August
2024年歌会始の詠進歌
毎年1月に天皇皇后両陛下の御前で歌会始の儀が催されております。
皇族方のご列席のもと、御製、皇族方のお歌と共に、一般の詠進歌、選者、召人の歌が被講されます。
ついては、和歌、短歌に魅力を感じる野原いっぱいも、参加するため歌の制作を進めて参りました。
お題は『和』で一般の詠進歌の応募は9月30日が期限となっており、現時点で下記の短歌が出来上がっております。
本編ではそれぞれの作品に関して、自評を記すとともに応募作品の選定理由を明らかにして参ります。
和の歌
(一)
洋式も 和式も君の
カウンセラー
モヤモヤ晴れて 今日も爽快
(評)
ストレスの解消を生理現象とリンクして短歌形式で表現しましたが、ユーモア川柳の傾向がみられる作品です。ただ、宮中で行われる厳かな儀式用として取り上げるには、品位に欠け相応しくなさそうです。
***
(二)
今年の 漢字を筆で
描くなら
戦よりも和を 夢を真に
(評)
2022年度に選ばれた「今年の漢字」『戦』を念頭に置き、平和な世の中になるようにとの期待を込めて作成しました。実際には、2023年の漢字は年末に決定するわけですが、明るく穏やかな文字であることを希望します。
***
(三)
病人も 老いも若きも
一つ屋根
隣も織屋 昭和懐かし
(評)
昭和時代の家庭環境は三世代の同居が多くみられ、同上の風景は自らの体験でもあります。もう遠い過去の思い出となっており、有名な句である『明治は遠くなりにけり』を念頭にまとめてみました。(注1)
***
(四)
鬼は外 ばらまけばらまけ
福は内
雪がコンコン 和気あいあい
(評)
リフレインの技法を各所に使ってみました。節分豆まきのシーンですが、家族一同、大人も子供もそしてペットも一緒になって楽しんでいます。
***
(五)
手をつなぎ アニソン唱和
荷車からも
お国の宝 散歩でござる
(評)
今や少子化問題が重要課題となっており、政府もこども家庭庁を創設し取り組んでいます。全ての大人が、将来の日本を担っていく子供たちに気を配り、その成長を見守っていくことが必要です。
***
(六)
いにしえの 梅見の宴が
元号に
万葉美花 令和に輝く
(評)
昭和、平成、令和の三連作の一つで、新元号発表の時期に創作しました。令和は万葉集の歌が由来で、歌人である大伴旅人の家で開かれた梅の花の鑑賞会で読まれたとされています。(注2)(注3)
***
(七)
可愛いね 飛び交う声に
立ち止まる
尻尾ふりふり 皆和みたり
(評)
大手スーパー通路の一画にあるペットコーナーで、買物客がアクリル越しの子犬たちを見て思わず立ち止まっています。その愛らしい姿と仕草に心が癒されます。
***
(八)
カラス啼き ウグイスさえずり
鳩ポッポ
不協和音が 告げる曙
(評)
明け方の静けさの中で物音を聞くと目が覚めます。古くは鳥の声で夜明けを告げる歌は有名ですが、自身も複数の鳴き声を耳にしながら朝を迎えます。(注4)
***
(応募作品について)
詠進作については、事前発表が禁じられているため除外しましたが、その概要と選考に至った理由を説明して参ります。
その前に、一般の応募は国内外から約2万首あり、その中から選者によって十首選ばれるという超狭き門であります。
しかも、応募者はいずれも短歌創作に精通した人々ばかりで、年配者の場合は全国にある短歌会や同人グループに所属していると思われます。
おそらく、いずれも自信作ばかりが集まってくると思われ、そうした中で素人作品が俎上に上がるのは至難といえます。
しかしながらここは乗りかかった船、やり通す以外ありません。
一縷の望みを託して策を練るとすると、真っ先に預選歌を決める立場にある選者に関心が向きます。
2023年度歌会始の選者は、三枝昴之、永田和宏 、内藤明 、今野寿美の方々ですが、いずれも現代有数の代表歌人です。(注5)
従って、一般の入選作品はいずれも『お題』を有効に取り入れた優れた短歌ばかりです。
長い歴史を有する行事であるだけに、伝統的な作風を重んじる一方で、世の中の変化に見合った今風の表現にも配慮してこられたと思います。
ただ、両陛下ならびに皇族方のお歌も披露される皇居での伝統行事であることから、従来の手法とは極端に異なった独創的または奇抜な短歌は、控えざるを得ないのが現状であります。(注6)
一方でいわゆる型にはまった作品を提出しても、優れた応募短歌の中にあっては、顧みられないままに埋もれてしまうでしょう。
そこで、ある程度突飛な発想で注目を集めることも考慮する必要があります。
そのような観点から三つの要素を念頭に置きました。
(一)お題が『和』であることから、現在ウクライナ紛争が連日ニュースに取り上げられ、耳目を集めていることもあって、戦争のない世界になることを連想します。その関連の詞が入っていることがベストだと思われます。
(二)基本的な短歌形式を踏蹴しながらも、稀有な表現も取り入れたいと思います。ある程度選者の目に止まれば成功です。
(三)応募規定には一人一首となっています。もちろんそれに従いますが、秘策を練ることによって、関心を得たいと思います。
更には最近評判の『CHAT GPT』では作れないことも必須です。
(注1)中村草田男 『降る雪や明治は遠くなりにけり』
(注2)万葉集一文 『于時初春令月、氣淑風和、梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香』
(注3)大伴旅人 『我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも』
(注4)清少納言 『夜をこめて鳥の空音ははかるともよに逢坂の関は許さじ』
(注5)三枝昴之 『あかるさの雪ながれよりひとりとてなし終の敵・終なる味方』
永田和宏 『きみに逢ふ以前のぼくに逢いたくて海へのバスに揺られていたり』
内藤明 『右腕がよぢれて内にもぐりたる黒きコートが吊るされてあり』
今野寿美 『泥のごと暮れ果てにける坂降りて〈土器町〉にいきなり出会ふ』
(注6)俵万智 『「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日』
小池光 『佐野朋子のばかころしたろかと思ひつつ教室へ行きしが佐野朋子をらず』
穂村弘 『体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ』
最後に一句
『皇室と血のつながりは紀元前』