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17話 増えるキノコ

「ふぃー。このままじゃ疲れるし、ショートカットしよっと」


 なんと木之崎君は高度を保ったまま、横断歩道の無い道路を渡って行ってしまう。

 宙に浮いているから車に轢かれる心配は無いんでしょうけど、そんなの反則だわ!


「こらぁー! ちゃんと交通ルールを守りなさいよっ!」


 ぐぬぬ、行き交う車の音が遮って聞こえていないみたい。

 この近くに道路を渡れるところは……ああもう、あんなに遠くの歩道橋しか無いの?

 しかもこうして迷ってる間に木之崎君はぐんぐん遠ざかっていくし……ええいままよ!


「だぁぁぁぁぁぁっ! 負けるもんですかぁぁぁぁっ!」


 百メートルは先にある歩道橋を目指して走り、階段を駆け上がり、通路を渡り、階段を降りる。また百メートルを走り、木之崎君が渡った先の歩道へと到着する。

 ここまでで約一分。ぜぇーっ、はぁーっ、陸上選手もビックリね……


「ひっひっふぅー、ひっひっふぅー……次はどこに行ったの?」


 呼吸を整えて斜め前方を見上げると、木之崎君の赤い傘が動いているのが目に止まる。

 今度は建物を無視して、最短距離で家に向かうつもりなのね。上等だわ!

 住宅地が入り組んでいて迷子になりそうだけど、こんな時にこそ最新式のスマホよ!


「位置情報を入力して、木之崎君が向かっている方角がこっちだから……」


 液晶に映し出されるアプリの地図で位置関係を把握し、追い付く為の最短ルートを選択する。

 これでしばらくは目を離しても大丈夫。後は先回りして計画を遂行するだけよ!


「ここを右……次を左、まっすぐ……右、右で、最後は左……」


 それからは大体、十分くらいは走り続けたかしら。

 もう全身は汗だくだし、足も疲れてきてヘロヘロ……彼の飛行スピードを考えれば、そろそろ追い抜かしていてもおかしくないのだけど。


「はぁ、はぁっ、ふぅ、ふぅーっ……」


 もしも追い抜かすことに成功していれば、彼と私がぶつかり合うのはこの辺り。

 私の予想が正しいのなら、三十秒もしない内に木之崎君がここに現れる筈だけど……


「ふんふふーん……うん? あれ、眞城?」


 来た! 風に揺られながら、ふよふよと移動してくる赤い飛行物体。

 空飛ぶ巨大キノコ――木之崎君は眼下の私に気が付いた様子でこちらに降りてきた。

 い、いよいよ作戦を結構する時ね!


「お前、こんなところで何をやってるんだ?」


「……こんなところって、別に私がどこにいてもいいでしょ?」


 地面スレスレまで降下してきた木之崎君に動揺を悟られないよう、私は平静を装う。落ち着くのよ、ちゃんと計画通りにやりさえすれば失敗なんて……


「どこにいてもって、ここは俺の家の前だぞ?」


「…………えっ?」


「なんだ、知らなかったのか? てっきり俺に用があるのかと思ったんだけど」


 この豪華な門構えの建物が木之崎君の家ですって……?

 じゃあ、木之崎君を家まで送って友達になるという、私の完全無欠の計画はもう――


「んん? 俺ってお前より早く帰ったよな? それに俺はショートカットもして……」


「う、うぅ……ぐすっ、ひぐぅっ……うぅぅぅぅっ」


「……はい? なんで泣いていらっしゃるんですか眞城さん?」


「うわぁぁぁぁぁっ……あんまりよぉぉぉ、頑張ったのにぃ……!」


 これでやっと木之崎君と友達になれると思ったのに、こんなのって最悪よ。


「お、お腹痛いのか? ぽんぽん痛むのか? なんならトイレ貸すぞ! なっ?」


「ずびびぃっ……うぐぅぅっ……ふぅ、ひっく、うぁぁぁぁぁん」


 ダメ、堪えようとしても……涙が止まらない。

 木之崎君が心配してる。急いで泣き止まなくちゃ…… 


「ごめん、なざい……わらひ、あのね……」


「おっかえりー、おにいちーん!」


「あ、ただいま。って、それどころじゃないんだ」


 嗚咽を飲み込み、瞳に溜まった涙を袖で拭う。

 ここで言わなきゃ、これまでの努力が全て無駄になる……だから!


「なんでー? あ、お客さんなのー?」


「まぁ、そんな感じだけど、今は取り込み中でさ」


「私は……木之崎君と、ともだ……ち……?」


 んあ? これは、どういう事かしら?


「……もう、一本?」


 涙でぼやけていた視界が段々と元に戻っていくにつれて、私の足元にいる木之崎君の姿がじわじわと二つに増えていく。

 しかも増えた方のキノコは赤地に白の水玉模様ではなく、紫地に白の水玉模様。

 サイズも隣の赤キノコに比べて、二回りほど小さいし……


「ねーねー、おにいちん。この綺麗な人はだぁれ?」


「ああ、えっと……前に話した転校生の眞城だよ」


 会話している。巨大なキノコとちょっと大きいキノコが向かい合って。

 え? なんで増えているの? 

 影分身の術でも使ったの? 

 忍者だったの木之崎君?

 俺はキノコになるんだってばよ? そうなの木之崎君? 


「ききき、き、木之崎君? その、もう一本のキノコって……?」


「そっか、眞城にはまだ話していなかったんだっけか」


 大キノコは中キノコの横に並び、揃って私の顔を見上げてくる。

 え? まさか……嘘、でしょ?


「コイツは俺の妹の丈美。俺と同じで、キノコになっちまったんだ」


「わーい! よろしくお願いしまーす!」 


「い、い……いやああああああああ増えたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 キノコに対する憎しみと復讐の心を乗り越えて、ようやく素直に木之崎君と友達になりたいと思えたのに――私の前に現れたのは新たなる衝撃だった。

 どうしてこうなるの! 私はただ、彼と仲良くしたいだけなのに!


「この世界は一体どうなってるのよぉぉぉぉぉっ!」

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