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探索しまして

 森の中は静かなものだった。入ってすぐにモンスターが現れるなんていう事も無く、野生の動物もそこまで多くはない。時折野うさぎが姿を見せる程度だ。

 薬草も森の外側には生えていないので、ある程度中まで進行していく。

 そういえば具体的な森の深さなどは前情報として確認していなかったな、と思いつつそこまで慎重になる必要も無いなと感じる。

 森から出るとすぐ側に街道が通っており、自分の位置も分かりやすいからだ。それに森の中も構造が簡単なので、警戒心も薄れるというものだ。


「それにしても……薬草少ないわね」


「まぁ、この程度の森じゃしょうがないんじゃないかな。村の森とは規模が違うよ」


 ミャーレの零した言葉に同意する。獣道を歩きながら薬草を採取しているのだが、故郷の森に比べると数は少ないし質もそれほど、といった感じだ。

 言った通り故郷の森とは規模が違うのでしょうがない。

 薬師としては気になるのだろう、ミャーレがため息をつきながら薬草を採取している。ここら辺の薬草で作れそうなのは、せいぜいが傷薬と腹痛の毒消し、品質の低い各種ポーションといった所だろう。


「カイン、もうちょっと奥に行きましょう」


「うん、いいよ。やっぱり気になる?」


「そうね。品質も良くは無いし、森の浅いここらへんは知識の無い冒険者が来るんでしょう。根こそぎ採取されてる形跡があるわ」


 ほら、とミャーレが指し示す場所を見るとなるほど、根っこを掘り返した後がある。それもかなり乱暴なものだ。

 知識の無い素人がよくやる根本から一気に根っこごと薬草を引っこ抜いた跡だ。これをされると、新たにこの場所に薬草が生えてくるのに時間がかかる。

 知識のある薬師や農民であればこんなやり方はしない。葉だけを摘んでいく。そうすると、根こそぎ持っていくよりも次また同じ場所で採取できるし、薬草の本体を傷付けずに済むのだ。

 これに関しては勉強してくれ、としか言えないので仕方ないものと諦める。森の深層であれば良質の薬草も摘めるだろう。

 そうして深い所へと足を進めながら、周囲の気配を確認する。どうしても比べてしまうのだが、故郷の森に比べて野生動物もモンスターも少ない。


「ん、ウサギ発見。仕留める」


 獣道を通る俺達の前にぴょっこり顔を出した野うさぎを仕留める。小さな氷の礫を一発射撃し、傷が大きくならないよう威力を調整して額を撃ち抜いた。

 そのまま丸ごとシャドウスペースに仕舞って終了だ。これで野うさぎは三匹程シャドウスペースの中に入っている事になる。


「どうしよっか。売れるのかな? ギルドで」


「売れるのかしら。皮は取っておいて肉は食べてもいいんじゃない?」


「それじゃそうするか」


 今回貰った依頼表の中に野うさぎは入っていない。多分冒険者に依頼をするまでもなくうさぎは王都には供給されているのだろう。

 森の深い部分へと進行していくと、段々と足元に生えている草の様子が変わってくる。浅い層よりも葉っぱの緑色が深くなっているのだ。

 薬草の場合色に関しても品質を見分けるポイントで、色が深い程効能も強くなる傾向にある。今俺達がいる場所くらいであれば、先程の薬草を使うよりも品質の高いものが作れるようになる。


「ここら辺から摘んでいきましょう」


「そうだね、品質も悪くないし」


 ミャーレの言葉に頷いて一緒に薬草を摘む。傷薬に毒消し、火傷に効くもの……と、珍しくはないが用途の多い薬草を摘んでいく。俺とミャーレであればそこら辺の雑草と混ぜ合わせてもちゃんと効能が期待できる程度には品質の良い薬草が生えていた。

 勿論周辺への警戒をしつつ各種薬草を摘んでいくと、段々と森の深層へと進んでいく。薬草を追いかけていたら自然と深部に行ってしまうのだ。

 それにしても、と思う。


「フォレストボア、全然いなくね?」


「そうね、もしかしたら居ないのかも。気配も無いし」


「まぁ、そういう事もあるよな」


 これだけ深部へと入ってもフォレストボアに遭遇できていないのだ。ミャーレの言うように森に居ない可能性もある。野生動物も少ないし、モンスターも居ない。それほどこの森が大きくもない証拠なのだろう。

 納品はいつでもで大丈夫と言われているから、時間をかけて捜索すればいいか。

 考えながら今は目の前の薬草摘みをしていると、ミャーレの猫耳がピクリと動いた。


「もう少し奥に、水の気があるわ」


「泉か川か?」


「多分泉ね。摘みながら行ってみましょう」


 ミャーレの言葉に頷いて薬草を摘みながら奥へと進む。すると俺の方でも気配が捉えられる距離になった。

 確かにこれは泉だな。それと……割と大きな気配が2つ。


「何かいる。フォレストボアかもしれない」


「わかった」


 お互い気配を消して前へと進む。故郷の森ではよく薬草を摘む時にもモンスターや野生動物を狩る時にも隠形が役に立つので自然と覚えたのだ。

 森となるべく同化しながら泉の方へと進み、草木の間から泉の前の様子を見る。すると、手前側で丁度泉の水を飲んでいるフォレストボアが一体と、奥の方に少し人影らしきものが見える。

