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・王国最強を決める日 - ダイヤモンド鉱山 -

「あの王、結構言いやがる……。こりゃお前さんの自業自得だぜ、お坊ちゃんよ……」

「ふんっ、知らんな」


 国王は俺を、毒に冒されてもなお勝利を求める闘技場の英雄に仕立て上げた。エルスタンを直接糾弾こそしなかったが、やはり王はコイツに怒っているようだった。


「さあ、試合が始まるぞ。今日こそ、今日こそどちらが上か下かを貴様に教えてやる……。貴様さえいなければ、そう、貴様がいなければ俺はもっと騎士団で尊敬されていたはずなのだっ!!」

「いやそりゃねぇだろ……」


 俺は剣を抜いて、楽な下段の構えで相手を待った。


「シード選手エルスタン・シバルリー騎士団長が勝つかっ、あるいは毒に冒された老いた獅子、バーニィ・リトーが勝つかっ、運命を天へと任せよう!! 王の名の下に命じる!! 3日間の長い戦いを勝ち抜いてきた戦士たちよ、さあ、試合を開始せよっっ!!」


 あるのはエルスタンへのブーイングと、不利を強いられた俺への熱狂的な応援だけだった。

 結果、怒りにかられたおぼっちゃんは試合開始が告げられるなり、奇声を上げてこちらに斬り込んできた。


「どうしたバーニィッ、反撃はしないのかっ?! ワハハハハッ、ついに衰えてきたようだなぁっ!!」

「くっ……こんなことなら、こんなことならシノさんの尻、やっぱり触っておくべきだったな……」


「き……貴様ァァァーッッ!? 俺との試合中にっ、女の尻のことなんぞ考えるなァァーッッ!!」

「足下フラフラなんだ、妄想くらい勘弁してくれよ」


 エルスタンは怒りに我を忘れている。騎士団でも武勇だけなら5本の指に入るやつなんだが、この性格が災いして、平静を欠くと手玉に取りやすかった。


 おっさんはおっさんらしく老獪に、受け流しや軽い牽制で相手の疲れを誘いながら、大きな隙を見せるまで根気強く堪えた。


「なんだ、もう終わりかい……? どうしても勝ちたくて毒を盛ったのにそれでも勝てねぇなんて、だっせぇにもほどがあるだろ、お坊ちゃん」

「貴様の、時代は、終わったのだっ!! 貴様を倒して、俺は、貴様を超える!!」


「だったらもっとがんばれよ」

「殺してやる!! 殺してやるぞ、バーニィ・リトーッ!!」


 息も絶え絶えにエルスタンが剣を乱舞させた。

 さっきから行けそうな瞬間が何度かあったんだが、悔しいことに身体がまったく付いてこなかった。


 こりゃもっと煽って消耗させねぇと、こっちが先に潰れちまうな。


「そういや、エビフリャー号は元気かい?」

「ヌグッ……?!」


 激しい運動に血流が循環するほどに、僅かに残った毒が全身を巡る。それでも俺は余裕を崩さずに、痩せ我慢をして堂々と先輩面で通した。


 ありがとよ、エスリンちゃん。あの水鏡でアレを見せてくれなかったら、このカードは切れなかった。


「最低!!」

「それがお前の騎士道かよっ!!」

「騎士なんて辞めちまえー!!」

「バーニィさんっ、もう止めて! バーニィさんが死んだらボク嫌だよぉっ!!」


 歓声がエルスタンを精神的に追い詰めて、俺の足腰と闘志を励ました。

 国王は内心でこの展開を喜ばしく思っているだろう。皮肉なことにこれは、観客の誰もが叫ばずにはいられない最高のエンターテイメントだった。


 だが悪ぃ、俺もそろそろ限界だ。ああ、死ぬ前にシノさんの尻を触りたかった……。さらに成長して美人になったタルトの姿を拝みたかった。


「うげっ、口ん中が血の味がしやがる……。ああところでよ、エリスタン……」

「エルスタンだっ!! エルスタン騎士団長様と呼べ!!」


 一か八か、俺は勝つために捨て身の心理戦に出た。


「見つかったか?」

「何がだっっ!!」


「んなの決まってんだろ……」




「ダイヤモンド鉱山」




「なっっ……?!!」


 どうやらコイツは俺がグランプリに出ると知って、この激しく燃え上がる復讐心に突き動かされるがままに、ここへ乗り込んできたみたいだ。


 そこに俺が不意打ちの爆弾を投げ込んでやると、ヤツは激しい疲労に加えて、極秘中の極秘を突然に暴かれてか、未熟にも茫然自失となった。


 そしてその意識が再び現実に戻ってきた頃には、俺の剣がやつの首にかけられていたとくる。


「テメェらはバドの仇だ。俺の親友を殺しやがったテメェらには、ダイヤモンド鉱山は死んでも渡さん」

「貴様ッッ、これで勝ったと思うなよっ!! 騎士団と辺境伯がその気になればあんな遊牧民など――はっっ?! ま、まさか……き、貴様っっ!?」


「やっと気づいたか? そうだ、これで試合も陰謀劇もお終いだ。チェックメイトってやつだぜ、エルスタン騎士団長よ?」


 ところが勝ち誇ったのはいいんだが、やっぱ俺も歳みてぇだ……。


 俺は大歓声の下で勝利の拳を上げると、意思に反して身体が全く動かなくなっている事実に驚き、そんで足を踏ん張ることもできずにエルスタンを敷物にしてぶっ倒れていた。



