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今日はこれで終了です。
幼女に案内されて、薬草を手に入れた。
「なに、あんた冒険者なの? もしかしてその年で新しく入ったとか?」
「いえ、魔法を覚えに来ました」
色々さらけ出した後なので、なんか普通に幼女と話せた。
幼女は胡散臭いものを見る目で俺を見つめる。
「その年で?」
「夢を追うのはいつだってできることですよ」
おっさんが言ってた。応援もしてくれた。Sランクで会おうって。
もう会えないや。
「ふーん……ここよ」
幼女の示した場所には、確かに他と違う見た目の草が群生していた。
でもそうと言われなきゃ分からないと思う。
「ありがとうございます」
適当に数本摘み取る。そして、習得書を開いた。魔法陣に薬草を乗せて肩から流れる血を垂そうとする。
いや、そういえば幼女も足怪我してたわ。
「失礼します」
「ちょっと! 何するの!」
幼女の足から血を拝借。魔法陣に擦り付けた。
「魔法陣……? 随分古い技術を使うのね」
幼女が感心したようにつぶやく。古い技術なのか。これ。
魔法陣がじんわりと光り、幼女の足の傷が癒えていく。
「おお……」
すげえな魔法。サロ〇パスよりも早く効果出るわ。
しかし、代わりに魔法陣と触媒は消えてしまった。
これで、魔法スキル手に入ったかな。回復魔法とか手に入ったかもしれない。
「あ、あたしにしてくれたの……? ありがと」
「気にしないでください」
肩はめちゃくちゃ痛いけど、幼女の少し照れた笑顔でむしろプラスだぜ。
「私はこれで帰りますが、幼女さんはどうします!」
「幼女じゃないわよ! いや、幼女だけど、エルフだからしょうがないの!」
名前がわからないので、幼女さんと呼ぶと、幼女は憤慨した様子で答えた。尖った耳を見せてきて、エルフだと胸を張った。
ブラはまだしてないらしい。ツンと尖ったところが素敵だ。
「帰るわ。私も、もう目的は果たしたもの」
「そうですか。それじゃあ帰りましょうか」
なんとか自然に幼女と一緒に帰る流れにできた。
「待ちなさい」
ダメだった。事案発生か。
「あんたの肩の傷が治ってないでしょ!」
「あ、でも。もう魔法陣は使いましたし」
「描けばいいじゃない」
描けないんだよなぁ。これが。
魔法陣の形とか薄ぼんやりとしか思い出せない。
俺だって治せるなら治したいよ。
「魔法陣の形を覚えていないものでして……」
「……あぁ、習得書に書いてあるしね」
納得いかれたようだ。と、幼女は突然地面にガリガリと絵を描きだした。
「模写しなさい」
「これは……?」
「察しが悪いわね! 回復の魔法陣よ!」
そう言われるとそう見える気がする。とりあえず肩の血を使って魔法陣を真似して描いた。
薬草を摘んで魔法陣へ。さっきと同じように無事に発動した。
肩の痛みもすっかり引いた。俺、これから回復魔法信仰しようかな。街の治療院とか出来るでしょこれ。
「ありがとうございます」
「き、気にしなくていいし……。私も庇って貰ったから……」
なんだこの幼女。ツンデレエルフとか王道か。
最高です。
「帰りましょうか」
幼女と連れ立って、街へと戻った。
「お、帰ってきたか。無事か?」
衛兵のおっさんと軽く挨拶をして街に入る。
「ちょっと待ちな」
入れなかった。
「悪いけど、入港証とか身分証欲しいんだよ」
持ってなかった。
「じゃあ、銀貨一枚だ。それが担保になる」
それも無かった。
「俺がやったやつはどうしちまったんだよ!?」
あの時のおっさんだった。申し訳ない。俺の回復魔法陣と入れ替わりになったんだ。
「なにやってんのよ」
エルフ幼女が呆れた目でこっちを睨んだ。お金が無いんだ。
「実は、無一文でして……」
「……あっきれた! それでどうやって街に入ったのよ」
「犯罪者として……」
前科一犯である。
「もう……。これ貸してあげるから、さっさと返しなさいよ」
「ありがとうございます」
幼女様にお金をめぐんで頂いて、街に入れた。
「それで? あんたは冒険者ギルドに行くの?」
「いえ、魔術師ギルドに行きます」
魔法を覚えるのが目的だったからね。
「は? あんた魔法使えないんでしょ?」
「その為の、魔法陣ですよ」
「そう……? まあ、いいわ。私も魔術師ギルドなのよ」
幼女とそのまま魔術師ギルドへ向かう。
「止まれ……ここから先は魔術師ギルドの管轄だ」
また魔術師ギルドの前で止められた。
「魔術師ギルドに入りに来ました」
「もう覚えたのか?」
男の人は不振そうに俺を見つめながら水晶玉を用意してくれた。
名前:花田 山太郎
性別:男
種族:人間
レベル:1
職業:無職
犯罪歴:不法侵入
スキル:『機械操作Lv4』『異国言語Lv1』『読書Lv3』『算術Lv5』『釣りLv2』『交渉Lv6』『料理Lv4』『水泳Lv2』『運転Lv4』『歴史Lv1』『医学Lv2』『魔法陣作成Lv1』
魔法は覚えてなかった。
「当然よ。だってあれは誰でも使える道具だもの。魔法陣は魔法スキルじゃないわ。技術じゃないもの。作ることは技術だけどね」
幼女が呆れた目で見つめてくる。やめてください興奮してしまいます。
「覚えていないじゃないか」
「魔法陣スキルじゃだめですか?」
「え? いや。うーん……」
また魔術師ギルドの受付っぽいおっさんが悩みだす。困らせてごめん。
だけど、これを逃すと俺もうここに入れないんだ。不法侵入しなきゃならなくなる。
「はぁ……。いいわよ。入れなさい」
「ですがっ。ミト様!」
「私の下で働かせる役でいいでしょ。ちょうど研究者と中間管理職欲しかったし」
ミト様と呼ばれた少女がこちらを向く。
「あなた、困っているでしょ? どう? 私の元で働かない?」
「喜んで奉仕させていただきます」
幼女の下で働くとか最高かよ。人間椅子は任せてくれ。中学時代に経験ありだ。
俺の剣幕に幼女が引いた顔をする。
「そ、そう……これからよろしくね」
こうして俺は、魔術師ギルドに入ったのだった。