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鳥と遭遇しまして

 ガラゴロと音を立てながら荷馬車は進む。荷台には荷物はほとんど無く、中身の空いた樽が3つ程置いてあるだけだ。

 行商人、と言っているがトールさんはトールマンの街にある商店の経営者だ。普段はこんな風に行商に出る事は無い。

 では何故こんな風に自らが御者をして荷馬車で来たのかと言うと、俺が今日旅立つからだ。

 旅の工程としては一日かけてトールマンの街へ移動、トールマンの街で一泊、そして2日かけて王都へ行くという事になっている。

 トールマンの街から王都までの同行者は俺とトールさん、ミャーレとトールさんの商店の丁稚二人となっている。


「それにしても……本当にあまり揺れないですね。馬車はもっと揺れると聞いてたんですが」


「えぇ、そうでしょう。理屈としては単純で理解できますが、この技術は大きな商いになってますよ」


 この技術、というはいわゆるサスペンションである。金属板を馬車の下に重ねて配置する板バネだ。

 以前の馬車は荷台の下に棒を通して車輪を取り付ける簡素な仕組みであったが、この板バネによって多少の改造は必要だったが、以前よりずっとラクに馬車に乗れるようになった。

 また衝撃が薄いという事は配送の際に今までより速度を出しても馬車自体が摩耗しないという利点もある。それにより、以前より行商などの商いの質が向上した。

 この技術に関しては、俺が前世を知識を生かしてトールさんに預けた知識の一つだ。この技術をトールさんは買い取り、馬車の製造から行商の範囲を広げたりなどに利用して利益を得ている。

 俺とトールさんはそういう関係なので、トールさんは今日わざわざ村に迎えに来たという事だ。


「トール印の馬車は既に王都でも幅広く普及しています。皆さんも将来馬車が必要になるでしょうから、その際にはトール印の馬車を用立てましょう。お安くしておきますよ」


「冒険者向きの馬車ってあるんですか?」


「勿論。冒険者も拠点から遠出する時には仮拠点として使用したり荷物を置いたりモンスター素材を運んだりと、馬車を所有していると有利な時が多くありますよ。そういう馬車は普通よりお金をかけて頑丈にしています」


 ヘリスの疑問にトールさんが答えて、みんなでへーと感心する。自動車の普及していないこの時代、確かに馬車の用途はかなり多い。荷物を運んだり遠出したり荷台で仮眠したりと、そういう場合には確かに有利だ。

 何も馬車は物流だけの使用用途ではなく、人足なども運べるのだ。


「それで、この板バネの技術に関しては……」


「勿論、特定技術として申請してあります。あと5年は有効期限がありますからね」


 特定技術とは、この世界における特許だ。少なくともこの国では同じ技術を使用して何らかを作成する場合、技術の開発者にお金を支払った場合にのみ使用が許可される。

 他国に技術が流出する可能性はあるが、その場合は流石に保護されないが、この国だけでも同じ技術の流用を抑制する、もしくは使用料を支払ってもらい同じ技術を使用するのは大きな利益になる。

 この利益に関しては半分が俺が受け取り、トールさんがもう半分を受け取る。だが、俺は田舎の元寒村にいたのでお金の使い道が無いから、トールさんにおまかせしてそのお金をプール、あるいは運用して貰っている。


「カインさんのお陰で我が商店の利益はうなぎ登り、あと10年は少なくともこの好調が続くでしょうね」


「へぇ~、カインそんな事してたんだ」


 トールさんの言葉にミャーレの俺を見る視線が妖しくなる。


「そんな目で見るな。俺は自分の知識を生かしただけだ。それに村だってその恩恵を受けてるだろうが」


 村の発展は著しい。元寒村とは思えないくらいに今は人口が増えている。新たに移り住む者から村の発展により新たに生まれた子供もいる。

 元寒村は、今は空前のベビーブームだ。


「別に村の事はどうでもいいけれど。トールさん、カインってどれくらいお金持ってるんですか?」


「おま、バカやめろ。それを聞いてどうするつもりだ」


「はっはっはっ。さすがに他人の貯金を教えることはできませんねぇ」


 ミャーレの不躾すぎる発言にトールさんが真っ当な返事をした事で、俺はほっと息をつく。

 俺も正直自分がトールさんに預けている金額を全て把握している訳ではないが、以前ちょっと聞いた時に「相当ですよ」と耳打ちされたのだ。

 トールさんが相当と言うのであれば、相当なのだろう、うん。


「まぁいいけれどねぇ。そのお金を元手に商売したら? カイン」


「一度お誘いしたんですけれどね、お断りされちゃいました」


 そんな言葉の後にはっはっはっと大笑するトールさん。まぁ、自分で商売するのもちょっと考えた事はあるのだが、どうにも自分には向いていない予感しかしなくてお断りしたのだ。

