27話 キノコとテスト勉強
「さて、母さんも言っていたけど……もうすぐテストだな」
「うんっ! テストだねっ!」
「て、テスト……うっ!」
俺に見せる為に、いつも細かく綺麗にノートを取っている橙乃は学年でも成績上位だ。
しかし、この二年間……外面にスキルポイントを全振りしてきた眞城はというと。
「はぐはぐっ、テストが何よ! もぐっもぐぐ、成績なんかで、むしゃむしゃ、人間の価値は決まらないんだからぁっ! ごくっ!」
半泣きになってクッキーを貪り食っていた。ああ、対策は何もしていないんだな。
転校早々のテストだから、対策を練るもへったくれも無いっちゃ無いんだが……
「はむはぐっ……もっ、がっ……むうぐぐぐぐっ!」
「あーあー、一気にかきこむから。ほら、紅茶を飲め」
喉を抑えてドンドンと平たい胸を叩く眞城に、俺はサイコキノシスで持ち上げた紅茶を差し出す。くっ、液体が入っている物を浮かべるのは集中力を使うな……おっととっ!
「ありがっ……あちっ! あちゃちゃちゃっ! ホアチャーッ!」
「わわわっ! 優夢ちゃーん!」
宙に浮いたティーカップに対し、ダイレクトに口を付けようとした眞城。
当然のごとく紅茶は零れ、眞城の顔をビシャビシャに濡らす事になった。
「何をやってんだよ。普通はカップを受け取るだろ?」
「うぅっ……いいじゃない、丈人君に飲ませてもらいたかったのよぉ」
「あ、その気持ちはすっごく分かるかも!」
仮に俺が人間の姿でも、ティーカップに入った紅茶を飲ませてあげるわけ無いと思う。
二人羽織じゃないんだからさ。どうやっても失敗するビジョンしか見えない。
「前と違って、今日は優夢ちゃんが紅茶に濡れたねー! はい、タオル」
「ああ、あったわねそんな事も。ありがとう、杏」
「いつかのタオルから紅茶の匂いがしたのはそれか……」
手渡されたタオルで顔を拭う眞城を見ながら、数日前の記憶を遡る。
思えば、あの頃の素直じゃない眞城から……よくここまで変わったもんだよな。
ツンとデレの構成比が真逆になっていると言っても過言じゃないぞ。
「……まぁ、この後は眞城の勉強を見てやるって事で決まりだな」
「そうだね! 私達に任せて、優夢ちゃん!」
「丈人君、杏! ああ、私はなんていい友達を持ったのかしら!」
「テスト対策なら針馬も呼ぶか? アイツがいれば心強いけど」
「うーん。申し訳ないけどBL……江園君は結構よ。なんだか凄く嫌な予感がするもの」
クラスメイトと打ち解けてきた眞城でも、まだ針馬は苦手なのか。
アイツはまぁ、確かに特殊な奴だしな。無理して慣れさせる必要も無いだろう。
「江園君は木之崎君にライバル意識を燃やしているし、呼んでも来ないと思うよ?」
「どうだろうな。前のテスト期間中に誘った時は……」
下校前に呼び止めて、こう話しかけたんだっけ――?
~~回想中~~
「なぁ針馬! 俺の家でテスト勉強しないか?」
「俺がお前とテスト勉強だと? ふざけるな、俺達は敵同士なんだ。馴れ合うつもりなどない。しかし……丈人、お前がどうしてもこの俺と勉強がしたいと言うのなら、その、なんだ。俺としてもやぶさかではないと言っておく。俺はお前の苦手な分野を得意とし、お前は俺の苦手な分野を得意としている。つまり、俺達の相性はチョー抜群だと……」
「悪いな、無理やり誘って。橙乃あたりを誘ってみるよ」
「なん……だと? 待て丈人! 橙乃杏に騙されるな! 奴は魔女だ、悪魔だぞ!」
「じゃあな針馬。テスト、負けないからなー」
「待ってくれ丈人! 丈人? おい、丈人ぉ! 丈人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
~~回想終了~~
「てな具合だったな。途中、針馬が早口になってよく聞き取れなかったけど」
「へぇー? 江園君がそんな事を言ってたんだぁ……フフフッ、覚えておかなきゃ」
「なんにせよ針馬は頼れないんだ。俺逹だけで眞城をなんとかするんだ!」
「ちょっと! いくら本当のことだからって、人を足でまとい扱いしないでよ!」
本当のことならいいじゃないか。もしも赤点を取ったら補習なんだぞ。
「大体ね、私は頭の出来が悪いわけじゃないのよ。色々あって勉強の時間が取れなかっただけで、ちゃんと勉強さえすればテストごとき楽勝なの!」
「自信があるのは結構だけど、その勉強時間が残り二日しか無いわけで」
こういうのは日頃の努力が物を言う。付け焼刃の勉強で点数を取れるほど、高校のテストはあまくないと俺は思うんだけど……眞城の顔は余裕に満ち溢れていた。
「私を甘くみないで。いい? こんなテストに負ける私じゃないってところを見せてあげるわ! そう、私は絶対にテストなんかに屈しないわ! アハハハハッ!」
クッキーを片手に、高笑いする眞城。
これだけ言い切ったんだ。本当になんとかなるのかも――




