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10話 キノコとお友達

「一つだけ分からないのよ」


「え? 何がだ?」


「アンタの正体が宇宙人じゃなかったとしても、普通の人間なら私みたいに受け入れないでしょ? なのにアンタはクラスの人気者……これが分からないの」


 悔しそうに下唇を噛み締め、眞城はさらに続ける。


「私がどれだけ頑張っても、みんな陰で悪口を言ってた。私だって変わろうと頑張ったわよ! でもダメだった……だから、だから死に物狂いで自分を変えて……綺麗になって!」


「眞城? お前、まさか前の学校で……?」


「ふざけないでよ……やっと、普通の学校生活が送れる筈だったのに……」


 季節外れの転校だから何かあるとは思っていたけど、この様子だとやはりそうなのか?

 最初の猫かぶりといい、ほぼ確定ってところだが……触れない方がいいだろうな。


「ごめん。何があったかは聞かないでおく」


「ふんっ、キノコのくせに……生意気ね」


 ゴシゴシと体操服の袖で瞼を擦る眞城に申し訳なさを覚えながらも、俺は言葉を紡ぐ。

 ここで逃げていちゃ、いつまで経っても分かり合えないだろうから。


「いいか眞城。別に俺はみんなに、キノコの俺を認めてもらったわけじゃないんだ」


「キノコの俺? 何よ、その言い方だとアンタは……えっ? もしかして?」


「ああ。俺は元々こんなキノコの体じゃなかったんだよ。キノコになったのは今から大体一年前……俺がまだ一年生だった頃なんだ」


 つまり、みんなの俺に対する信頼の大半は人間時に築かれたものって事だ。


「だから俺がキノコになった時も……時間はかかったけどちゃんと認めてくれたんだよ」


「嘘っ! 人間がキノコになったなんて、ありえない!」


「ありえないのは喋るキノコも同じだろ。俺の存在が証拠さ」


 俺がどうしてキノコになってしまったのか。

その全てを語るには少々回りくどい話が必要となるんだけど、眞城はそこには興味が無いのか……問い詰めてくる素振りを見せない。


「なんなら、他の奴に聞いて回るか?」


「……いいわ、ひとまず信じてあげる。アンタ、嘘は吐かなそうだし……」


 内心で入り乱れる複雑な想いを絞り出すように、眞城はそう呟いた。


「でも、だからってアンタを許すつもりはこれっぽっちも無いわ。アンタのせいで私はみんなに目の敵にされて、私のぼっちライフが続く事になったんだから」


「そうは言われても、俺はお前に歩み寄ろうとしたんだけどな」


 有無を言わずに拒絶され、目の敵にされたのは俺の方だと思う。

 まぁ、眞城の気持ちも分かるから強く言えないが……


「何よ、私が前の学校でなんて呼ばれていたか知らないくせに」


「なんだ? まさかお前も……キノコと呼ばれていたのか?」


「……当たらずも遠からずってところよ」


 それでキノコの俺に対して辛辣だったわけか。

つっても、眞城にキノコ要素なんてどこにもない。

まな板娘とかなら分かるけどなぁ。


「ま、なんでもいいや。ここでお前をそう呼ぶ奴はいないし、いたとしても関係無いか」


「関係無い? アンタ、他人事だからって好き放題に言わないでくれる?」


 苛立たしげに語気を荒げ、眞城が俺を睨みつける。

 そのまま蹴飛ばされてはかなわないので、俺は慌てて補足する事にした。


「そうじゃない。お前がどう呼ばれようと俺は気にしないし、仲良くしたいんだよ」


「え? 私と、仲良くですって……?」


「ああ。お互いに腹を割って話したんだし、もう片意地を張る事も無いだろ?」


 一限目後の休み時間にも誓ったことだが、俺は眞城と和解して……クラスに馴染めるようにしてやりたい。それは何も、俺が原因で彼女がクラスで避けられるようになったからだとか、騒がしい橙乃と針馬の二人を落ち着かせたいって理由だけではなく――


「俺はお前と友達になりたいんだ。よければ、友達になってくれないか?」


 眞城優夢という少女が、俺にとって初めて正面からぶつかり合ってくれた存在だからだ。

自分の素直な気持ちを隠さずに話してくれたし、最終的な目的はどうあれ、俺の事を分かろうと努力していた。その純粋な気持ちに、俺は惹かれたのかもな。


「とも、だち……? 私と? あんなに、酷い事を言ったのに?」


 ヒクヒクと口角を引き攣らせて、眞城は俺の言葉に目を丸くしている。

 やっぱり、こんな急に言われても戸惑っちまうよな。


「そんなのもう気にしてないって。それとも、こんなキノコ野郎じゃダメか?」


「ち、ちがっ! そうじゃなくて! 嬉し過ぎ……でもなくてっ!」


 俺がしゅんと項垂れると、眞城は取り乱したように両手を振って暴れ始める。

 よく分からないが、そこまで嫌われているわけじゃなさそうだと……俺が安心した途端。


「……なんなのよ! なんでなのよ! イイ奴じゃない、初めての友達になってくれそうじゃない! なのに、なんで、キノコなのよぉぉっ!」


「ま、眞城? 大丈夫か?」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ! もうわけわかんなぁぁぁぁぁいっ!」


 何かがキレてしまったのか……眞城は俺を置いたまま、脇目も振らずに走り去っていく。

 その際に彼女の頬を伝う涙の雫が宙を舞い、地面へと吸い込まれていくのを俺は見逃さなかった。うわぁ……やっちまったかな、これ。


「木之崎くぅーん? こっちにいるのー? わわっ、眞城さん? どうかしたの?」


「貴様、丈人をどこに……なんだと! なぜ泣いている!」


「ばーかばーか! キノコ好きの変人共! 私はそうならないんだからぁぁっ!」


 あーあ。ここから見えないが、校庭の方から最悪な会話が聞こえてきた。内容から想像するに、逃げ出した眞城と俺を捜していた橙乃逹が鉢合わせしてしまったらしい。


「これでまた話がこじれるってわけか……面倒にならなきゃいいけど」


 追いかけたいのは山々だが、とてもじゃないがそんな気分にはなれなかった。

 眞城に悪気が無いことなんて分かるのに、それでも気にしてしまう自分がいる。


「……なんでキノコなのよ、か」


 もしも俺があの日、キノコにならずにこの場所にいたら。

 俺と眞城は普通に出会い、仲良くなって、友達になれたのだろうか――


「俺が聞きたいよ、そんなこと」


 吐露した弱音は、誰にも届かずに消えていった。

 今の俺はただのキノコ。その現実から逃げる事は、決して出来ないのだから。


今作はかなり昔に書いた作品のリマスターとなります。

それすなわち、ハードディスクの奥底に眠っていた黒歴史の大量放出。

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