 どうやら奥のものに関してはフォレストボアは興味を抱いていないようで、ガブガブと泉の水を飲んでいた。

 ミャーレが指を振って合図をして、俺達は動く。隠形を継続しながら俺は氷の槍を生成し、未だ水を飲んでいるフォレストボアの頭に射出する。

 槍は正確にフォレストボアの頭を撃ち抜き、悲鳴を上げる間も無く殺してみせた。それと同時にミャーレが奥の方へと進み、気配の元へと近づいていく。

 そちらはミャーレに任せ、俺はフォレストボアの前へとやってきた。特に痩せている訳でもない、普通サイズのフォレストボアだ。額からは血が流れ出ているので、完全に一撃で絶命させられただろう。

 丸ごと持って帰ればあとはギルドでやってくれるかなと思いそのままシャドウスペースへと仕舞い込む。

 すると、奥の方の気配へとゆっくり近づいていたミャーレが、若干慌てたように戻ってきた。


「何、なんかあった?」


「なんかあった、というか。とりあえず一緒に来て」


 そう言って俺の手を引くミャーレに大人しく従うと、段々彼女が何を言いたいのか理解できた。

 その気配は確かに大きなものだ。人間サイズのものである。どうやら寝ているらしく、その場からは寝息が聞こえてきた。あろうことか、大の字になって無防備な状態だ。こんな森の中でこんなに無防備に寝ているのは流石に警戒心が薄いなんていう程度では済まない。

 だがそれよりも、何よりも。その気配の正体は赤かった。


「くかー。くかー」


「これ……モンスター、よね?」


「多分、いや、見た目では間違いなくモンスターだ」


 透明度の高い赤、といった身体をした、人形をしたモンスター。恐らく、いや間違いなく。目の前で寝息を立てているその正体は、モンスター娘の一体、レッドスライムだった。

 スライムは森の中やダンジョンに出現する、掃除屋とも呼ばれるモンスターだ。不定形の身体をしたスライムは細かな隙間などから現れ、森の中では果実や草を主食としたり、既に死んだ動物やモンスターの死骸なんかを食べて生きている。ダンジョンでも基本的に人間に襲いかかるような事は無く、主に死骸を食べて生きているそうだ。

 だが人間側から攻撃を仕掛けると話が変わってくる。物理的な攻撃にめっぽう強いスライムは、攻撃してきた人間を丸呑みにして消化してしまうのだ。なので基本的にはスライムに関しては攻撃を仕掛けないようにと小さい頃から親から教えられている。

 この世界でスライムを退治しても、獲得できるのはスライムの核となっている魔石程度だ。だがスライムを倒すにはその魔石を砕かなければいけない。なのでスライムを敵に回しても良いことはそんなに無い。


「くかー。くかー」


「それにしても……どうする?」


 俺の言葉にミャーレが困ったような顔をする。俺も多分同じような顔をしているだろう。

 なんで無防備にこんな所で寝ているのかという事と、倒した方が良いのかという事。いきなり攻撃を仕掛けて無防備な所を殺すのも後味悪いし、かといって見なかった事にするのも、といった具合だ。


「どうしよっか……。とりあえず、起こしてみる?」


「そう、するしかないよな」


 状況的にそうするしかなさそうだ。ミャーレの意見に頷くとミャーレが寝ている彼女の肩を揺すり始めた。見た目的にはミャーレと同じ程度の体躯に見えるスライムは、ミャーレの肩ゆすりに瞑っていた眼を静かに動かした。


「んー。なにー?」


 そう言って目をこしこししながら上半身を起こす。寝ぼけ眼でミャーレと俺の姿を確認しながら、ふわぁと大きな欠伸をした。


「なにー、人間さん。ルビリアは眠たいの」


 再びふわぁと大きな欠伸をしつつ、背筋を伸ばして両腕を上に上げるスライムは、俺達を見て言った。


「おなかすいた。なんかちょーだい」


「なんなんだこの警戒心の欠片も無い生き物は……」


 あまりの自由さに俺が恐れ慄いていると、スライムは俺の腰に挿している陶器の小さな瓶に目を向ける。


「なんかそこに美味しそうなのが。ちょーだい」


「美味しそうなのって……これか?」


「そう、その中身。匂いが美味しそう」


 無防備に両手を伸ばして頂戴のポーズをするスライムに、俺は腰に差した陶器の瓶、中身がヒールポーションのものを差し出す。するとスライムはポーションを受け取って無警戒にコルクの栓を開けると、口の中に流し込んだ。

 中身を全て口に流し込むと、ごっくんと飲み込んで笑顔を浮かべる。


「これはこれは。結構なお点前で」


「お点前って……お前は何人なんだよ……」


 あまりにも無軌道すぎる発言に思わずツッコミを入れてしまう。すると彼女は笑顔を浮かべて胸を張りながら強調した。


「スライムのルビリアなのだ。美味しいごはんの礼に、褒めてつかわそう」


 本当にこいつモンスターなのか。そう思い、どこか人間臭いこのスライムと会話をしなければいけない事に気が重くなってくるのだった。

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