49話 キノコとちょい漏らし
険しい山道を登り始めて、二十分ほどが経った頃。
最初の緩やかな道では呑気に歌ったり、しりとりをしたりしてはしゃいでいた【きのこ研究会】のメンバー逹だが、山の傾斜が段々とキツくなるごとに口数を減らしていった。
「こ、こんなに……しんどいなんて。体力には自信があったのに……」
「普通に歩くのとはコツが違うんだよ。体重を足全体に分散するんだ」
慣れない山道に加え、俺を抱えているとなれば……眞城の疲労は相当だ。
あの玩具の重火器を山の中に持ってこなくてよかったな。
まず間違いなく、途中で捨てて帰る羽目になっていた筈だ。
「あっ! ここにもキノコがあるよ! かっわいー!」
「食べてみるといい橙乃杏。ドクツルタケという毒キノコだ」
「ええええっ! 白くて天使さんみたいなのに……」
「猛毒。一本……食べれば、あの世行き……ひぇー」
一方、眞城以上に疲れそうなゴスロリの橙乃は、なぜか平気な顔でピンピンしている。
たまにああしてキノコを見つけると、喜々として採取しようと走っていく。運動神経は壊滅的なのに、体力と腕力だけは学年でもトップクラスだからな……橙乃。
「丈人君、これは食べられるキノコかしら?」
「ん? それは……ニガクリタケだな。毒があって食べられないぞ」
「なら、こっちの赤いのは?」
「タマゴタケ……かな。美味しいキノコなんだけど、毒キノコのタマゴテングタケと判別が難しいんだ。それは採らないでおいた方がいい」
「へぇ、難しいのね。キノコ狩りって……」
橙乃に負けじと、キノコ探しに奮闘していた眞城の足がピタッと止まる。
新たなキノコを見つけたのかと思ったが、そうではないらしい。
「はぁ……変な感じ。あんなに嫌っていたキノコを、こうやって採って回るなんて」
「優夢おねえちんは……キノコ嫌いなの?」
眞城の漏らした言葉に反応した丈美が、ふよよよっとこちらへ飛んでくる。
いつの間にか橙乃の元を離れて、自由に飛び回っているようだ。
「昔の話よ。それよりも、丈美ちゃんは飛んでばかりだけど疲れないの?」
「丈美はおにいちんと違って毎日練習してるもん」
えっへん! と自慢するように、空中でキノコ式浮遊術を見せつけてくる丈美。
まぁ……大層な名前の割には、コマのように素早く回転しているだけなんだが。
「力は俺の方が上だけど、持続力は丈美の圧勝なんだよ」
俺は百キロ以上の物体でも持ち上げられるが、丈美は元々の腕力相当でしか浮かばせることは出来ない。ただしその代わりとして、俺の三倍は能力を持続させていられるんだ。
「なんだかそう聞くとバトル漫画みたいね。丈人君も修行したら?」
「今夜で元に戻れたら、修行しようにも能力は無くなっちまうさ」
キノコになって一年間。サイコキノシスには随分と助けられてきた。
伝承に関する大きなヒントも残してくれたし、感謝してもしきれないな。
「……丈人。やはりどこかおかしいぞ……」
「どうした針馬? また何か見つけたのか?」
顎に手を当てて考え事をしていた針馬が、少し困惑した様子で俺に声を掛けてきた。
「さっきから毒キノコしか見かけていない上に、土を掘り返した跡が幾つかある。毒キノコを避けて、食用のキノコだけを採って行った人間がいるのかもしれん」
「先客さんがいるってこと? もう頂上に着いちゃってるのかなぁ?」
いや、先客の可能性は低い。というのも、雨上がりの山にわざわざキノコを採りに来るなんて……超上級者コースを登れるレベルの人間ならしないからだ。
あるとすれば俺達みたいに伝説を追っているか、よほど食い意地が張っているのだろう。
「……悩んだって仕方ないわ。先を急ぐわよ」
「眞城の言う通りだ。俺達の目当てはあくまであのキノコさ」
崖の下に生えていたし、普通にキノコ狩りに来た人は辿り着かない場所だ。あそこ以外に生えていた場合は先に採られているだろうが、危惧したところでどうしようもない。
「ええ、他のキノコ……わぁっと!」
と、ここでいきなり眞城が足を滑らせてコケそうになる。
寸前でバランスを取り戻したお陰で大事には至らなかったが、眞城に抱かれている俺もヒヤヒヤとしてしまった。びっくりしてサイコキノシスのフォローが遅れるとは……不覚。
「あっぶー! ツルっといっちゃったわ! 危うく出ちゃうところだったじゃない!」
「出ちゃう……? よく分からんが大丈夫か眞城? 岩場は滑るって言ったじゃないか」
履き慣らしてない軍靴だから余計に滑るというのに……いざって時には俺が助けないと。
「あはは、ごめんなさい。次からは注意するわ」
トントンと足のつま先を岩の上で鳴らして、眞城は徒歩を再開する。
下山するまでの間に、何事も無ければいいんだが……