 アイデアは出せるが自分で運用するよりトールさんに運用してもらった方が絶対儲かる。なので自分では商売はしないのだ。


「俺はどう考えても商売には向いてないですからね。トールさんに運用してもらったほうが遥かに儲かりますよ」


「そういうものかもね。確かにカインは商人よりモンスター倒してる方が向いてるかも」


 そんな事をいうミャーレにトールさんが再びはっはっはと笑う。

 ガラゴロと音を立てながら進む荷馬車の中はそんな和やかな空気になっていた。

 そうして半日ほど進んでそろそろ夕日が差してくる頃合いに、外で護衛をしていたヘリスが大きな声をあげる。


「上! でかい鳥だ!!」


 今は街道を走っている荷馬車だが、たまにこういう事もある。平坦な道なりなので視界が開けているが故に、空からのモンスターとの遭遇はあるのだ。

 ちなみに故郷は森の切れ目だ。

 ヘリスの言葉にトールさんが馬車を止め、俺とミャーレが荷台から飛び降りる。ヘリス達は既に武器を構え戦闘準備だ。

 ヘリス達の視線の先に、黒い影がある。間違いなく鳥、距離からいって結構な大きさの奴だ。それが3体、こちらへ向かっている。


「あれは、トロールバードだな」


 俺の言葉にヘリス達が頷く。トロールバードの索敵レンジはかなり広い。1キロ先くらいまでは見えているだろう。

 ハゲワシにも似た首長の鳥だが、トロールの言葉通り奴らは大きい。体長3メートルくらいだろうか。羽を広げた横幅は15メートル以上だ。


「さて、どうするか」


「弓矢でもいいけど、魔法でいいんじゃないか?」


「じゃあ近づくまでに魔法準備」


 ヘリスと俺の言葉にみんなで頷く。魔法が使える者は魔法を待機し、魔法が苦手な者は武器を構える。

 俺は魔法組だ。俺の横でミャーレが自分の身長と同じくらいの長さの杖を構える。魔法の発動体としてミャーレは杖を使うのだ。

 そして俺も同様に、魔法を使うので発動体は杖だ。自分の影に手を差し出すようにして構えると、その影からにょきにょきと俺の杖が伸びてくる。

 これは闇魔法の一種、シャドウスペースという魔法だ。自分の影や任意の暗闇に文字通り空間を作り、そこに普段は荷物を収納している。

 どの程度の荷物が入るのかは詳細は分からないが、家一軒程度の荷物であれば完全に入り切る。


「相変わらず便利な魔法だな……」


 俺の身長よりも長い杖を取り出した時にその光景を見たヘリスが言う。

 この魔法は収納時と取り出し時に魔力を必要とするが、その際のコストとしてはそれほどでもない。最初の魔法発動時に容量の決定を行い、その容量の空間を作成する際に莫大な魔力が必要になる。

 俺はこの空間作成時に全身全霊、ガチのマジで魔力を使い切りそうなくらいまで魔力を注ぎ込んだので相当な空間が確保できている。


「言ってないで、来たぞ」


 もう姿がはっきりと見える所まで来たトロールバードに杖を向ける。「ケー」という怪鳥の鳴き声を鳴らしながら急加速で近づいてくるトロールバードに、各々の魔法が炸裂する。

 氷の矢で頭を貫かれ、石の礫で羽に穴が開く。俺も単純に氷の矢を杖の先から打ち出し、トロールバードの頭に突き刺した。

 哀れトロールバードは引きつけるだけ引きつけられ射撃された魔法により、あっという間に墜落するのだった。


「……無残」


「可哀想に、皆さんにかかればトロールバードがただのエサですな」


 思わず言ってしまった俺の言葉に、トールさんがトロールバードへ憐れむ視線を送る。


「さて、それじゃあ。剥ぎ取りをしないとな」


 ヘリスはそう言いながら、にこやかに解体用ナイフを取り出すのだった。


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