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・放蕩オヤジと細い手首 - 老人と騎手 -

「バ、バーニィくんっっ!?」

「よう、久しぶりだな」


「おお、バーニィくん……バーニィくんではないかねっ! まったく、まったくどこに行っていたのだね君はっ!? はぁぁ……っ。だが、だがまたこうして顔を見れるなんて、まるで夢のようだよ……。バーニィくん、よく帰ってきてくれたな……っ!」


 タマキさんは杖を落として俺の両腕にしがみつき、実体を確かめるように何度も力なく握り締めていた。

 俺たちはもう友人だ。友人のために必ずダービーに勝たなければならない。


「タマキさん、俺は異世界に帰るって言ってただろ?」

「またそんなことを。君はまだそんな冗談を言っているのかね?」


「ホントだって、信じてくれよ、タマキさん……。お……」


 雪景色の放牧地の方に目を向けると、ツィーとラトが1歳馬の騎乗訓練を手伝っていた。

 マグダ族は小柄なので、まだ成長し切っていない馬の騎手に最適だ。草原で培ったその馬術は、エナガファームの従業員を驚かせっぱなしだった。


「しかしまったく老けていないな、君は……。ほれ見てくれこの手首を、あれからこんなに腕が細くなってしまったよ」

「そうか? 男の腕をそんなにじっくり見る習慣はないからな……。4年前と全然変わってねーと思うぜ?」


 彼の細くなってしまった腕に触れて、それから俺はツィーとラトに大きく手招きをした。

 すると軽快な足取りで1歳馬たちが牧草地を跳ねて、こちらにやってくる。


「それよりあっちの世界の仲間を紹介するよ」

「仲間? 仲間とはあの子供たちのことかね……?」


「あの2人は見た目ほど子供ってわけじゃないぜ。マグダ族っていう遊牧民の子たちでな、女の格好をしているがいかにも気が強そうなのがツィー。おとなしくてやさしそうな方が弟のラトだ」

「ど、どうも、初めまして……。バーニィさんとタルトさんから、大まかに貴方のお話を聞いています……」

「へー、なんかやさしそうなお爺さんだね。うちらここで住み込みの牧童やってるのっ、よろしくね、眼鏡のお爺ちゃんっ」


 ツィーの方は挨拶もほどほどにして、馬を降りると大きな缶を使った即席ストーブへと両手を当てていた。

 タマキさんが牧場見学をしながら暖を取れるように、俺たちが用意したものだ。


「どちらも馬の扱いが巧みでな、この体格もあって子馬に騎乗を覚えさせるには最適な人材なんだ」

「もしや、君たちはバーニィくんの子供かね?」


「んなっ、んなわけねーだろっ!?」

「ないない、うちのお母さん父さんにゾッコンだったもん。バーニィが入る隙間なんて、ご飯粒1つ分もないよ」

「そ、そういうのはだめだよっ、ツィー……ッ」


「だってそうじゃない」

「そ、そうだけどもっと言い方が……。あ、バーニィさんっ、ボクはバーニィさんこと大好きですよっ! ぁ……っ」


 お、俺は傷ついてなんかいねぇぞ……。別にこれっぽっちも、傷ついてなんていないからな……っ!

 騎士の養子が遊牧民の娘とどうこうなんて、そんなの許されるわけがねぇだろ……。しょうがなかったんだよ……っ。


「それはすまない、私にはそう見えてしまったようだ」

「冗談きついぜ、タマキさん……」


「しかしバーニィくん……私は今、死んだ息子が帰ってきてくれたかのような気分だよ……。ああ、こんなに嬉しい日はない……」


 そうか……。これだけ老齢なら息子に先立たれても不思議じゃない。この人も悲しみを背負って生きてきたんだな……。


「タマキさん……。長らく手紙もなしに不在にしてすまねぇ……。まさか、そんなふうに思ってくれていただなんて……。実は俺も、タマキさんのことを――」

「いやですよー、タマキさんったら♪」


 ところはこれはどうしたことか、シノさんがおかしそうに笑いだした。


「またそうやってー、すぐに人をからかうんですからー♪」

「ほっほっほっ、からかうなんて人聞きが悪い、年寄りのちょっとした冗談ではないですか」


「へ……? おい、まさか……」

「ほほほっ、君を息子同然に感じているのは事実だがね、息子は天国ではなく本社でバリバリと働いているよ」


「こ、このジジィ……。まぎらわしい言い方すんなよっ!?」

「ほっほっほっ、あれっきり姿をくらましたっきりのバーニィくんが悪いのだよ」


 そこまでやり取りして、肝心の本題を忘れていることに気づいた。

 この流れならいけるだろう。いやタマキさんが俺のお願いを拒むはずがねぇ。


「だからそこは悪かったよ。俺たちの国は飛行機じゃ行けないところにあってな、ホッカイドーに帰りたいって思っても、そう簡単には帰れないんだ」

「何を言う、それくらいなら私が君のためにチャーター便を出そう」


「悪いが出前なら間に合ってるぜ。それよりタマキさんにお願いがあるんだ。よければアンタのウィスキーボンボン号に、俺を乗せちゃくれねぇか? 俺はこの牧場で産まれたボンボン号で、今度こそジャパンダービーに勝ちたいんだ。頼む、タマキさん」



 ・



 しばらく天気が良かったんだが、急に雪が降り出したので俺たちは事務所ではなく自宅へと移った。

 ボンボン号の専属騎手になれたかどうかだなんて、そんなものは説明するまでもないことだ。


 俺たちは暖かな居間でこの再会をゆっくりと噛みしめて、そこで俺はそこでチャーター便がチューカ料理屋とは全く関係ないことを知るのだった。


 悪い、チャーハン便だと思ってたわ……。

 油で炒めた米があんなに美味いなんて、さすがはホッカイドーだった。


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