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今日のこの分は予約投稿です。まだ更新します。が、更新まで少し時間がかかります。
魔術師ギルドで一日が始まる。
「おはようございます!」
業界での新人の仕事は誰よりも早く出社することだ。そして、他の社員が気持ちよく出社出来るように清掃などの準備をしていく。
そうすることでやる気を示して、上司に覚えを良くしてもらうのだ。
そこを怠ると、上司が説教しに来る。
こういうのはね、新入りが率先してやることで、覚えていこうとする意欲があるんだなーって判断して、俺たちも教えるのよ。そうじゃないと、いつまで経ってもやる気も根性もないってことで、誰も教えようとしなくなるんだよ。
ぶっちゃけ死ねって思う。
教えなけりゃ困るのは上司達なのにな。
なお、そういう上司は業務を教えてこない。偉そうに覚えたかー? とか聞いてくるだけだ。
新入りに仕事を教えるのは、基本的に一年先に入った先輩達である。
ぶっちゃけ死ねって思う。
「お、おはよう……あんた。早いわね」
幼女エルフが驚いたような顔で挨拶を返す。大変可愛い。
おっさんよりも可愛い幼女の元で仕事したいよな。世界の真理だわ。おっさん可愛くないもん。殺意しか湧かない。
「おはようございます。ミトさん。早速ですが、何か仕事はありますか?」
「あー……あんた、研究員じゃないから、基本的に仕事は私からの指示を他の研究員に与えるくらいしかないわ。だから、適当に私の研究室で魔法の勉強してていいわよ」
インターンなども無い魔術師ギルドという業界だが、ここは思ったよりも緩い会社だった。
上司のミスを押し付けられない。上司の仕事を押し付けられない。週休二日制という名の、金曜日に月曜日の朝が締め切りの業務を渡さない。
最高の職場だった。まだ入って一日目だけど。まだ週休二日制とサービス残業の有無はわからないけど。
幼女のミスくらいなら、笑顔で責任を取れそうだ。
「それじゃあ、本棚にある書籍を幾つかお借りしますね」
幼女から許可を貰って研究室の隅で本を読む。とりあえず魔法陣を読んでいくことにした。
俺に魂から滲み出る魔力を扱えるとは思えない。
適当な本を見繕って読んでいると、違和感に気づいた。
異世界言語、普通に読めとるやんけ。
見たことない文字だが、はっきりと読めている。正しいのかどうかとかわからないけど。するりと脳に意味が入ってくるのだ。
まさかの識字チート発覚。
出来ればもう少し派手なチートが欲しかったなぁ。
これはこれでありがたいので、有効に活用させてもらうが。
読み進めていくと、触媒魔法に面白い記述があった。
『触媒を使った魔法陣は、基本的に物質か魂を交換で魔法を発動させるものである。これは、全ての触媒魔法の基礎であり、そこから発展して、触媒の効能を引き出す魔法陣が作られた。なので、多少効率は落ちるが、代用物品があるのなら、それでも魔法陣は起動する』
ふむふむ。なるほど。
これ、俺の精子触媒に出来るんとちゃう?
いや、だって精子だって物質だし、半分だけど命の源でしょ? 一寸の虫にも五分の魂あるんだから、一つの精子に四分の一くらいの魂あってもおかしくないでしょ。
なんなら無垢の魂なんだからより価値が高いでしょこれ。
なんだこれは、たまげたなぁ。
「どうかしたの?」
幼女エルフが、勝手にたまげてた俺を見て本を覗いてくる。
正直に答えたらセクハラになってしまうので、適当に誤魔化した。
「いえ、少し特殊なアプローチ方法を思いついたので、後で実践してみようかと思いまして」
「へぇ、すごいじゃない。早速やって見せてよ」
え、それは……。
幼女の前で抜けというのだろうか。流石にビンタされそうである。
「ちょっと、今すぐでは材料の採取が難しいので、後日でいいですか?」
「そう? 結果だけでも教えてね」
純新無垢な幼女の眼差しが痛い。股間にグッとくる。
今すぐボロロンしたいぜ。
流石にやらないけどさ。
「ええ、結果くらいなら教えますよ」
「あ、午後からは遺跡の調査に行くから、準備しなさいよ!」
どうやら幼女エルフと遺跡デートに行けるらしい。
「喜んで支度させていただきます」
「そ、そう……」
にっこりスマイルを向けると、幼女エルフは引きつった笑みを返してくれた。
俺の顔がブサイクすぎて辛い。
遺跡、と言っても街のすぐ近くにある小さな祠みたいなものだった。
「ここよ。一応古代文明らしいけど、特に情報も見つからないのよね」
泥に半分埋まっているような何かの物品が、草に覆われている。幼女エルフは、それを前にしてガチャガチャと荷物を取り出して検分したりしている。
「部屋の中に入ってもいいけど、何も無いからね」
何かの機械とくっついて、部屋があった。そこも、泥に沈んでいるらしく、入ったところで何も無かった。
「それでも研究をやり続けるのは、どうしてですか?」
「ぶっちゃけ、ここの仕事は遺跡調査で何もわかりませんでしたーって書くだけよ。それでも研究費は出てるからね」
ウチはもっぱら魔法開発専門。と幼女は肩を竦めた。なんとも言い難い立ち位置のようだ。
ちなみに、俺は幼女エルフからの指示を研究員に伝えるのが仕事だが、幼女エルフは幼女エルフで、さらに上から何かの命令とかを受けている。中間管理職のようだった。
それでも、森で足を怪我して泣いていた幼女とは思えない地位の高さだ。
「エルフって、長齢で知力も高いし魔力も高いのよね。それで、こんな中途半端な役職に、若いのに入れられてるわけ」
とは幼女エルフからの言葉だった。
「やっぱり何も無いわね。さ、帰りましょう」
それから一時間ほど、適当な検査をして、幼女エルフと俺は、荷物をまとめて魔術師ギルドに戻ったのだった。