転生しちゃったので
転生した。転生だ……転生ってなんだ?
輪廻転生の概念はわかるが、実際にこうして生前の記憶を持ったままで別人として新たに生を受ける、というのを体感するととても不思議な気分になる。
だがまぁこの意識も悪くは無い。何せ知性というのは時間を経て育まれるものだ。そういう時間を持って成長していくというのも勿論大事だが、それをスキップできるというのは割合便利なんだろうと思う。
何せ大人からすれば子供を育てるというのは負担のかかる部分ではあるのだから。
さて、それでは自分の身辺を考えよう。
今の自分は精神はともかく肉体的にはまだまだ子供だ。両手を見ると大人のものよりぷにぷにとした印象を受ける。
子供の身体は硬くない。筋肉がまだ育っていないからだとかそういう理由はあるのだろうが、特に不自由していないから問題は無い。
年齢は3歳、本当に子供だ。生前の自分の記憶を遡っても一番古い記憶は3歳だったから、まぁそこはいい。
問題は確実に脳内に直接"インストール"されているとしか思えない知識だ。
デジャヴュなんてものではなく、自意識に芽生えた途端に湧き上がる知識。この世界は"剣と魔法"の世界である。名前は知らない。そんなものは"インストール"されていない。
その知識によれば、俺はこの後、年齢は定かではないが冒険に出るらしい。そうして冒険に出た先で、モン娘……モンスター娘と生前で呼ばれる存在にぐっちゃぐっちゃのエロエロにされてしまうらしい。
……なんだそれは。同人誌か、ていうか同人ゲームかもしれない。
その先の事は分からない。いやだって、"そういうモノ"なのだから。ストーリーの整合性は二の次、エロエロな展開さえあれば問題の無いモノなのだ。
その先に何があるのか、想像の翼を広げてもロクな目に合わないのは目に見えているがな。なにせホラ、そういうモノだから。
にしても、だ。そんな知識がある状態で、こういう風に転生して、一体何をしてもらいたいのだろうか。それが分からない。
分からない事が分かっている状態。で、これをどうするかが問題だ。
何せこの先にエロエロな展開が待っている。いや、エロエロなのは別にいい。俺も生前は成人男性としてある程度の知識も経験もあるし、それ自体は構わない。問題になるのはその先だ。
ただの子種製造機になる未来しか浮かばない。それは嫌である。えぇ、とっても嫌ですよ、流石にそれは。
幸いにして今の俺は、その旅に出るまでの期間がある。何が理由で旅に出るのかわからんが、とりあえず期間だけはある。
ならばそうだ。それまでに鍛えようと思う。主に自分を。この世界は剣と魔法とモンスターの世界だ。何か方法があるだろう。
ええい、ままよ。進めばわかるさ。やってやろうじゃないか。
何にしろ最初は、子種製造機になる未来から遠ざかる為にも、鍛錬を積み重ねていこうと思う。
それから10年。10年だ。俺は13歳になった。
日々鍛錬を積み重ねつつ、知識の吸収を行い、今日生まれ育った村から旅立つ。
何で旅立つかって? その理由は分かった。この村は"元は"寒村だ。俺には兄が居る。それも3人。
一番上の兄であるトレバーはウチの畑を引き継ぐ。次男のマルスは村の自警団兼狩人として村に残る。二人共既に村の女性と結婚しているので。三男のドゴットは既に村に居ない。鍛冶師の修行でこの国の王都に行ったのだ。
そして末っ子の俺も、村を出る。理由としてはドゴット兄さんの様子を見に行くのと一緒に、この国で冒険者となる為だ。
冒険者はこの国では国の戦力として傭兵として使うのと同時に、世界に存在する"迷惑な"モンスターを退治してその肉から何からを利用して国を発展させる素材に利用する為に狩る狩人という扱いだ。
一応国に所属するものではあるが、前世で言う公務員などというものではない。むしろセーフティネットに引っかかっている立ち位置だ。
土地の所有権が公的に無い、商人としての才覚など無い、だが腕っぷしには自信がある。どちらかというと荒くれ者の集団という方が近い。
そういった人たちにタダで金を分け与える事も問題になる国が、冒険者という制度を作りモンスター素材などを換金してくれるのだ。
あぁ、別に俺に何らかの才覚が無いという訳ではない。むしろ才覚はあると自覚している。だってこの国では読み書き計算ができるだけで商人として一定の能力があると見做されるのだから。
だが商人になっても、俺の将来に対して保証されるのか言われれば答えはノーだ。何せ将来にはモンスター娘が立ち塞がっていると予想できるのだから。
