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もう忘れるくらい昔の話だ。同胞が新たな通路を掘っていると、「面白いものを見つけた」と騒ぎだした。見ればそれは黒い円形で、三本の針が不確定な方向、速さで永遠に回り続ける奇妙なものだった。
「なんで回っているんだろう」
と私が言うと、
「これは未来からの知らせだ。これが止まったとき、何かが起こることは間違いない」
同胞は、何の根拠もなしに嬉しそうに言った。
我々はそれをオーパーツと名付けた。黒いオーパーツを嬉しそうに通りかかるすべての人に見せびらかす同胞の背中は、あたかも「未来を予言できる」と語っているように見えた。根拠のない空言に、誰もが半信半疑だったものの、軽快に飛び跳ねながら自慢する姿を見ていれば、誰しも空言なんてどうでもいいことのように思えた。
今思えば、「空言」を見つけてしまった時点で、それはもう「空言」ではなくなってしまっていたのだ。
「止まった! 止まっちまった! 三本の針が重なった! いい知らせだ、いい知らせが来る!」
次の日、同胞はその出来事を身の高ぶりを押えられない様子で皆に伝え、皆、それを自分のことのように喜んだ。「宴だ宴!」と騒ぎだしながら酒盛りをする長老や、数十人で掌を結んで、長老を囲みながら踊り出す者たちもいた。
そんな最中、私は傍観者と化していた。普段は内気ではないのに、このときばかりかは騒ぐ、叫ぶといった彼らとの間に壁を作ってそれを自ら感じていた。
ただの気まぐれだった。何か言い表せるような理由はない。ただ何となく、言うなれば天邪鬼がセンチメンタルになったとでも表現しておこうか。嫉みが閉じていた扉から顔を出してきたようで、私はその場を離れて蜘蛛の巣の中へと入って行った。否、逃れた。
通路へ入り十回程度足を踏むと、同胞がオーパーツを見つけたという場所にたどり着いた。新しい通路を掘っていた途中のようで、土の匂いがじっとりと鼻を刺す。スコップで傷つけた土の壁に、私は迷うことなく自分の感情をぶつけた。ざらざらとした幾千もの突起を、私の右拳の側面が捉える。物にこの嫉妬をぶつけるのは皆目見当違いだ。我に返って撫でるように意味もなく土に触れ、その柔らかさに些細な感嘆を抱いていると、かすかに「チッチッチッ」という微動音が聞こえた。不思議に思ったのは束の間で、気がつけば手には赤い円形型の固形が握られていた。針は――。
程なくして重音を五感で感じ取った。肺や頭蓋骨に直接響くような鈍音。奇声。雑踏音。何事かと思うが、肌を通して伝わってくる恐怖心が、私をただそこにうずくませるので精一杯にした。誰か来て欲しい。怖い。誰か来い。来て。そんな望みはあっけなく砕かれる。私の手に握られていたそれが、三つとも上を指したまま、動きを止めていた。
赤のオーパーツは、私の身体を取り込んでしまったみたいだった。




