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13話 キノコの居ぬ間に仲直り

 橙乃さんと別れた後、木之崎君を捜す為に戻ってきた教室。

 てっきり、またあの時と同じように冷たい視線が待ち受けていると思っていたのだけれど……意外にも、教室に入った私を出迎えてくれたのは暖かな言葉だった。


「お帰りなさい眞城さん。食堂に行っていたの?」


「あ、え? うん……橙乃さん逹に誘われて」


「そうなんだ。じゃあ、今度は私達とも食べましょうよ」


 一人、二人と女子が私の元に寄ってきて、気が付けば私の周りには大勢の女子生徒が集まっている。それも全員がにこやかに話しかけてくれるなんて……

 え、なにこれ? 唐突なモテ期の到来なのかしら?


「今朝はごめんね。私達、少し言い過ぎちゃったみたいで」


「う、ううん。こっちこそ、変な態度を取ってごめんなさい」


「じゃあ、おあいこって事で。お互い気にしないようにしよう! そうしよう!」


「こら、そう簡単な話じゃないでしょ。ほんと、悪かったわね眞城さん」

 

 口々に謝罪の言葉をくれるクラスメイトに、私はなんだか拍子抜けしてしまう。

 こんなにもアッサリ、みんなと打ち解けられるとは思っていなかったから。


「あの、でもどうして……? あんなに怒っていたのに」


 聞かなくてもいい事なのに、つい気になって疑問を口に出す。

 だって、このままみんなと仲良くなれたとしても……薄気味悪く感じちゃうじゃない。


「えーっと。それは、その……」


「ある方に説得されたと言いますか……」


 やはりというべきか、何か裏があるようで女子逹は口篭る。

 これ以上追求しても、話がこじれるだけでしょうし……ひとまず納得したほうが得策ね。


「理由はもういいわ。みんながこうして話しかけてくれるだけで、十分だもの」


 誰にも口を利いて貰えず、孤独に過ごしていたあの頃に比べれば……


「ところで、木之崎君はどこにいるのかしら? 話があるんだけど」


 私は話題を逸らそうと、木之崎君の居場所を訊ねる。

 クラスの女子と親睦を深める事も魅力的だけど、本来の目的であるキノコの観察も果たさなければならないもの。


「木之崎君? 木之崎君なら男子逹を誘ってどこかに行ったわよ」


「江園君がサッカーボールを持っていたから、校庭だと思うな」


「へぇ、あの木之崎君がサッカーを……?」


 言われてみると、教室に男子は一人もいない事に気が付く。

 全員揃ってサッカーの試合でもしているのかしら? キノコにサッカーの試合が出来るわけなんてないと思うけど、アイツにはあのサイコキノシスとかいう変な力があるし……


「校庭なら、あそこの窓から見られそうね」


 この二年A組の教室は三階にあり、角度的にも問題なく校庭を見下ろせる。

 私は女子逹の間を抜けて窓際へ歩み寄ると、木之崎君逹の姿を探して外を覗き込んだ。


「ええっと……木之崎君は……あっ」


 校庭の片隅。黒い学ランの男子生徒逹が走り回る中で一際目立つ赤い姿。

 ボールに体当たりし、走り、果敢にゴールへと突っ込んでいくキノコがそこにいた。


「爽やかでカッコいいわよね、木之崎君。はぁっ……人気なのも頷けるわ」


 隣で同じように校庭を覗き込んでいた女子が、うっとりとした顔で言う。

よく見れば他の数人も似たような反応で、熱っぽい視線を木之崎君に送っている。


「そ、そうかもね。あんなに強烈なインパクトを持った男子には、出会った事が無いもの」


「本当は木之崎君がクラスで一番人気があるんだけど、橙乃さんがいるから」


「みんな諦めて、次点の江園君狙いなのよね。櫻井君も人気だけど、スケベだし」


「へぇー……彼って人気なんだ」


 どう考えても江園君を落とすより、橙乃さんから木之崎君を奪うことの方がハードル低いように思えるけど。だって江園君はBLメガネだし。

 というよりキノコが一番モテるだなんて、このクラスの男子は不甲斐ないわね!


「あ、木之崎君がサイコキノシュートをしたわ!」


「でも江園君に防がれたねー。あぁ、ライバル同士で激しくぶつかり合って……にゅふふ」


「木之崎君のシュートを受け止める江園君……これで今晩のオカズは決まりだわ」


「キノ×ハリなんて邪道でしょ! ハリ×キノ以外は認めないんだから!」


 いや、男子が悪いというよりは……これ、完全に女子の趣味の方に問題があるのかも。


「それにしても、アイツ……」


 ここからだとよく見えないけど、あのキノコはとても泥臭いプレイをしているように見える。まるで、大切な何かの為に戦っているような……

 なんてね。そんなの、一目見ただけで分かるわけがないわ。漫画じゃあるまいし。


「ねぇ、眞城さんもこっちで討論に参加しない? 結構盛り上がっているわよ」


「眞城さんの好みを聞かせて! 今度出す薄い本の参考にするから!」


 一つの机を囲み、カップリングの論争を繰り広げ出した女子逹が私を誘ってくる。

 話のテーマはともかく、ガールズトークに誘われるなんて光栄ね。以前の私からは考えられない、とても大きな進歩だと思う――でも。


「うん、是非とも参加したいんだけど……」


 今は……アイツの必死な姿を見ていたい。


「もう少しだけ、ここにいていいかしら?」


 砂煙が舞う校庭を駆ける、世界一大嫌いな筈なのに……世界一気になっちゃうキノコ。

 その姿を目に焼き付けるように、私は彼を観察し続けた。 

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