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今日はこれで終了です。少なくて申し訳ないです。明日も同じ感じになると思います。
さて、魔術師ギルドに戻ってきた。
早速俺は、幼女エルフに交渉した。
「すみません。出来れば日給制にして欲しいのですが……」
幼女エルフは思い出したように言った。
「ああ……あんた、無一文だったわね」
その通りである。俺は無一文。ついでに言えば、ここ二日何も食べていない。川の水を飲んで飢えを凌いでいるのだ。
圧倒的ホームレス。異世界転生して乞食になったおっさんは俺だけなのではないか?
多分、需要がないだけで、誰かは実行していると思うけど。
「いいわよ。日給だから……一日銅貨十枚ね。三十日で銀貨三枚分よ」
それがどれくらいの価値なのかは分からないが、うやうやしく頭を下げておいた。
金は大事だな。奴隷を買うにも国外へ出るにも、資格を手に入れるにも必要である。
自己啓発本とかで、金は無価値だ無意味だと書いてあるやつがあったけど、その著者に言ってみたいぜ。無一文で異世界転生でもしてみろってな。
「えっと、あなたの仕事は、基本的に私と他の研究員の仲介もあるけど、それ以外にも幾つかあるわ。スキル構成的に戦闘が無理で、遺跡研究くらいしか出来ないから、今日行ったあそこのレポートを毎月纏めるのが今のあなたの仕事よ」
何も無い事をちまちまと纏める仕事を貰った。羊皮紙だった。
「外は危険だから、遺跡に調査に行く時は、私に声をかけるか、他の研究員の人を誘ってね」
無意味な事に付き合わせるのは非常に心苦しいのだが、幼女は頑張ってと声をかけると、どこかへ行ってしまった。
どうしよう。自主的に研究とかした方がいいのだろうか。
日本は研究費とか大学とか、教育に金を使わないスタイルだから、おうち実験ガチ勢が主流だと聞く。
やるべきか、おうち実験。
……そもそもおうちがなかったな。花田山太郎三十代。家無し。
いつかは自分の家を持ちたいぜ。
その為には、功績を挙げて昇給昇進をしていかねばならぬ。
「いくか……遺跡調査」
さっき行ったばかりだけど、日本人だけが分かるという情報もあるかもしれない。
まずは、ここの研究員に挨拶していかないと。一応新しく入ったという連絡はしてもらったらしいけど、元々研究者は個人気質。みんなを集めて紹介とかはされなかった。
幼女エルフの研究室を後にして、俺は魔術師ギルドを歩き回ることにした。
魔術師ギルド。ジメジメした薄暗い魔女の館みたいなイメージがあったが、そんなもの吹き飛ばすような場所だった。水の街だからか、一階は廊下に水路が走っている。きらびやかなキャンドルが照らしてめちゃくちゃ綺麗だ。
奥の部屋は図書室だろうか。廊下と比べたら暗いが、その蔵書数に圧倒される。
「すげぇ……」
魔法使いのイメージその通りだった。時々物音がするところから、誰かはいるのだろう。図書室では静かにすべきだから、ここは後回しにする。
一階は図書室がほとんどだったので、二階へと昇る。ちなみに、幼女エルフの研究室も二階である。
一通り見て回ったが、ここは研究室ばっかりだった。研究の邪魔をするのも悪いし、次へ行こうと思う。
三階も研究室。次。
四階は、少し違う部屋になっていた。
「陰謀の匂いがする……」
ここだけ明かりの数そのものが少なく、人が活動することを目的としていないようだ。
好奇心に引かれて四階を探索する。気分はTRPG。陰謀を暴いて世界を救うのだ。
捜索すること一時間。この場所が物置だということに気付いた。
まあ、何か興味深いものがあるかもしれないので、適当に漁りまくる。
「ぬ?」
なんか箱を見つけた。棺桶サイズ。
「美少女ヴァンパイアルートだなこれは……」
まだ見ぬファンタジー美少女を求めて箱を開けると、そこには干からびた謎の皮があった。人間のミイラである。
「うっわ。キモ」
グロ画像はネットで見慣れているが、実物はさすがに気持ち悪いと思う。カサカサの肌というか、石みたいな肌に、尻尾がある。
「ん?」
確かに尻尾があるぞ。これはケモ耳ミイラか。
残念ながら、頭部はミイラの影響なのか、中年オヤジよりも寂しい荒野を晒している。
「まあ、ちょうどいいか」
実験道具ゲットだぜ! まずはこいつの復元を狙う!
ということで、棺桶を背負って二階へと戻ることにした。
「ひぃ……ひぃ……」
運動不足の身体には、推定二十キロの重さのミイラは辛いよ。
膝がめちゃくちゃ痛い。
「あっ! どこいってたの!」
研究室に戻る途中で、幼女エルフに出会った。探してくれたのだろうか。
「少し、周囲を探索しようと思いまして」
「それで、なんでこんなもの背負って来たのよ?」
なんか欲しかったからだ。ネット小説とかじゃこういうの復活させてヒロインにできるし。
こいつの名前は今日からコンである。よろしくな。俺のヒロイン。
「研究材料として使いたかったんです」
「でも、私こんなものが魔術師ギルドにあるなんて聞いてないわよ? これほど大きい箱なら、申請書も出るだろうし、確認くらいするわ」
そこら辺しっかりしてるよな。この世界。
誰かが適当に放り込んだりしないのだろうか。
「でも、四階に置いてありましたよ?」
「ほんとぉー?」
幼女が疑っている。だけど、俺は無一文だからこんな荷物あるわけないし、四階から取ってきたとしか言えないのだ。
「……まあ、適当に置いたやつなら勝手に使ってもいいでしょ。そういうのしっかりしないと問題になるって理解するいい勉強になるでしょうし」
「ありがとうございます」
優しい幼女だ。ルールに厳しい。
財布の中身盗む奴とかいると、持ち物リストとか作らされることになるよな。所持金額他の人に見せて確認のハンコを押して出勤するシステムがあったけど、窃盗時に証拠とかで使うらしい。誰かは確実に幾ら持っていた。とかって。
普通にロッカーくらい用意してくれよ。
「さて、とりあえずあんたの給料を日給制に変えてきたわ!」
なんと、幼女エルフは俺の為にどこかへ行っていたらしい。感謝が尽きない。
「ありがとうございます」
「いいってことよ!」
ニカッと笑う快活な幼女様を拝んでおく。ありがたや。
「ちょうどいいし、今の時間ならみんな顔出してるだろうから、挨拶にでも行く?」
「いいんですか?」
まさかの幼女からみんなへ挨拶回りする機会を与えてもらえるとは。
俺はコミュ障を患ったブサイクなので、こういう場面では自発的に動くのは苦手なのだ。
「いいわよ。それじゃあ行きましょう!」
幼女に連れられて、今度こそ魔術師ギルドのメンバーに会いに行くことになった。