表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/56

16話 キノコには勝てなかったよ

「ケイ様は酒が何よりも好きだ! しかし酒に溺れる人間が泥沼に嵌っていくのを何度も見てきた……それが人生の縮図というもの! つう事で酒に慣れておけ木之崎ぃっ!」


「まるで意味が分からん。通訳してくれ丈人」


「俺に振るなよ針馬。原因はお前なんだからさ」


「きぃのぉさぁきぃっ! 観念して酒に漬かれぇぇっ! ほんの二日間だけだ!」


 二日間。明日から土日だし……一応授業の事は考えているのね、榎田先生。


「くっ! 先生相手にサイコキノシスは使うわけには……針馬、助けてくれ!」


「しょうがない。我がライバルにそこまで言わ……」


「どぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!」


「うわらばっ!」


 目にも止まらぬ榎田先生のラリアットを受けて、江園君はノックアウトされてしまった。

 教師が生徒に暴力を振るうなんて……木之崎君逹も何か言うべきよ。


「もうちょっと粘れよ」 


「ちょっと期待外れかなーって、思うなぁ」


 ああ、彼はそういう扱いなのね。じゃあ私は……ちょっと同情するわ。


「きぃぃぃのぉぉぉおさぁぁぁぁきぃぃぃぃっ!」


「ひぃぃぃっ!」


「やめてくださいケイ先生! 木之崎君が怯えています!」


「下がっていろ橙乃ぉっ! ケイ様の邪魔をする者は全てぶっ潰すのみ!」


 地面に倒れ伏した江園君をグリグリと踏み付けながら、榎田先生は一升瓶を高く掲げる。

 対する橙乃さんは胸に抱いていた木之崎君を床に下ろして、何かを囁いていた。


「なっ! 橙乃! 一人でケイ先生を止めるなんて、やめてくれ!」


「大丈夫だよ。私、木之崎君の為なら頑張れるから!」


 どうやら木之崎君だけを逃がし、橙乃さんが榎田先生を食い止める算段らしい。

 普通は立場が逆のような気もするけど、しょうがないわよね。キノコに守られて逃げる少女っていうのも……なんだかおかしいし。

 ただ問題は橙乃さんの運動神経。

 野球の時の彼女を思い出すと、運動が苦手そうだわ。

 あの江園君ですら歯が立たなかった榎田先生を相手に、橙乃さんが戦えるわけ……


「げっ! と、橙乃が……? ケイ様、それはよくないなーって思うぞ?」


 ん? なんだか榎田先生の様子がおかしいわ。

 それによく見ると、木之崎君も落ち着かない感じでそわそわと動いているし。


「私、木之崎君を守る為ならなんでもしますよ!」


「ちょ、待てっ! 落ち着けぇっ! お前の怪力でやられたら洒落に……ぎゃあああっ!」


 ツカツカと詰め寄った橙乃さんが、そのまま榎田先生の腕を掴んで押さえ付ける。

 榎田先生は抵抗を試みているけど、掴まれた腕を振り解くことは出来ずに成すがまま。

 あの痛がりようは尋常じゃない。橙乃さんのどこにそんな力が……?


「ギブギブギブッ! もうマジで無理ぃっ! 折れる、ケイ様の腕折れちゃうって!」 


「離しません! 木之崎君、今のうちに逃げて!」


「あ、ああ……手加減しておけよー」


 サイコキノシスを発動させたのか、ふわふわと浮遊して逃げ去っていく木之崎君。

 彼ってかなり重たいのに、よくああやって軽々と飛べるわね。


「重たい……? そういえば、この前持った時も結構な重さだったような……」


 低く見積もっても三キロは越えていたと思うし、五キロ近くあってもおかしくはない。

 そんな巨大なキノコを毎日のように抱き抱えて、お世話している橙乃さん。

 もしかして、彼女の腕力が強いのって……木之崎君を抱き運んでいるから?


「運動は苦手ですけど、力だけなら負けませんよー! むむむむーっ!」


「こ、この馬鹿力がぁぁぁぁぁぁっ! うにゃああああああいたいよぉぉぉっ!」


 ……巻き込まれると面倒そうね。

 私はそろりそろりと忍び足で下駄箱に近づくと、二人に気付かれずに靴を履き替える。


「っしょっと。それじゃ、お先に失礼しまーす」


 小さな挨拶を残して校舎を出た途端、榎田先生の悲鳴がピタリと止む。

橙乃さんが榎田先生の腕を離したのか、それとも仕留めてしまったのかは分からないけど、確かめに行く度胸は私には無かった。


「橙乃さんだけは敵に回しちゃいけないわね……」


 さぁて、騒動から逃げ切る事にも成功したし……このまま寄り道せずに帰ろうかしら。と、校門へ向かってゆっくり歩きだした私の目に、下校中の木之崎君の姿が映った。

 大勢の生徒逹の波を、三メートルくらいの高さで飛び越えていく木之崎君だけど……

 あの超能力だとそこまでスピードを出せないのか、実にスローなペースで移動している。

 あれじゃあ帰るのにとても時間が掛かりそうだわ。


「……木之崎君の下校? 今は木之崎君だけ……」


 もしかして、こ、これって大チャンスじゃない! 

 橙乃さんも江園君もいないし、下校の間は一人と一本で話せるわ!


「おっ、おち、おちん、落ち着くのよ私! べべ、別におかしな事じゃないもの!」


 いわゆるキノコ助けってやつよ! ほら、木之崎君ってサイコキノシスを使い過ぎると萎びちゃうみたいだし! 途中で力尽きちゃったら大変でしょ!

 だから、あくまで偶然を装って近づいて……横から声をかければいいのよ。

 そうしたらこんな風に――


~~妄想中~~


「あら木之崎君。飛んで帰るなんて大変そうね」


「眞城! 実は結構力を使っちゃってさ……もうしんどいんだ」


「へぇ? なら私が家まで運んであげてもいいわよ?」


「本当にいいのか? だってお前は……俺を嫌っていたんじゃ?」


「何よ水臭いわね。だったらこれからは私達……」


「私達……?」


「友達同士になればいいのよ。ま、私は別にどっちでもいいんだけどね」


「ありがとう眞城……愛してる! ずっと一緒にいてくれ!」


「ええ、私達。何があっても……ズッ友よ!」


~~妄想終了~~


「ヤバイ……私、天才かも」


 あまりにも隙が無い、完璧な計画に身が震える。

 どうしようこれ。小説化……いいえ、アニメ化だって夢じゃないわ。


「ぐうぇひひひひ……イける! イけるわよ私ぃ!」


 周囲の生徒逹数人が私を見て唖然としているけど、そんな事は気にしていられない。

 私は木之崎君を見失わないよう、全力疾走で後を追いかける事にした。

 こう見えて中学の頃はダイエットの為に毎晩十数キロはランニングを続けていたから、脚力には自信があるのよね。

 人混みをスルスルと躱し、校門の先にある歩道へと一気に駆け抜ける。

 彼に追いつくまで残り十メートル。

 もうすぐ横に並べる……と声を掛けようとした、その時。

キノコ派という方は是非、ブクマやポイント評価などお願いします!

たけのこ派や、すぎのこ派という方も是非、お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