18話 キノコ博士じゃあないよ!
「……ほら、ホットミルクだ。ゆっくり飲めよ」
「うん……ありがとう」
眞城が俺の家の前で泣き喚いてから、数分の時が流れていた。
とりあえずご近所さんの目もあるので、俺は眞城を家の中に招き入れてリビングへと案内した。
そこでソファに座らせ、泣き止むまでの間にホットミルクを用意したってわけだ。
なぜ眞城が泣いてしまったのかは分からないけど、なんだか聞いてはいけない気もするし……かといって何も聞かずに帰らせるのも間違っているように思えてならない。
「ずずっ……美味しい」
「それはよかった。丈美にも、たまに作ってあげるんだ」
「丈美ちゃん……ね。あの子はどこにいるの?」
「自分の部屋にいるよ。その方が、お前も気が楽だろ?」
「ありがとう。正直、まだ理解が追いついてないもの……」
ホットミルクの入ったマグカップを握り締め、俯いたままの眞城。
俺、こういう暗い雰囲気は苦手なんだよなぁ……
「あー、母さんがいればもっとマシなもんを出してやれるんだけど……悪い」
「ううん、このホットミルクだけでも十分だわ。心まであったかくなれそう……」
「お、おう……そいつはよかったな」
失礼な事は重々承知しているが、しおらしい眞城はどこか気持ち悪い。
なんとか元気を取り戻して貰いたいけど、どう励ませばいいのやら……
普段女子を慰める時は大抵が失恋絡みだし……眞城はそういう悩みを抱えるタイプにも見えない。なら、前と同じようにクラスメイトと揉め事でも起こしたとか?
「ぷっ……ふふっ」
「え? 何がおかしいんだ?」
「だって木之崎君、今必死に私を慰める方法を考えてくれているんでしょ?」
「た、確かにそうだけど……なんで分かるんだよ?」
「なんでかしらね。ここのところずっと木之崎君を見つめ続けていたせいか……アナタの表情を読み取れるようになってきたのかも。あはは、それがおかしくって」
転校してきてから、ただの一度も見せたことの無かった眞城の笑顔。
彼女が美人だってこともあるが、そのあまりの美しさに……ただただ、俺は見惚れた。
「……まるでキノコ博士じゃないか。やっぱセンスあるよ、眞城」
「お生憎様、私はキノコなんて興味無いの。世界で一番大っ嫌いだし」
「嫌いだからこそ、分かるようになったって事か?」
「さぁね。あるいは……その逆かもね?」
赤く泣き腫らした瞼をパチっとウィンクさせて、眞城はチロリと舌を出す。
こ、コイツってこんなにあどけない奴だったっけ……?
なんだか、胸がドキドキするっていうか……眞城がスゲー可愛く見える。
「やーね、何を鼻の下伸ばしてるのよ」
「伸ばしてないっての。鼻なんてないし、それに俺はキノコだ」
「隠したって無駄。私には分かるんだから」
パタパタと手で顔を扇ぎながら、眞城は俺から顔を逸らす。
思ったより立ち直りは早そうだ。
この調子なら、もう帰らせてもよさげだけど……
「で、これからどうする? 母さんが帰ってくるまでいるなら、夕飯でもご馳走するぜ」
「そこまで長居する気はないけど……もしよければ、聞かせて欲しい事があるわ」
「聞かせて欲しい事?」
視線を戻した眞城の顔があまりにも真剣だったので、思わず身構える。
こんな言い方をするくらいだから、生半可な事じゃないのだろう。
「俺に答えられる事なら、なんだって聞いてくれよ」
「そう、じゃあ遠慮なく質問するわ」
眞城は最後まで躊躇っているようだった。
しかし俺が促すと、彼女は覚悟を決めた様子で……こう切り出す。
「アナタと妹さん……二人がどうして、そんな姿になったのかを知りたいの」
「俺と丈美が……? ああ、そこもまだ話していなかったか」
当事者の俺としてはそうかしこまるような話題でも無いんだけど、訊ねている眞城側からすれば、勇気のいる質問かもしれない。
さて、どこから話すべきか……?
「期待していたら悪いが、そこまで劇的な話でもないぞ?」
「構わないわよ。私は真実を知りたいだけだもの」
「真実ね。まぁ、真相って意味じゃ……俺もよく分かってないんだけどな」
眞城が納得のいく解答になるかはともかく、俺は自分の知る範囲で話す事にした。
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