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41/52

・未勝利馬ウィスキーボンボンの勇躍

 6週間の放牧が明けて、ボンボン号は元の厩舎へと旅立っていった。

 今回はタマキさんの理解があり、かつ馬が成長期にあったので飛躍的なステータスアップとなった。


――――――――

【馬名】ウィスキーボンボン

【基礎】

 スピードB → A+

 スタミナB → S

 パワー S → S+

 根性  A+→ S+

 瞬発力 B → B+

【特性】

 闘志(睨んだ相手を怯ませる)

 不屈(スタミナが切れても走り続ける)

 騎馬突撃(圧倒的な突撃力で雑兵を踏みつぶす)

【距離適正】

 1800~3000m

――――――――


 ここまでくると、もはや別の馬と言ってもいい。

 3歳牡馬クラシックを狙う馬としては、極めて理想的な成長を遂げてくれていた。


 ま、雑兵はレース場にはいねぇと思うけどな……。



 ・



3月中旬――


 ホッカイドー南部にあたるヒダカに遅めの春がやってきた。

 もう少し経つと、肌馬から子馬たちが生まれてくる嬉しいようでやたらに大変な時期がやってくる。


 そんな中、俺はボンボン号と一緒に中央のレースに出るべく、ホッカイドーのセンサイから大空の旅に出た。

 出走前の調教や、エナガファームのみんなのために土産を買い込んだりすれば、あっという間にレース当日だ。


 土曜もあって客足の控えめなトーキョ競馬場にて、俺とボンボン号はゲート入りを待っていた。

 レースの名前はタマフジ賞。オープン戦と呼ばれる一流馬たちによる2000mのレースだ。


 まずはこれに勝利し、次のレースへの切符を手に入れる。


「がんばれよーっ、バーニィッ!!」

「負けるなよっ、おっさん代表!!」


 復活したバーニィ・リトー騎手とコンビを組んだ馬がいると、一部の事情通の間では早くも騒ぎになっているようだ。

 俺はスタンド席に手を振って、係員に誘われて新しい相棒とゲート入りした。


「この勝負、我らの勝ちだな」

「そういうことは勝ってから言え」


「この我の脚力に、うぬの馬術が加われば、かような匹夫どもに負けるはずがなかろう」

「ったく、お前さんは変な馬だぜ……」


「うぬにだけは言われたくない」

「慢心すんなって言ってんだよ。お、そろそろ始まるぞ」


「うむ。我を栄光に導いてみせよ、バーニィ・リトー」

「ブレねぇな、お前さん……」


 出走前の静けさの中、俺たちはただ緑のターフだけを見据えて時を待った。

 短いファンファーレが奏でられ、それが終わり、再び静寂が生まれて、軽快な音を立てて一斉にゲートが開く。


 ボンボン号と俺は1馬身ほど先行してゲートから飛び出すと、少しペースを緩めて後続の逃げ馬たちを先に行かせて、その後方に張り付いた。


 コイツは鬼っ子ほどスタートダッシュは上手くないが、それでもまずまずの好スタートだ。


「テンパってイレ込むんじゃねーぞ、このまま張り付いていくからな」

「御意……うぬに任せよう」


 差しや追い込みはハマれば強いが、この先行の作戦はどんな展開にも柔軟に対応出来る。

 ペースが速ければスピードを緩めて差しに切り替えて、遅ければ前に張り付く。


 今回はややスローペースだったので先行馬の有利だ。

 俺たちは逃げ馬たちの後ろに張り付いて、前をふさがれずにいつでも正面に出られる美味しいポジションをキープした。


「征くぞ、バーニィ! 我は駆ける! うぬは我を導くがよい!」

「よしきた、お前さんにしては騎手の命令を聞いた方だ。いこうぜ相棒!」


 やがて最後のコーナーに入ると、俺たちは逃げ馬との距離を詰めて、直線に入るまでに三番手と併走した。


「退け、下郎ッ! ギリッッ!!」


 年度代表馬すら萎縮させたあの激しい闘志と鋭い眼光で、ボンボン号は併走相手を睨んで失速させた。


「我らの進路を塞ぐかっ、笑わせてくれるわ! ギリィィッッ!!」


 二番手の騎手はルール違反とされる進路妨害を狙ってきたが、知能の高いボンボン号にそんなものは通じない。内枠から併走すると、あの眼孔が2番手を叩き潰した。


 鬼っ子とはまったく乗り心地が違うな。

 アイツが騎手の命令に素直な優等生なら、コイツは超わがままな問題児で暴れ馬だ。ソイツを上手く操縦しながら、俺は一歩抜けた先頭馬に併走する。


「これが重賞馬? 我の敵にあたわず! 下がれ下郎が!!」


 いや貴人っていうより、チンピラにまたがっているような気分だ……。

 馬の次元を越えた凄みが先頭馬を失速させると、俺たちは差し馬の追走を許さぬまま、残り200メートルを駆け抜けた。


 土曜の第5レースだったのもあって、スタンド席の賑わいはそれほどでもなかったが、それでも観客の興奮と熱狂が俺たちのゴールインを祝福してくれた。


 ゴール板を確認すれば、2位と7馬身差の勝利だ。

