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22話 キノコを嫌いになったワケ

「元々私って、こんなに完璧な美人じゃなかったのよね。クラスに一人はいる、ぽっちゃりとした体型の……戦隊物でいうカレー好きのイエローポジションってやつかしら」


「うん……なんだか俺も、お前の性格が分かってきた気がするよ」


 前に眞城が自身を綺麗なバラに例えていた事があったけど、これも同じパターンだ。

 ふざけて誤魔化さないと、自分の過去を上手く話せないのだろう。


「こほん。とにかく、昔の私ってば……同年代の子の二倍くらいは体重があってね。おまけにこんなにもズバズバ物事を言う性格だから、それはもう嫌われまくりだったわけ」


「太っている眞城の姿は想像出来ないけど、その口ぶりだと相当なサイズだったんだな」


「まあね。でも、私がいじめられた理由は体型というより……髪型と名前の方なの」


「髪型と……名前?」


 青空のように澄み切ったアクアブルーの長髪はいじめの原因になりそうも無いし、眞城優夢という名前にも別におかしなところは無いと思うが……

 いや、待てよ? 眞城優夢……ましろ、ゆうむ?


「気付いた? 眞城優夢って何度も繰り返していると、ある英単語に似てくるの」


 ましろゆうむ。ましりょゆうむ。ましりゆうむ。ましりゅーむ。ましゅるーむ。


「まっしゅるーむ……あっ」


「そう。眞城優夢という名前には、マッシュルーム――つまりキノコが隠れているのよ」


 それはまさに、点と点が繋がった瞬間だった。


「名前だけじゃなく髪型もってことは……」


「うちの両親は……太って丸々としている私の事を、キノコみたいで可愛いからって理由でこんな名前を付けたのよ。しかも本格的にキノコに似せようと、髪型も強制的に……」


「うっ……!」


 みなまで言わなくとも分かる。芸能人に多い、あの髪型だろう。

 マッシュルームカット。美男美女がすれば似合う髪型だが、容姿に自信が無い者がするとお笑い芸人を彷彿とさせてしまう――難易度が高いアレだ。


「それはまた……独特な感性を持ったご両親をお持ちで」


「ええ、ホントに最低でね。おやつは毎日【キノコの森】だし、私が【タケノコの村】がいいって言っても、お母さんは【キノコの森】を買ってきたの……まるで悪夢だったわ」


「眞城はタケノコ派か……そりゃ、そんな目に遭えばそうなるよな」


 平成製菓から出ている多くのお菓子逹の中でも、その人気を二分すると言われているのが【キノコの森】と【タケノコの村】である。それぞれ、キノコとタケノコを模したチョコ菓子でどちらも美味しいのだが……ファン間の抗争が激しいことで有名なんだ。


「ただでさえ丸かったのに、チョコ菓子を食べ続けた結果……それはもう私の体重はとんでもないところにまで膨れ上がったのよ。許すまじ【キノコの森】!」


 現在のスレンダーな体型からは想像も付かないな。

 太っていた人が痩せる場合、多少なりとも胸に脂肪は残ると思うんだが……


「話を戻すけど、幼稚園くらいまでは軽い意地悪レベルだったの。でも、小学校辺りからキノコデブとか、キノコ女ってあだ名が付いて……無視されて、机に落書きされて……」


「なっ! お前も丈美と同じあだ名を……くそっ! 内面ならまだしも、名前なんて本人のせいじゃないだろ! 眞城が何をしたっていうんだよ……」


「ありがとう。一応は私も、変えられる部分は努力してきたんだけどね。髪型は勿論、ダイエットも頑張ったし……なるべく、キツイ性格を出さないように気を遣ってきたわ」


 でもダメだったの、と続けて眞城は大きく溜息を漏らす。一度定着してしまったイメージは本人がどう変わろうと、易々と覆せるものじゃないからな。


「そんなこんなで不登校になったのが、私が中学三年の頃よ。殆ど日中は自分の部屋にこもってパソコンでアニメを見て、それに出てくる人気者のヒロインに憧れて……真似をして。深夜になったら、ダイエットの為にランニング。美容や化粧、ファッションについても死に物狂いで勉強したわ。お陰で学校の勉強は……そっちのけだったけど」


 その二年近い努力の成果が、目の前の彼女なのだろう。

 誰もが羨む美貌に、転校初日に見せたお淑やかな姿。このレベルに到達するまでに、一体どれほどの血の滲む思いをしてきたのか……俺には想像もつかない。

 そして、その努力を無にしてしまったのは――この俺だ。


「昼はアニメ鑑賞と人気者になる為のトレーニングで、夜は外に走りに行く。食事も親に部屋へ運んでもらっていたから、テレビのニュースもろくに見てなかったのよね。だから、木之崎君の存在を微塵も知らなかったの」

 

「そういう事か。ああ、これでお前の不可解な言動の謎が解けたよ」


 キノコを毛嫌いしていたのは、自分がキノコに見立てられていじめられたから。

 つい最近まで俺の存在を知らずにいたのは、引きこもりだったから。

 今まで眞城が俺に見せた態度は、その二つを踏まえれば納得出来るものばかりだ。


「丈美の事情を聞いたお前が大ダメージを受けたのも頷けるよ。なんつうか、境遇が似過ぎていて……俺もビックリしてる」


 いじめられて引きこもりになったところも、その原因がキノコだというところも同じ。運命、なんて軽々しく口にしたくないが……こればかりはそう思わざるをえないな。


「ううん。私なんかと比べたら丈美ちゃんが可哀想よ。私の問題は努力でどうにか出来るレベルだったから今はこうしていられるけど……あの子の場合は……」


「おいおい。丈美のことは眞城が気にすることないって」


「気にするわよ。だってこんなの、どう考えたって運命だもの……ぽっ」


 眞城もまた、この奇跡的な偶然に何かを感じ取っているらしい。

 キノコになってしまった兄妹と、キノコ扱いをされていた女の出会い。

ただの偶然として済ませるには、あまりにも現実離れしすぎている。


「漫画やアニメでありそうな話だよな。人間がキノコになる時点で……」


「ふ、ふふっ……転校当初は……いがみ合っていた……悲運の二人……元に戻ったら……げひひっ、最高のカップルになれるってばよ……ぐぅいひひひっ!」


「おーい? 急に何を笑ってるんだ眞城? ちょっと気持ち悪いぞ」


「あっ、ううん。なんでもないの。独り言だから気にしないで」


 身に恐怖を覚えるほどの邪悪な笑みから一転して、爽やか美少女モードに移行する眞城。 

 凄くキュンキュンするけどさ、女の子の演技力の凄まじさに身が震えるよ。

 丈美や橙乃も裏ではこんな感じだったりするんだろうか……

 いや、やめておこう。知らぬが仏という言葉もある。

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