 ・



 目覚めると白いふわふわがいた。わたあめみたいなその髪は女神エスリンちゃんのものなのに、その目は涙を流したかのように赤く腫れていた。


「よう、エスリンちゃん……。もしかしてまたホッカイドーに連れて行ってくれんのかい?」

「心配をさせるな……。なぜあんなバカなことをした……そなたは大バカ者じゃっ! あそこで死んだら、残されたツィーとラトはどうなるっ!?」


 なんだかんだ、エスリンちゃんは超いいやつだ。俺なんかよりずっと、あの2人のことを心配してくれていた。


「死んだのか、俺……?」

「……死なせない」


「どういう意味だ、それ?」

「そなたを死なせたくない……」


「ははは、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」


 神々の花園に寝そべっていた俺は、のぞき込むエスリンちゃんの頬へと腕を伸ばした。……死ぬ前に女神様の尻を触ってみたいんだが、そうはいかねぇだろうな、この雰囲気。


「違う! そなたは死なせられんのだっ!」

「同じだろ?」


「全然違う! あのときそなたが余計なことをしてくれたおかげで、因果が歪んだのじゃっ! そなたが死ぬと、あの勇者も死ぬ運命に改変されてしまった!」

「なんだぁ、そりゃ照れ隠しか?」


「バカ抜かせっ!! そなたのせいで、何もかもがしっちゃかめっちゃじゃ!! わらわはこうするしかなかったのじゃ!!」


 途端に眠気が俺の意識を奪った。

 ああもっと女神ちゃんとお喋りしていたいのに、俺は神々の園から追い出されていた。



 ・



「ぬぅ……惜しい男を死なせた。うぬのような英雄とは、もはや2度と会えぬであろう……」

「バーニィ兄ぃは死んでないよっ、ほらっ、ちゃんと生きてるってばっ!」


 せっかく人が寝ているのに、どこかのバカが俺の頬をひっぱたいた。

 痛みと驚きに飛び起きると、なんとそこいたのはタルトによく似た女性と、競馬史上最も気位の高い馬、ウィスキーボンボン号だった。


「お前、タルトか……? つーかなんでお前までいんだよ、相棒?」

「へへーんっ、どやっ! アタシ綺麗になったでしょ!」


「おお、綺麗だ……。俺の好みだわ……」

「へっ!? な、何その素直なリアクションッ!?」


 あちらではまた数年の時が流れてしまったようだ。俺の前に現れたタルトは、赤い艶やかな一輪の花となって俺の目を魅了していた。


 もうちんちくりんだとか、ガキだとかバカにできない。本物の美人ちゃんだった……。


「ところでバーニィ……ここ、どこ? なんかここ、ゲームで見たような――うわっ、なんかここコロシアムっぽいんだけどっ!?」

「うぬは本当に異世界の住民であったのだな……。むっ、アレはツィー殿か!」


 腕を見ると脱脂綿が紙の絆創膏で張り付けられていた。さらには身体の熱が下がり、疲労が綺麗さっぱりと消えて、あれだけ苦しかった呼吸も元通りだ。


 いったいタルトがどんな魔法を使ったのやらわからないが、もはやこれでは死にたくても死ねそうもない。まるで冷たく澄んだ草原の夜明けを拝んだかのように、清々しいコンディションで俺は目覚めていた。


「あ、それ? 獣医の学校で勉強したの」

「……はぁっ、俺ぁ人間様だぞ!?」


「オシリサワリは動物みたいなものだから、へーきへーき」

「なんか急に、気分悪くなってきたぞ……」


 俺は立ち上がり、あっけに取られた観客に向けて今度こそ腕を上げて見せた。

 たちまちに再び沸き起こる大歓声と、新チャンプを救った謎の医者に、会場はトーキョ競馬場に負けないくらいに震える地響きをたてて盛り上がっていった。


 エスリンちゃんとタルトのおかげで命拾いした。

 後は国王への謁見を果たし、ダイヤモンド鉱山の真実を伝え、交渉を取り付けるだけだった。



 ・



『目的のためとはいえ、これではもつれた糸に新しい糸を加えているようなものじゃな……。しかし、どちらにしろ死ぬ運命だった勇者を救えただけでも、そなたの功績は大きいかろう……。優勝おめでとう、バーニィ。さすがはわらわが目をかけたバーニィじゃ。これからはその最強の軍馬にまたがり、加えてマルス号を従えて草原を駆けるがよい。わらわはいつまでもいつまでも、そなたをここから見守っておるぞ……。わらわはそなたのせいで、まったく仕事が手に付かんのじゃ……』


 ありがとよ、エスリンちゃん。お前さんののぞき魔根性に救われたわ。

後3話で完結します。

もう少しだけお付き合い下さい。

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【新作宣伝】ブロックを重ねて町を作る、マイクラやビルダーズっぽいやつを始めました。
ビルド&クラフト 〜世界がブロックなのを俺だけが知っている〜
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