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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『いじめ』※意味がわかると怖い話

作者: 藤色

いじめていた側は自分の犯した過ちをすぐに忘れるが、いじめられていた側はその事実を人生で忘れることはない。


Aは今年で27歳になった。

玄関で革靴を履き、ノートパソコンが入った重いビジネスバッグを手に取る。

コートを身に纏い行ってきますと誰もいない1Kの部屋にボソッと呟く。


右も左もわからないまま、周りの流れに身を任せる人生だった。

高校卒業後は私立の大学に通い、誰もが知っている大手企業のグループ会社に就職した。

何か明確にやりたいことがあって大学に進んだ訳でも就職した訳でもない。

周りには何かやりたい事が見つかった時に選択する権利を持っているためにこの道を選んだと言い張っているがそんな物はでまかせにすぎない。

今後も今までと同じように周りに流されて生きていく事は自分もどこかでわかりきっていた。


そんな考えを持たないAが唯一持ち続けている信念があった。

それは小学校の時に自分の事をいじめていた人達を見返すことだ。

今まで何かで諦めそうになった時はいじめられていた過去を思い出し自分を奮い立たせた。


いじめは小学校6年生の夏に起きた。

どこの学校にもいる俗に言う’’イけているグループ’’のリーダーがAの何かが気に食わなかったのか、あいつのこと無視しようと言い出しそれから卒業まで誰一人として口を聞いてくれなかった。

その後中学校に上がるといじめていた主犯格は中学受験をし居なくなったことによって、今までいじめていた人達は何事もなかったかのように話しかけてくるようになった。

こちらもいじめられていた事を忘れているように振る舞い、’’イけているグループ’’の一員となった。

そして社会人になった今も定期的に自分のことをいじめていた人たちと会うように心掛けている。

会っている理由はただ一つ。自分の原動力になっている復讐心、反骨心がなくなることが怖かったからだ。


Aは家から駅まで向かう道を歩いている時にふと1ヶ月前のことを思い出す。

年末の長期休暇で実家に帰省した際に、そんないじめていたことを頭の片隅にも残っていない人たちと飲みに行く機会があった。その際に転職しようと考えている、残業続きで倒れそうだ、仕事始めが憂鬱だと愚痴を吐いており、密かに心の中でガッツポーズをしたことを覚えている。

何故ならAはここ最近仕事の成績は右肩上がりで、来期から会社として一番期待されているプロジェクトのリーダーを任せてもらえる事が決まったからだ。

話を聞いている時は同情するような演技をしていたつもりだが、もしかしたら口角は嘘をつけていなかったかもしれない。


駅のホームに着き、視界の奥にいつも乗る電車を捉えつつ

次の乗換えを最短で済ます事ができる乗り場に立ち終えたその時だった。


「ドンッ」


Aは何者かに背中を押され路線に転がり込む。何が起きたのかわからなかった。

さっきまでは遠くにいた目の前まで迫っている電車を避けることはできないと言う事実だけをしっかりと認識する事ができた。

ホームを見上げると1人上下スウェットを着て、毛むくじゃらのいかにも不審者のような男がAを見下ろして立っていた。Aは何故か絶対に知り合いにいるはずのない風貌をした男を懐かしく感じた。そして男はAを指差しこう呟いた。


「中学の時にお前にいじめられたこと忘れてねえからな。」

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