商人などのいわゆる戦わない職業に就いても、どういった形で将来モンスター娘と遭遇するか分からない。というか何らかの理由でモンスター娘と遭遇する確率は高いだろう。
その状態で、モンスター娘に遭遇したら一方的にアレじゃないか。なので俺は戦う術を身に着けた。その術を活かし、冒険者となる。
「カイン、気をつけて行ってくるんだよ」
「そうよ。あなたは……確かに強いけど、強いモンスターは世の中にたくさんいるんだからね」
村の出口で俺に声をかけてくるのは父親であるフェレンと母親のマインだ。
父はその尖った耳でお馴染みのエルフ種。母親はいくつになっても背が小さく童顔なドワーフ種。そんな俺の名前はカイン。どちらかというと父親寄りの母似の顔立ちをしているらしい。
この世界、エルフもドワーフもいる。モノによってはエルフもドワーフもモンスターと呼ばれる場合もあるが、この世界では人種だ。
父は綺麗な金髪をしており身長も高く、顔もエルフらしい美男子。母は愛くるしい童顔と小さな体格の可愛い系の顔立ち。
そんな両親の間に生まれた俺は童顔で一般的なドワーフよりも随分高い身長と、父親譲りの金髪に翡翠のような色味の眼をしている、らしい。
らしいというのは、家に鏡なんてないから。この世界、鏡は田舎の村落で買えるほど数は普及していないらしいので、自分の顔をまだまじまじと見ていないからだ。なので詳細は分からない。
「大丈夫だよ、俺一人で出る訳じゃないんだし。ミャーレもヘリス達もいるんだから」
「ま、カインだったら一人でも大丈夫じゃないかとは思うけどね。トールさんもいるし、王都までの旅路は大丈夫ですよ」
俺の言葉に続くように言うのがこの村の自警団兼狩人として仕事をしていたヘリスだ。今回俺の旅路へのついでに、この村から一番近くて栄えているトールマンという街で冒険者デビューを果たす予定だ。
ヘリスの他に4人のこの村出身者でパーティを固めて冒険者として活動していくらしい。トールマンで冒険者登録が終わったら、そのまま俺達とは別れてトールマンで活動予定。
そしてトールさん、というのはこの村に行商に来ているトールマンで商売をしている商人だ。トールマンの街の出身者では一番使用率の高いトールという名前をしている。前世で言う太郎さんやジョンだろうな、何となく不憫だ。
トールさん以外に俺の同行者として一緒に王都に行くのはミャーレ。猫獣人種の娘さんだ。
「ミャーレ、カインを頼むよ。この子は腕っぷしも頭も良いが、何せこんなナリだ。何があるかわからん」
「えぇ、任せてください。カイン君はお守りします」
トン、と自分の胸を叩きながら言うミャーレの姿に、お前が一番危険なんだが……と思いつつ微妙な表情を浮かべてしまう。
俺の3歳年上のミャーレはこの村の長老のお孫さんだ。俺と一緒に長老の姉である薬師のばあさんから魔法や薬の知識を師事していた同窓生でもある。
俺はどちらかというと魔法、それも攻撃系の魔法を重点に置いて師事していたのに対し、ミャーレは薬師として薬剤等の知識に重点を置いて師事していた。
薬師のばあさんは2年前に老衰で静かに息を引き取ったが、村の薬師はミャーレ以外にも存在する。今はミャーレの母親が村の代表薬師だ。
そしてこのミャーレ、俺を性的に襲った女である。まだ精通も来ていない男の子を力技で組み敷いて性的関係を持つという最悪の女だ。
後から聞けば発情期がどうこうと言っていたが、そんなの関係無しにこの女が俺を襲った事実は消えはしないのだ。
タチが悪いのはミャーレは俺が彼女にある程度好悪の好を持っている事を理解して犯行に及んでいる点にある。
その時も魔法でぶっ飛ばしたりガチで力づくで抵抗するなりできはしたのだが、そういう手段に及ばない程度には俺が彼女を嫌いではない、という事を理解して襲っているのでタチが悪い。
なので俺としては、ミャーレが今一番の危険人物となっている。
「さて、それでは行きましょうか」
言うと同時にトールさんが荷馬車の御者席へと座り、手綱を握る。俺とミャーレは荷台へと腰掛け、ヘリス達は荷馬車の護衛だ。今のうちに冒険者の予行練習として、荷馬車を護衛するのだ。もちろん報酬も出る。
そうして荷馬車がガラゴロと音を立てながら進み始めて、俺は背後へ振り向く。
村の入り口には俺の両親だけではなく、他のメンバーの両親も手を振っている。
それに笑顔で手を振り返しながら、俺は生まれ育った村から旅に出るのであった。
【作者からのお願い】
作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら
下記の評価・ブックマークをお願いします。
作者の励みとなり、作品作りのモチベーション向上に繋がります。