30話 キノコと顧問探し
テスト前に残された最後の猶予はあっという間に過ぎ、遂に訪れたテスト当日である月曜日。
俺と眞城、橙乃の三人は朝早くから職員室を訪れていた。
目的の人物は俺達の担任である独裁者系独身美人女教師、榎田慧先生だ。
「ということで、顧問になってください!」
「帰れ」
眞城が挨拶もそこそこにして、ケイ先生に【きのこ研究会】の話を持ちかけたのだが、結果はご覧の通り。身も蓋もなく、顧問の話は断られてしまった。
うん、だって相手がケイ先生だもん。絶対そうなるって。
「おい眞城、顧問の当てってケイ先生だったのかよ。いくらなんでも無茶だ」
いつもと同じく橙乃の胸に抱かれながら、俺は小声で眞城に話しかける。
しかし眞城はケイ先生に断られたことなど、意に介していないかのように余裕の微笑を崩さない。まさか、まだ勝算が残っているとでも……?
「つーかお前ら、テスト当日に何をトチ狂ってやがる。この時期に部活作りだぁ?」
「テストよりも大切なことってあると思うんです!」
「ねーよ。お前らのテストの点数が低ければ、こっちの評価が下がるんだよ。ケイ様の為に勉強することが、ケイ様の下僕たるお前らの重要な使命だ」
「ケイ先生、過激な発言は控えてください。また教頭先生に怒られますよ」
今も職員室の奥の方で、教頭先生がメガネを光らせてこちらを監視している。
しかしケイ先生はそんな視線もなんのその。椅子の背もたれに寄りかかり、ぐでーっとダラけきっている。心臓に毛が生えているってのは、こういうのを言うんだろうなぁ。
「話は終わりだ。お前らはさっさと教室に戻って、シコシコと最後の悪あがきをしてこい。それと、ケイ様の担当教科で赤点を取ったら殺すからな。補習で休みを潰されたくねぇし」
正直なのは美徳ですが、時と場所を選びましょうよケイ先生。
「優夢ちゃん、ケイ先生に頼むのはやっぱり無理だと思うよ?」
「諦めちゃダメよ杏。こっちには切り札があるんだから」
「あぁん? 言うじゃねぇか新入りぃ! このケイ様を篭絡しようってのか?」
背もたれから身を起こし、ケイ先生はぐちゃぐちゃに散らかっているデスクの上に手を置く。なんで教師のデスクにビールの空き缶や一升瓶があるんですかね……この人怖い。
「コホン。私達の作りたい部活は、榎田先生にとっても得になるモノだってことですよ」
「……なん、だと?」
「小耳に挟んだことですが、榎田先生はお酒のツマミにキノコ料理をご所望だそうで?」
そういえば前にそんなことを言っていたな。
揚げ物をアテにすると胃もたれするから、アッサリとしたツマミ類がいいんだとか……
「それがどうだっていうんだ?」
「いえ……【きのこ研究会】の発足が認められた暁には、部活動の一環として沢山のキノコを栽培し、先生に食べて頂くことも出来るのにと思いまして」
「……ほぅ? ケイ様を買収しようとは、お前も中々にワルだな新入りぃ」
魅力的な提案だったのか、ケイ先生は目の色を変えてヨダレを垂らしていた。
それを好機とみたらしく、畳み掛けるように眞城は次の言葉を続ける。
「それだけではありません。秋には部費で松茸狩りの合宿なんていかがでしょう? 合宿なので当然、学校から少しは補助金も出ますし……二泊三日の温泉ですよ?」
「松茸っ! 温泉宿! うっひょぉぉぉぃっ!」
眞城の甘言に乗せられ、有頂天になって喜び舞うケイ先生。
なんて恐ろしい交渉術だ。眞城の奴、悪魔の生まれ変わりに違いない。
「ハッハァー! 任せろお前逹、このケイ様が責任を持って【きのこ研究会】を立ち上げてやる! ちょうど今週末、キノコ狩りに行こうかとも思っていたしな!」
「きゃー! 榎田先生、素敵です!」
「やったね木之崎君! 部活が出来るよ!」
「そ、そうだな。部活が出来るんなら、過程や方法はどうでもいいか」
どうせ眞城の奴、合宿なんてする気は無いんだろうな。
こんな部活に補助金が下りるとも思えないし、そもそも眞城はキノコが嫌いだ。
「フフフ、ちょろいもんでしょ? こういうの、一度やってみたかったのよね」
こそっと、ケイ先生に聞こえないように耳打ちしてくる眞城。勉強は苦手なくせに、悪だくみすることに関しては才能が有り余っているらしい。
完全に味方に付いたと思われるケイ先生は、机の引き出しから一枚の紙を取り出して、スラスラと記入を始める。よく見てみると、それは部活を設立する際に使う申請書だった。
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