・リトー騎士領 - 余話 ガールズトーク男入り -
その一方ラトあるいは、令嬢ララは――
「これはもしかしての話なのですが……。ララ様は、バーニィおじさまのフィアンセですの?」
「えーっ、それはないないっ! だってあの人立派なおじさんじゃない!」
白くてちょっと露出の多いドレスを着せられたボクは、ロッコ・オドク様の邸宅にある客室にて、ロッコ様の異母姉妹に左右を囲まれていた……。
男だとバレたら冷たい目で見られてしまう……。女装が大好きな変態だと思われてしまう……。
ボクはソファーの上で小さくなって、このあんまりにもあんまりな扱いに困り果てていた……。
「そうですの? わたくしはちょっとだけ、あのおじさまもいいかな……。なんて思っているのですけど」
「げぇー、趣味悪いーっ。それお兄ちゃんが聞いたら顔面蒼白で発狂するやつじゃん」
「そうでしょうか? これでバーニィ先輩と本当の兄弟だと、案外喜びそうな気もしますの」
「えー……あの人と親族となったら、毎日お尻触られそう……」
それはあるかもしれない。
けどその話に乗れば興味の矛先がボクに向く。だからボクは寡黙なお嬢様を演じなくてはいけなかった。
「わたくしは別に触られても嫌ではありませんのよ?」
「げぇぇ……ないないない、絶対ないっ!」
向かいのソファーが空いているのに、お嬢様たちはわざわざボクの左右を囲んだ。お茶を口には運んでは素朴なお菓子をかじって、ボクを挟んでかしましくはしゃいでいた。
バーニィさんが言うとおり、ボクは父さんのように貴族階級と対等にやり取り出来るようにならなくてはいけない。それが族長の務めだ。
だ、だけど……だけどこれって、本当に社会勉強になっているのだろうか……?
「ち、違います……。ボク、あ、ちが……私、バーニィさんに助けてもらって……」
「あら、やっぱりそういう事情でしたのね」
「え、あ、はい……」
「ま、あのおじさん、なんだかんだやさしいもんね。同僚の妹のお尻を挨拶代わりに触るような、最悪のドスケベオヤジだけど……」
え……バ、バーニィさんっ!?
いくらなんでも、貴族令嬢のお尻を触るのはさすがにまずくないですか……っ!?
「わたくしは別にかまいませんの。バーニィおじさまは、性格は残念でも顔はイケメンですの」
「はぁぁーっ!? あんなおじさんのどこがイケメンなのっ、それ趣味悪いって!」
「なら、ララさんはどう思いますの?」
「最低に決まってるよね! もしちょっとでも惹かれてるなら止めておいた方がいいよっ! あれって最低最悪の女ったらしだから!」
そこまで言われると、ボクの中で抗議の感情が芽生えた。
確かにバーニィさんは、その……問題も、かなりあると思う……。
スケベだし、大ざっぱだし、ときどきツィーと一緒になってボクのことをいじめるし……。でも……。
「あの……でも、私は……バーニィさんは、あの……。わ、私は素敵な人だと、思います……っ」
そう口にしてみると、堪えられないくらい恥ずかしくなってボクは耳まで顔が熱くなっていた。
バーニィさんの名誉を守ろうとしただけなのに、ボクは何を言っているのだろう……。
「だめだよ、ララちゃんっ、おじさんはおばさんと恋愛するべきなの! 女の子があんなのに引っかかったら絶対ダメだよっ!」
「わたくしはお似合いだと思いますのよ?」
「姉さんっ!」
「大丈夫ですの。あのおじさん、お尻を触る以上のことはしてきませんの。……もしかしたら、本命がどこかにいるのかもしれませんの」
「あ。それ、意外とあり得るかも……」
「え、そうなんですか……?」
ついそう問い返すと、ボクはロッコさんの妹さんたちと少しずつ打ち解けていった。
バーニィさんに本命がいるとしたら、それはきっと……。
その息子の思い上がりでなかったら、それは死んだ母さんなのかもしれない。
ボクを見るあの人の目は、ボクではない遠い何かを見つめていることがあった。