12話 キノコを巡って宣戦布告
「眞城さんはお昼休みどうする? 予定とかあるのかな?」
私が食べ終えた弁当箱を包みに戻していると、ニコニコと橙乃さんが訊ねてくる。
あれ、もしかしてこれって……誘われているのよね?
「まだ教室には戻らない方がいいと思うし……一緒に学校を探検でもしない?」
「うひっ! ほ、ほほっ、本当っ!?」
「うん! まだ分からない場所とかあるでしょ?」
こ、これはアレだわ! 遂に私にも……友達が出来たって事よ!
苦節十数年。いじめにいじめ抜かれたこの私にも初めての友達が――
「あり……」
……でも、本当にそれでいいのかしら?
橙乃さんの善意は嬉しいし、彼女と友達になりたいという気持ちは本物よ。
「あり? 蟻さん? 私はアリクイさんが好きだなぁ。ぺろぺろーって長い舌で蟻さんを食べるんだよ!」
「あ、えっと。今のは……」
でも、最初に声を掛けてくれたのは……
「……ごめんなさい」
「えっ?」
「少し、確かめたい事があるの」
橙乃さんの優しさを無下にするような真似をして、最低だと思う。
だけどもしここで彼女に甘えてしまえば、きっと私はアイツと向き合えなくなる。
「ほぇー、そうだったんだねー。ふむふむー」
嫌われるのは慣れているし、そもそも人に好かれた事だって殆ど無い。
なのに、胸の奥がズキズキと痛む。
私はどうして、こんなにも不器用なんだろうか。
「うぁっ……あの、えぇっと、私なんかが、偉そうに、ごめっ……」
「じゃあ、また今度! それまでに特製の紹介コースを作っておくよ!」
「えっ……?」
私は橙乃さんの言葉に耳を疑う。
だって、もう完全に嫌われたものだとばかり……
「それに今は木之崎君もいないし。やっぱり木之崎君は必要だよね!」
「い、いいの? 私、断ったのに……」
「ふぇ? 全然気にしてないよ。私だってよく、男の人からの誘いを断るから」
でも木之崎君だけは特別だよ、と続けて橙乃さんは私にウィンクをする。
妬ましいほどに可愛らしくて、お人好し。これが……彼女の魅力なのね。
「何か引っかかっている事があるなら、スッキリさせなきゃ」
「橙乃さん……ありがとう」
何から何まで、橙乃さんにはお見通しなのかもしれない。
私がアイツに興味を抱いている事や、仲良くなりたいと思っている事も。
「あっ、でもね眞城さん……一つだけ、いいかな?」
緊張で渇いてしまった喉を水筒の紅茶で潤していると、橙乃さんがもじもじと上目遣いで私の顔を覗き込んでくる。
嫌ね、飲んでいるところをそんなに見られると恥ずか……
「木之崎君の事を好きになってもいいけど……私、負けないからね」
「ぶふぅぅぅぅっ!」
「ひゃあっ! 紅茶が目にぃー! うにぃぁーっ!」
プロレスの毒霧攻撃のように高出力で噴射された紅茶が、容赦なく橙乃さんを襲う。
あぁ、モロに喰らって悶絶しちゃってる……でも、こればっかりは仕方ないわ。
「な、なななななんておぞましい事を言うのよ!」
「うぅぅっ……そんなに驚くほど、おぞましい?」
傍らの鞄から取り出したタオルで顔を拭い、橙乃さんは首を傾げている。
「おぞましいわ。私がキノコに好意を抱くなんて、考えただけでも恐ろしいもの」
友情が芽生えるならともかく、恋心なんてナンセンス。生物学的にも、キノコに惚れるなんて非生産的過ぎるし、何より私はキノコが大っ嫌いなのよ!
「いい? 私が木之崎君に惚れるなんて、ありっこないわ」
「うーん、本当かなぁ……?」
「ええ、本当よ」
私がいじめられる原因を作ったのはキノコ。それを許すなんて出来るもんですか。
この気持ちがある限り、キノコに心を奪われるなんて事は起きようがない。
「私がキノコに……木之崎君に惚れるなんて! ありえないわ!」
大見得を切り、私は橙乃さんを相手に宣言する。
だって私の目標はあくまで友達を作って学校生活を楽しむ事だもの。それがこじれて恋の修羅場に発展するなんてオカルト現象が起きるなんて……まさか、ね。
「それじゃあ、また後で会いましょう」
気まずい話をはぐらかすように、私は席を立って食堂から離れる事に決めた。
目指すのはあのキノコ――木之崎丈人がいる場所。
「行ってらっしゃい! 木之崎君は渡さないからねー!」
背後から聞こえる、宣戦布告の声。
私は手を上げてそれに応えると……振り返らずに食堂を後にした。
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