 タマフジ賞の勝者は、未勝利馬ウィスキーボンボン号で決まった。


「信じてたぜ、バーニィ!!」

「その馬すげぇじゃねーかっ!!」

「ちくしょう、一着はわかってたんだけどなぁ……、最終レース待たずにまたオケラかよぉ……」


 こうしてウィスキーボンボン号は3歳牡馬クラシック舞台へと、新たなる流星のごとく駆け上がった。

 日曜の最終レースでもないのにトーキョ競馬場は白熱した興奮に包まれて、あまりに気位の高い愛馬ボンボン号の鼻息を荒くさせるのだった。


「バーニィよ……」

「なんだよ、相棒」


「レースというのは、これほどまでに楽しいものだったのだな……。我はうぬに……いや、やはりなんでもない」

「はは、お前さんらしくねぇな。けどこれで賞金も入る、この金でツィーにおしゃれさせてやろうぜ」


「それは――それは次も必ず勝たねばならぬな。も、もしよければ調教師殿に、写メを……」

「すまん、こっちの世界の機械はよくわからねーんだわ」


「この無能めがっっ!!」


 俺の相棒は、女の子が大好き過ぎるところが玉にきずだった。


 いやそもそも知らない女の子の写真なんて送りつけられても、調教師(おやっさん)が困るだろう。

 それをお前さんに見せろと言われても、たちの悪い冗談としか思われないぞ……。


「我は必ず成績を残す……! そして必ずや、あのエナガファームに、種牡馬として凱旋するのだ!」

「けどその頃にはもう俺ら、元の世界に帰ってるぞ?」


「バ、バカ……そんな、バカな……ッ」


 その一言でボンボン号が猛烈に落ち込みだしたので、シャメンを必ず送らせると、うかつにもそう約束しちまっていた。


 すまんがおやっさん、奇妙なことを頼むがわかってくれ。その馬は気位がやたらと高いが、同時にとんだ女好きなんだ……。



 ・



 次走はダメ元でG1の五木賞に登録することになった。

 優先出場権を得られるレースで上位に入った馬をのぞけば、賞金を多く稼いだ馬から順番に出走権を得られる。


 残念ながらボンボン号は除外――つまり、五木賞の参加権が得られなかった。


「調教師さんに赦免? 何それ?」

「だから、シャメンだよ、シャメン! オシャレしたツィーのシャメンを、ボンボン号に送ってやってくれよ」


「え、なんで? バーニィ兄ぃ、ついにボケてきた?」

「別にボケてねーよ……。ツィーの新しい服が見たいって、アイツが言ってたんだよ……」


「意味わかんない。なんで馬が人間の女の子のかわいい格好が見たいのさ? おかしいよ、バーニィ兄ぃ」

「俺か!? おかしいのは俺なのかっ!?」


 次のレースはG2である榛名賞を予定している。

 このレースの上位に入れば、ダービーの優先出走権が得られる。


「頼む……榛名賞で勝てるかどうかがかかってるんだ……。騙されたと思って、シャメンを送ってやってくれ……」

「シャメンじゃないよ、写メだって、写メ。もうわかったよ。じゃあ、明日デートしてくれたらやってあげる!」


「デートだぁ? それ、シノさんにぶっ殺される案件だぞ……」

「へへへ、それはそれで面白そうだなぁ~」


「いや面白くねーよ……」

「ねぇお願い、バーニィ兄ぃ。街で美味しいクレープ一緒に食べて、映画に連れて行ってくれるだけでいいからっ!」


「だけどよ、お前さん、受験は?」

「ぅ……それもがんばる……。はぁっ、ツィーとラトがきてくれてよかったよ、おかげで勉強に集中出来るし……。あの子たちって凄いよね!」


「……なんかだいぶ参ってるみてぇだな。うしわかったっ、明日は息抜きといくかっ!」


 あと2回勝てば、またこの世界とお別れだ。王都の宿で朝を迎えて、その足で最終日の連戦に加わることになる。もしこの世界を去れば、次に戻れるのは何年後だろうか……。


 そう思うと、徹底的にこのかわいい妹分を甘やかせてやりたくなった。

 がんばりな、タルト。お前さんが獣医の学校にちゃんといけるように陰ながら応援させてもらうぜ。


 ま、祈るだけだけどな。


「やったぁっ、バーニィ兄ぃありがとっ、大好き!」

「現金だな、おい……」


「そうだっ、買い物も付き合ってよ! あと美味しいランチもガッツリ食べたい!」

「でっかくなってもお前さんはお前さんだな。1日くらいどこにだって付き合ってやるよ」


 ジョシコーセーになったタルトは赤毛の美しい美人になって、尻なんて気軽に触れない女らしさでいっぱいだった。


 タルトとシノさんと、それにあのタマキさんと、同じ時の流れの中で生きられたらどんなにいいだろうな。

 もうじき別れの日がくる。彼女もそれがわかっているからこそ、きっとこんなわがままを言い出したのだろう。


 俺もシャメンが欲しい。元の世界に帰る日は、シノさんとタルトとタマキさんと、相棒たちのシャメンを持って帰ろう。

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