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7話 キノコと野球と揺れる巨乳

「いけぇー! かっとばせー! ファイトー!」


 あれからは別段何事もなく時が進み、今は三、四限目連続の体育の授業。

 その為、男子女子ともに体操服に着替えて、校庭の脇にある野球場に集まっていた。


「精が出るな。橙乃って野球が好きだったか?」


「ううん、全然! でも、応援した方がみんな嬉しいでしょ?」

 俺を抱き抱えたまま、ベンチで腰掛けている橙乃もまた体操服に身を包んでいる。

 正直言って橙乃が体操服を着ると、ある一点がそれはもう凄い事になるので……男子からの羨望の視線がビシビシと突き刺さることになってしまう。


「いいよなぁ木之崎はさぁ……いつもアレを堪能しているんだぜ」


「全くだ。とんだラッキーキノコだよな……羨ましい」


 みるみると男子からの好感度が下がるのを感じながら、俺は横目にスコアボードを見る。

 この紅白戦はクラス全員で行う為に、少々特別なルールが設けられているのだ。


「あっ、スリーアウトだからチェンジだね。次で交代だよ」


「そろそろ出番か。うっし、針馬逹と勝負だな」


 そのルールとは、五回表の開始時に選手が全交代だという事。四十人近いクラスを紅白の二チームに分けたから、人数的にこれは仕方ないと言える。

 なのでこの試合は全八回。一回から四回までがAチームで、五回から最終回までがBチームで戦う事になる。つまり、Bチームの俺は次の五回から出場するってわけだ。


「紅組のBチームには江園君と眞城さんがいるねー」


「眞城は分からないけど、針馬は手ごわいぞ。気をつけていこう」


 対する白組はBチームに主力が集まっているんだが、それは向こうも同じだろう。

 針馬を筆頭に、野球部のエースや運動部の主力選手がちらほらと見える。


「よし、なんとか同点のまま繋げたぞ。後は頼んだぜ、木之崎!」


「任せてくれ。俺達で勝負を決めてやる!」


 一進一退の攻防を終えたAチームのピッチャーが、交代の印である白い鉢巻を俺に巻いてくれた。うーん。傘に上手く巻けず、茎に巻きつけられているのでマフラーみたいだ。


「頑張ろうね木之崎君! 私もやるだけやってくるよ!」


「ああ、一番は橙乃だったな。怪我しないように気を付けるんだぞ」


 普通なら一番は運動神経が優れた奴が選ばれるところだが、男子一同の熱い希望によって橙乃が選ばれる事になった。それがなぜかと言うと……見ていれば分かるさ。


「よぉーし、頑張っちゃうぞー! 手加減無しだからね!」


 ブカブカのヘルメットを被り、へっぴり腰で金属バットを構える橙乃。

 右利きなのに右のバッターボックスに入っているし、これは素人以前の問題だ。


「……行くよ、橙乃さん。僕の球に触れる事が出来るかな……?」


 それに比べて紅組のピッチャー、櫻井は我が校始まって以来の逸材と呼ばれている。なんでも、二年生にして球速は百五十キロで、投げられる変化球は五種を越えるそうだ。

 ではそんな怪物ピッチャーを相手に、あの橙乃がヒットを打てるのかどうか……


「なんとかバットに当てるんだから……えーいっ」


 カキーン、と一発。なんと出来るのである。

 ……当然だ。相手は下手投げの上に、ワザと打たれるように手加減しているのだから。


「橙乃、走れ! 内野ゴロだ!」


「わわわっ! 本当に当たっちゃったよぉ!」


 懸命に一塁へ走り出す橙乃とは裏腹に、ぽてぽてとボールはサード方面に転がっていく。

だが、紅組の内野は誰一人としてボールに近づこうとしない。 


「ワー、ウタレタゾー、コノボクガー」


「ナンテコトダー、ボールヲヒロワナキャー」


 棒読みの声を上げ、亀のようにノロノロと歩いている男子連中。この中でまともに試合に臨んでいるのは、外野に配置されている女子逹と針馬ぐらいだな。

 橙乃を一番に選んだ男子連中は、橙乃の走る姿に夢中のようだし。


「えっほ、えっほ! たぁーっ」


 揺れる揺れる。それはもう、揺れまくるわけですよ。

 重力に逆らい上に、右に、左に……あの巨大な胸がぶるんぶるんと。


「何をしているキサマら! 早くアウトにしろぉー!」 


 あまりの体たらくぶりに業を煮やした針馬が、遂に外野から全速力で走ってくる。

 この短時間でライトからよく頑張ったと褒めてやりたいが……針馬がボールを拾い上げた時には既に、橙乃は一塁ベースを踏んでいた。


「やったぁー! ヒットだよ木之崎くーん! 見ててくれたー?」

加減されていることなど露知らず、一塁から笑顔で俺に手を振る橙乃。


 ああ、見ていたよ。俺を含めて男子の大半がお前の胸を……ごめんなさい。


「ほんっと男子ってサイテーよね。橙乃さんが可哀想よ」


「キモイんですけどー。マジありえなーい」


 男子総がかりのスケベ協力プレイを間近にし、俺の後ろで愚痴っている女子の皆さん。

 恐らくは紅組側のベンチでも同じように、女子が男子を非難している事だろう。


「そうよそうよ! 見ていなかったのは江園君と木之崎君くらいじゃない!」


「やっぱり木之崎君って素敵だわー」


 うん。キノコには眼が無くてよかったと、俺は初めてそう思った。


「次は真面目にやるんだぞ! いいな! なんとしても白組に、丈人に勝つんだ!」


「分かってるよ江園君。これでも僕は野球部のエースなんだよ?」


 マウンド上の櫻井に詰め寄り、針馬が喚き散らしているのがここからでも見える。

 さて、相手もそろそろ全力を出してくるか?


「っしっ! イイモノを見せてもらったからね……ここからはおふざけ無しさ」


 俺の予想通り、次の打者が構えた途端に櫻井の目付き……纏う空気が豹変する。

 そこにいたのはもうスケベな野球少年ではなく、正真正銘の超高校級の野球選手だった。


「バッターアウト!」


 何が起きたのかも分からないほど、あっという間の三球三振。

 打者はボールに掠ることはおろか、バットを振る事すら出来なかった。


「おいおい、全力じゃねぇか!」


「卑怯だぞ櫻井! また打者を出さなきゃ橙乃が走らないだろー!」


 野球部として大人げのない櫻井の仕打ちに、白組の男子は猛抗議。


「は? 何ふざけた事を言ってるのよ男子……?」


「真剣勝負でしょ? 悔しかったら自力で打ってみなさいよ」


「「「「……ごもっともです」」」」


 だが、背後から感じる女子の冷たい視線を前にしては押し黙る他に無かったらしい。

 女子の言う通り、自力で打たないでご褒美を貰おうなんて虫がいい話だよな。


「くそっ、すまねぇみんな……何も出来なかった!」


 とかなんとか盛り上がっている間に二者連続三振となり、四番打者である俺の番が回ってきた。さて、エロ男子逹の期待に応えてやれるかどうか……

 俺は隣に座っていた男子にバットを持ってもらい、バッターボックスまでポインポインと歩いてゆく。うぇー、土が付くな……でも、アレはまだ温存しておきたいし。

今作はかなり昔に書いた作品のリマスターとなります。

それすなわち、ハードディスクの奥底に眠っていた黒歴史の大量放出。

もしお楽しみ頂けましたら、ブクマやポイント評価などお願いします!

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