科学を勉強するんだな!で、次はこっちの番だよな!」
それだけ言うと山背は側に転がっている椅子を手に取る。
「叛逆者め、変な術を使うようだが、攻撃は猿と大差ないのか?」
先ほど自分達の魔法が消されたのを忘れたように警官達は腹を抱えて笑い出す。
「おいおい、そんな余裕ぶってていいのか?さっき、テメェら犬っころ共の魔法が消してあげたのに何も分かってないのか?」
腹を抱え笑う警官に対し、山背は椅子を持ち上げながら問う。
「は!椅子ごときで何ができる!こちらには魔力障壁があるのだぞ!総員!魔力障壁展開!」
警官達は号令を聞き笑うのをやめ魔力障壁を発動する。すると警官達の前に薄く光った壁が展開される。
「では、聞くが。お前らが使ってる魔力障壁ってなんだ?」
「何をふざけたことを言っている!魔力障壁は文字通り、魔力を盾にしている物だ!ふざけているのか?」
「いいや、巫山戯ていない。ただ、お前らの理解はその程度だからこれを防げない。」
そう言って山背は手に持った椅子を大きく振りかぶって投げる。
投げられた椅子は山背の手を離れた瞬間、警官達の後ろの壁を破壊していた。
魔力障壁を展開していた警官等はあちこちに飛ばされ、それぞれが怪我をしているようで彼方此方で呻いてた。
「な?防げなかっただろ?」
「巫山戯るな、化け物め……。」
山背の問いに号令を飛ばしていた警官はそう呟く。
「で、なんで俺が拘束されなければならない?」
「お前は賢者カシウスに逆らい世の中を混乱に陥れる為に嘘の論文を発表しようとした。つまり、お前は最近世界各地でテロを行なっている世界の破滅を目論む組織の一員であるとし連行せよと賢者会から命令が下ったからだ!」
「巫山戯るな!そんな滅茶苦茶な理由があってたまるか!」
「巫山戯てなどないわ!これは世界最高組織の賢者会からの正式な通達だ!お前はもう世界中で指名手配されている!我らから逃げたところで、世界はお前を逃さない!地の果てまで追いかけてやるから覚悟するんだな!」
それだけ言い切ると警官は気絶した。
「アホらし・・・」
そう呟くと頭をぼりぼりと掻きながら今後のことを考える。
「はぁとりあえず、人殺しにはなりたくないからな…」
それだけ呟くとあちこちに吹き飛ばした警官を集め、一度全員の意識を奪う。
その後、一人一人の怪我に対して治療を行なう。
全員の治療を終わってから気絶させられていた大友教授を起こす。
「なるほど、そんなことがあったんだね…。最近のテロ行為についてはニュースなんかで把握しているけど、異界の門が開いて以来、人間の生存圏はかなり小さくなって廃墟になった街は世界中にある。だから、世界の軍隊や警察もアジトを見つけれず手を焼いているのは知っているが…。いくら何でも流石に横暴だ…。」
「そうですね…。全世界で指名手配されているそうですし…。今はこの部屋に誰も入れないようにしていますが、今後どうするべきか…。」
「そうだね…。まず、君は逃げるべきだ。おそらく、この東京から早く脱出するべきだよ。」
「先生はどうされるんですか?」
「とりあえず、僕は残るよ。恐らく、あの警官の言い方なら君しか指名手配されていない。ならば、僕は東京に残ってできる限りの支援をしよう。生憎戦闘は得意じゃない、足手まといにしかなら無いからね…。」
「でも、それでは先生が危険では?」
「大丈夫、なんとかなるさ!まず、君は奈良に行きなさい歴史的に古いパワースポットが多くある。まぁ大方廃墟に近いかもしれないがまだ人間の生存圏は残っているみたいだし、何より私の知り合いが奈良に住んでいる。それに君の出身地でもあるのだろう?」
「それは、そうですけど…。でも、なぜ奈良に?それに先生の知り合いに会うのであれば先生も一緒の方が!」
「一緒に行ってあげたいのは山々だけどね、僕じゃ足手纏いにしかならないんだ…。見て?このお腹、走ることも出来ないよ。」
大友教授はそう言いながらお腹をポンと叩く。
「… わかりました…。気をつけてくださいね…。」
「山背君も気をつけてね。恐らく、この部屋を出たらすぐに終われるだろう。君のことだからこの部屋の音は外に漏れないようにしてるんだろ?だから、まず僕を魔法で気絶させてからいくといいよ。そうすれば僕もこのあと楽だからね。あと、知り合いの情報はここに書いてるから。」
「有難う御座います…。先生、お気をつけてくださいね?あと、おやすみなさい。」
「君もね、おやすみ」
最後の言葉を交わして大友教授を気絶させる。
そして、軽く体を動かし体をほぐし会議室の周りの魔法を解き、一気に走り出す。
「居たぞ!叛逆者だ!おえ!」
会議室で入口で待機していた警官達に見つかり号令が飛ぶ。
必死に追いかけてくる警官を振り払い、大学の外に出ると周辺住民から指を刺されていることに気が付いた。
「世界はお前を逃さない!」
頭の中で気絶前に警官が叫んだ言葉が浮かび、消えていく。
しかし、干渉に浸る間も無く警察の応援が到着した。
そして、この日から山背浩二の逃走生活が始まった。